第62話 練人の意地
「はああ!」
俺は剣を振るって蛇女に切り掛かる。
「ふふふ!」
蛇女は余裕そうに腕で剣を弾き、逸らす。
やはり、思ったよりも硬い。
「そら、よそ見するんじゃないわよ!」
蛇女は背後から、
尻尾を伸ばして俺を突こうとする。
「ぐっ!」
剣で弾き、受け流す。
「そらそら!」
尻尾だけではなく、
両手を使って胴体を攻撃する。
俺はあえて受ける。
「!?」
剣で攻撃しても傷つかないだけで、
別に蛇女の攻撃力が高いわけではない。
流石に蛇女も、
オルド・ドラゴンの鎧を貫くことはできなかったようだ。
「硬い!?」
「《マジック・ウェポン》!
せい!」
剣にはすでにマジック・ウェポンを使っているが、
さらに重ねがけをする。
「ぐっ!」
すると、一回だけでは傷を入れられなかった剣で、
ダメージを与えることができた。
(よし!
重ね掛けできる!)
他の魔法では何が起きるのかわからないが、
少なくとも強化系統の魔法なら重ね掛けができる。
俺としては十分な収穫で希望だ。
「舐めるな!
傷をつけられるようになっただけだ!」
「ぐっ!」
鎧を纏っているところでは、
ダメージが入らないと理解した蛇女がすることは早かった。
鎧に覆われていない頭部を狙ってきた。
攻撃を剣で防ぐ。
やはり、蛇女は強い。
俺より強いかも知れない。
だが、だからこそ有利な点もある。
「づ!」
もし、今の状況でサイレンが敵対してたら、
蛇女は必ずベンガスを人質に使う。
強い奴を正面から戦おうという気概はないだろう。
生きることが大事なら品の良い戦いはしない。
むしろ、積極的に人質を使って、
行動を制限してじわじわと攻め続ける。
サイレンといえど結末は悪いことになる。
負ければ餌として食われるか、あるいは……
仮に勝ったとしても、
恐らくは人質の命を交換した結果になる。
そうなれば、サイレンは責任を感じて嫌な気分になる。
自分のせいだと思えば人は必ず弱くなる。
「そらそら!」
「ぐっ!」
だからこそ、今は有利なんだ。
蛇女が人質作戦をしないのは、
俺相手にする必要がないほどに弱いと見られているから。
勝てる相手に人質戦法で戦えばプライドが傷つく。
重ね掛けできて傷つけられると、
確信した時に蛇女は舐めるなと言った。
つまり、卑怯な手を使うが、
プライドも平均以上に高いことの証明になる。
だからこそ、チャンスであり、
今のチャンスは時間制限付きでもある。
蛇女を追い詰め過ぎれば彼女は迷いなく人質を襲う。
エネルギー吸収だったり、
人質に気を取られている間に殺したりなどだ。
「えい!」
「っ!」
蛇女の右頬を切って血を流させる。
人質戦法をさせずに、
蛇女を倒すには色んな方法がある。
首を刎ねての一撃必殺。
ベンガス達を人質として使う余裕をなくさせる連続攻撃。
動きを封じてからの封殺。
だが、サイレンならまだしも、
今の俺に前述の方法は持ち合わせていない。
可能にさせる方法は一つ。
今の戦いで成長して習得すること。
「余裕だね!
考えながら私とやり合おうなんて!」
「ぐっ!」
剣が下からくるりと、
回転させられて飛ばされてしまう。
「ああっ!」
「ハハハ!
死ね!」
武器を失った俺を倒せるのは容易。
確信した蛇女は邪悪な笑みを浮かべて攻撃を仕掛ける。
「おっと!」
俺は少し後退して転がる。
「くくく、無駄なこと!」
追撃しようと蛇女は腕を振り上げて俺の頭部を狙う。
「《ドロー》!」
「!?」
蛇女の背後から、
斧が引き寄せられる。
「……!
死体の武器か!
小癪な!」
蛇女は両手を使って斧を受け止める。
受け止めている間に俺は蛇女の側面に回る。
「おっと、剣は拾わせないわよ!」
蛇女は尻尾を使って、
剣を拾うとする俺を妨害した。
「そう来ると思ったわ」
「……何?」
「おや?
わからない?
俺はあえて剣を飛ばしてやったんだぜ」
「ーーえ?」
「《ドロー》」
蛇女が動揺している隙に、
ドローして槍を引き寄せた。
勢いがついたこともあり、
尻尾の先端を少しだけ貫き飛ばした。
「づあ!」
「《マジック・ウェポン》!
二連続!」
「ぎゃああ!」
痛みで怯んでいる隙に、
槍に魔力を連続で通して強化する。
持っている槍で突き始める。
「お、お前が持っている槍は……!
覚えている!
食った奴が装備していた槍だ!
だ、だが、何故!?
何故、お前が有利な方に向けてあった!?」
「俺より強いんやから、
少し考えんか!」
「づあ!」
蛇女は片手を貫かれて痛みで顔が歪む。
「……ま、まさか!
き、貴様!
遺体を調べるフリをして……
私がいつ襲い掛かってもいいように、
準備をしていたな!
自分が有利になるように、
武器の向きを変えさせていたな」
「ようやく気付いたな!」
「ふざけるな!」
「くっ!」
蛇女は勢いよく尻尾を振り回して、
槍を弾き飛ばす。
「甘いわ!」
「《ドロー》!」
蛇女は手刀を繰り出そうとしたが、
弾き飛ばされたと同時に別のものを引き寄せた。
引き寄せた物は盾。
「た、盾も!?
邪魔だ!」
蛇女は横に振り払って盾をどかした。
「……!?
い、いない!
練人はーー」
「はっ!」
まだマジック・ウェポンの効力が残っていた剣を拾って、
蛇女の背中を切った。
「グアアアア!」
「す、すげえ……」
「蛇女を翻弄してやがる!」
「《マジック・ウェポン》!」
靴にもマジック・ウェポンを使う。
「よ、よくも!」
「えい!」
「ぐっ!」
蛇女の腹に一発蹴りをお見舞いした。
「せい!」
「くっ!」
蛇女は両手をクロスして剣を受け止める。
「えいや!」
剣を受け止められたと、
同時にもう一度腹を蹴る。
「がっ!
女性の腹に蹴りを叩き込むなんて!」
「食おうとしとんのに贅沢言うなや!
食うんやったら痛い目は覚悟しときぃや!
「ぎっ!」
剣を振りかぶり、
再び蛇女は腕を使って防御するがフェイント。
隙だらけの場所を剣で切り裂く。
「ぎゃっ!」
(やはり、強いわ。
さっきから色々やっとるが、
急所を命中させる隙を与えんわ。
ダメージは与えとるが、
今のまま人質作戦使われるで!)
今の戦い方に難点がある。
色々やると言うことは動き回ると言うこと。
徐々に俺の体力も減らされているってことになる。
「……!
ま、まずい」
「な、何が?」
「さっきから攻撃しても蛇女は余裕そうだ。
対して練人の額から汗が流れている。
息も荒くなってきた。
つまり、今のままいけば動きは鈍くなるのは必須!」
「そ、それじゃ」
「ジリ貧だ……
今のまま戦っても、
奴に対抗できる手段がなければ、
すぐに負ける」
「そ、そんな……」
「だ、だったら動きを抑えて少しでも回復させれば」
「……回復なんてすれば蛇女は俺達を食い始める。
練人は俺達を襲わせないために、
体力を無視して戦っているんだ」
「……っ!
な、なんで……
アイツ、バカだろ……
俺達は……
俺達は練人をバカにしたのに……
今だって、俺達が煽って来させたのに……
なんでアイツが俺達を守るんだよ!」
「動け……
動け!
動いてくれよ、俺の体!」
「グアっ!」
蛇女の攻撃で吹き飛ばされて倒れてしまう。
咄嗟に鎧でガードしたから衝撃以外のダメージはないが、
ヤバくなってきた。
「ははは!
ようやく転んだね!」
蛇女は次々と尻尾で俺を貫こうとする。
尻尾攻撃をごろごろと転がって必死で避ける。
「ぐっ!
《シャイン》!」
「ぐっ!
め、目眩し!」
「はぁはぁ……!」
蛇女の目が眩んでいる間に、
俺は急いで離れる。
苦しい。
肺はもう空気がないと言うように、
頭に呼吸しろと命令してくる。
口と鼻を全力で使って呼吸をするが、
今でも遣わされている。
「も、もういい!
俺達を助けようとするな!
逃げろ!」
「俺はお前が嫌いだった!
お前も嫌いなんだろ!
だから、もういいんだよ!」
「同じこと言わせんなや!
サイレンの仲間として、
見捨てて逃げる真似せぇへんわ!」
「くくく、泣かせるわね……
けど、もう遅いわ……
私を必要以上コケにした……
お前を殺す!」
殺すと宣言した以上、
もう余力を残す意味はない。
一つだけ考えついた方法がある。
一か八かの賭けだが、
成功させなければどの道、死ぬ。
死ぬのは嫌だが、
残された手は一つだけしかない以上使うしかない。
「死ね〜〜〜!」
尻尾を勢いよく突き出して俺を刺そうとした。
俺は横に躱した後、
剣をしっかりと握り全力で走る。
「無駄よ!
お前では私の鱗は切り裂けない!」
魔力が悲鳴をあげる。
体が魔力が尽きようとしていると警告する。
警告を無視して魔力を使う。
「《ダブル・マジック・ウェポン》!
四倍だ〜〜〜〜!!!!」
「なっ!?」
二回マジック・ウェポンを掛けた剣に、
さらに魔力を二回重ねる。
魔力を一気に使ったため、
目眩したがやることに変わりはない。
俺は勢いよくカウンターで剣を振り落とす。
「ーーっ!」
威力までは防ぐことはできず、
蛇女の右腕を切断。
そして心臓も含む胴体も切断して振り落とし切った。
「ゴフッ!」
蛇女は吐血して、
目が驚嘆に染まる。
「「……」」
そして、静寂が訪れる。
三人は何も言わず、
俺達も何も喋ることはなかった。
「……」
蛇女は残った手で自身の血を見た。
「……まさか、私が……
お前にやられるとはな」
「……っ」
息を荒くしたいが、
我慢して彼女の話を聞く。
「……再度聞こう。
お前の名は?」
「……練人」
「そうか……
練人か……
まさか、弱い人間に私が殺されるとはな。
ギリギリもギリギリ……
何回も重ね掛けをするとは無茶をする……
もはや、原初魔法一回だけしか魔力残されていない」
「……」
「……だが……
だからこそ……
だろうな……
初めて正々堂々と戦ったような気がする。
正々堂々と戦うのは馬鹿らしい。
弱所を突いて生き延びて生を謳歌する。
正々堂々戦う者は須くバカだと思っていた……」
蛇女は感慨深そうに語る。
「……だが、弱いお前に人質を使ったら流石に恥だ。
そう思って戦ったが、
簡単に殺されてはくれぬ。
殺せたと思ったら策でするりと躱され……
見捨てるだろうなと思ったら見捨てずに向かって……
知恵と勇気のある者か……
誇るが良い……
お前はたった一人で私を倒したのだ」
「……お前の名は?」
「……【ラミア】だ。
聞くのが遅い、馬鹿者め」
だが、ラミアは楽しそうに笑った。
「……ふっ、いや……
中々に楽しめたぞ」
そう言ってラミアは余裕を崩さずに、
楽しそうに息を引き取った。
ボスが倒された蛇は怯えて一斉に逃げ出した。
「……少し待ってろ……
救助呼んでくる」
「え……」
俺はよろよろと歩き出す。
最早、魔力はない。
イナミに戻る体力もない。
彼らを運ぶ体力も筋力もない。
ならば、原初魔法で狼煙をあげて救助を待つ方がいい。
少なくとも、サイレンなら洞窟に来てくれるだろう。
「……殺された人達はギルドに任せる」
剣から魔力が消えた。
そして、元の強度と元の切れ味に戻った。
「……お疲れ様」
俺は引きずるように歩き、
洞窟の外に出た。
出た間に調べるが、
今の洞窟はもぬけの殻で、
外敵はいなくなっていた。
外に出た俺は枝を拾った。
「《ファイア》」
そして、今日最後の原初魔法を使って、
焚き火を起こした。
「もう……
疲れたわ」
ずるずると岩壁に沿って膝を崩す。
そして、目を閉じる。
目を閉じている間、
思った以上に時間が経ったのだろう。
複数の足音が聞こえる。
「……いた!
練人!
大丈夫か!」
サイレンがギルド職員などを連れてきたようだ。
「ナイスタイミングや……
サイレン」
「え?」
「……洞窟の奥で、
他の三人が毒にやられて麻痺った」
そう言ってギルド職員に、
ラミアの麻痺毒が入った瓶を渡す。
「蛇女……
ラミアは倒せた。
洞窟の奥にぎょうさんの死体があるさかい、
身元とか調べてくれへんか」
「ちょ、ちょっと待ってください!
では……
練人さんだけで戦ったのですか?」
「ああ……
三人は生きとる……
せやから、後の事は任せたわ」
「……無茶をする」
「せやな……
けど、俺もお前の仲間として恥じひんように戦ったわ」
「練人……」
「……あかん、もう眠くなってもうたわ」
「……典型的な魔力不足だ……
死ぬことはない」
「さよか……
聞いて安心した……
わ……」
「……!?
練人!」
そして、俺はバッタリと倒れて、
眠りについた。
でも、全ての力を使って戦った。
思いの外……
気持ちが良かった。




