第59話 挑発
「ーーで~~」
「確かにありますね。
でーー」
俺は今、受付嬢と話をしていた。
世間話や、気を惹かせるための会話でもない。
冒険者にとっては関係のない話だろう。
でも、聞かざるを得なかった。
簡単に言えば“取材”である。
「……なるほど」
「練人さんって不思議なことを聞くのですね」
受付嬢は意外そうに呟いた。
確かに俺が聞いたことは、
普通の冒険者なら聞かないことである。
「ええ……
でも、小説のために必要なことだったので」
「そうですか。
また気になることがあれば、
いつでも相談しに来てください。
後よろしければ、私にも読ませてくだいさいね」
「はい。
どうもありがとうございました」
そして、俺はサイレンが座っている場所に戻った。
「……で、何だったんだ?
受付の人に内緒で聞きたいことって」
「そりゃ、内緒や。
せっかく書く決心したからな」
「……カナイチシリーズか?」
「せや。
何か波に乗っとる気がするからな。
今の流れを途切れさせるわけにもいかん。
思い込みかも知れへんが……」
「……練人が言っては、弱気の言葉に引っ張られるぞ」
「せ、せやな」
「……では、いつも通り、
何を書くのか期待しておこう」
「おおきに、サイレン」
まあ、使えるネタと思ったのは二年前だけどな。
ニュースで見て、ある映画を見て、
やってみようと思っていた。
ただ、元の世界だとやはり監視カメラとかもあるし、
やろうと思えば電子機器も使える。
橋とかを落としても空から救助ヘリとかが来てしまう。
俺が書こうとしている作品だとどうしても穴が出てしまう。
だが、サイレンの世界なら、
そういう展開になったとしても制限をかけやすいものだ。
サイレンやリシアのような凄い人は来ていないし、
魔法で何でも解決するとは限らない。
今回の設定はサイレンだけ聞くには、
不確定要素が多い。
だから、少し勇気を出して取材をしたのである。
「メリ?」
エアリーは不思議そうに首を傾げた。
「……そういえば、エアリーのために絵本を買っとるんやが、
絵本を読ませて大丈夫なんか?」
「ああ……
メリボーは子供並みの知能がある。
本を読むことに慣れれば賢い魔獣になれる可能性はあるさ」
「力を上げたい場合はトレーニング、
持久力を上げたい場合はマラソンと言った具合か……
ほんで、魔獣ごとに伸びやすいもんがある」
「そうだ……
メリボーは力が弱く、
フワフワと常に浮いているから走りもしない。
基本的にはペットにするか、
簡単な使い魔にする冒険者も多いんだ」
ようやくゲームらしい要素が出てきた。
確かに魔獣を鍛えようと思うのなら、ゲームっぽいと思う。
「なるほどのぅ」
まあ、エアリーを戦わせるかどうかは、
置いておくとしてだ。
できることが増えるのは悪いことではない。
できることが増えれば選択肢も増えることになるからだ。
エアリーも嫌がっていないし、大丈夫だろう。
「ほんで、今回はどんな依頼を受けるんや?」
「……実は今日はめぼしい依頼がなくてな」
「そうなんか?」
依頼書を見ると確かに、
時期のために普段よりも報酬金が減っている依頼ばかりで、
稼ぎになるような依頼は皆無だった。
「すまんな、俺が取材したせいか?」
「いや……
私が確認した時点で、
そうだったから今日はそういう日だろう」
「さよか……
まあ、受けられなくても連泊はもうしとるし、
食いぱっぐれることはあらへんわな。
……こういう時は他の冒険者は何しとるんや?」
「そうだな……
基本的に他のパーティーと交流するか、
特訓するかバイトをするかだろうな」
「バイトあるんか」
「ああ……
何だったら趣味に時間を使う冒険者も珍しくない」
「……ほんなら、小説を書くのに使うか、
特訓のどれかやろうな」
「……練人の予定だ。
……リーダーとしても、
仲間の時間をきちんとしておきたい」
「ほんじゃ、ネタも確保したし、
今のうちに書いておくとするかのぅ」
「……ならば、私は他の女性冒険者と交流しておこう」
「グループ?」
「ああ……
話していて悪い感じはしないからな」
グループというと、
ツインテールしている女性冒険者と、
ポニーテールしている女性冒険者と、
短髪でのんびりとしている感じの女性冒険者の方だろう。
ポニーテールをしている女性冒険者は魔術師で、
リシアとも交流しているサイレンに尊敬の念を抱いている。
もう一人のツインテールをしている女性冒険者は、
強い女性を目指しているからか、
強いサイレンに尊敬の念を抱いている。
短髪はのんびりとしていて他の二人に可愛がられている。
「エアリーも行きたかったら、
行ってもええで」
「メリ?
メリ!」
サイレンの後をエアリーはついて行く。
「……今日はフリーになった」
「え?
ホント?
いいの?」
「じゃあ、カフェで話さない?
色々聞きたいし!」
「そうね!
せっかくだし、今日は女子会しない?」
「私、いいお店知ってるの」
「……わかった。
……エアリーもいいか?」
「もちもち!
エアリーちゃん、可愛いし!」
「彼氏はいいの?」
「……?
……彼氏?
……誰のことだ?」
「練人くんのことだよ」
「……?」
ギルドを出たサイレンも含める女性冒険者達。
「……ほんなら、
俺も宿に戻ってーー」
「はっ!
いいよな、勝ち組は」
すると、声が聞こえた。
「どうせ、あの美人さんにおんぶに抱っこだろ?」
「かなり強い魔術師が一緒なんだ。
そりゃ、飯に困らねえだろうな」
典型的な陰口が聞こえる。
他の冒険者は呆れた様子であり、
“ああ、またか”
と言った感じだ。
俺としてもサイレンよりも遥かに弱いことは事実だし、
怒る理由はない。
気にせずに宿に戻ろうとした。
「へっ!
どうせ、サイレンっていう魔術師と、
毎晩よろしくやってんじゃねえの?」
「でなきゃ、玉無し、男じゃねえよな」
気にしない気にしない。
噂はだいぶ前にあったし、
気にしては毎日喧嘩する羽目になる。
「てか、冒険者なのに小説書きたいって何だよ」
「どうせ、陰キャ、暗い性格だろうよ」
「読んでも大したことなさそうだな。
小説を楽しみにしているサイレンも浅いよな」
「……何やと?」
俺は鋭い目で男性冒険者を睨んだ。
俺はともかくサイレンをバカにするのは、
流石に我慢ならない。
「おっ、気に障ったか?」
男達はニヤニヤとこちらを見ていた。
「気に障るに決まっとるやろ。
俺はともかく仲間を侮辱しやがって、
何様のつもりや」
「ふん、変な言葉遣いしやがって」
「どうせ、ドラゴンの鎧も今までの戦いもサイレンに抱っこだろ?」
「はっ、陰口を叩くってことは、
そっくりそのまま、
あんたらに効くってことやろ?
何せ陰口ってのは自分が言われたら、
怒ることを相手なら怒るやろうなと思って言うんやからな。
つまり、陰キャも男らしくない玉無しも、
弱いこともお前らに効くっつことや」
「何だと!」
「おっ、怒るんか?
自分達は平気で相手を侮辱するのに、
逆に言われたらプッツンとするんかいな。
俺以上にガキっぽいのぅ」
「の野郎!」
そう言って掴み掛かろうとするが、
一人の男性冒険者は止めた。
「偉そう言うんだったら、受けるだろ」
「何やと?」
「今から俺達は洞窟の依頼を受けるからよ、
合同で受けようじゃねえか。
もちろん、魔術師抜きでだ。
お前の実力を確かめてやるからよ」
「俺にメリットあらへんやろ」
「なんだ?
逃げるのか?」
「もしくは、魔術師と一緒じゃないと受けないのか?
坊や?」
「できらぁ!」
ついに挑発に負けて受けてしまった。
自分でも単純過ぎるでしょ、
と思わざるを得ないと思う。
「なら、見せてもらおうか」
「へへ、精々無様な姿を晒すなよ」
「晒したら言いふらしてやる」
彼らは明らかに、
俺が無様に負けて泣き出すことを、
決めつけている奴の言い分だ。
だが、言われたら言い返す主義。
「はっ!
要するにお前らは楽して金欲しいだけやんか」
「あ?」
「お前らだけやと金が多く手に入る依頼は怖くてできひん。
せやから俺におんぶに抱っこしようと思っとるんやろ?」
「誰が、お前なんかにーー!」
「さっきの言い方やと戦う気ないんやろ?
こっちはそう思っても不思議やないで。
あんたらに信頼も信用もあらへん。
そう疑惑を向けるのは当然やろ」
三人が三人ともピクピクと筋を動かしていた。
「俺だけ活躍したらお前らは非難ばっかする腰抜けって言うだけや。
やっとることは乞食のようなもん、
金は恵んでやるから感謝しぃや、寄生虫!」
「このっ!」
「俺に偉そうに言ったんや。
言われる覚悟しときぃや。
頭悪そうやし本自体読まんやろ。
読めるかどうかもわからへんわ」
「ちっ……」
そう言って俺達は受付嬢のところに向かった。
「そういう訳だ。
練人と一緒に依頼を受けるぜ。
合同依頼って奴だ」
「……本当によろしいのですか?」
ギルドとしても心配だろう。
何せギスギスしていて、協調性も何もないのだから。
依頼が失敗する可能性はもちろん、
全滅して全員死ぬ事態も想定している。
受理したらギルドとしても責任があるだろう。
「あいつも了承したんだ。
問題ないだろ」
「……わかりました。
ご武運を……」
止めたい気持ちもあるように見えるけど、
互いに合意した以上は死ぬ可能性は、
各冒険者自己責任扱いになる。
覚悟の上で俺も受けたんだ。
つまり、今回の依頼において、
俺はサイレンなどの力を借りることなく、
一人で戦わないといけないことになった。
(あそこまでバカにされて黙っていられるかってんだ!)
「……【ベンガス】さん、
【ヨシモリ】さん、
【クヨイチ】さん、
練人さんの合同依頼を受理しました。
報酬金は四分割にするようにしておきますね」
そして、俺達は良い印象を持てずに…
依頼を受けることになった。
とにかく、俺は警戒はしておく。
よくあるパターンとして、
事故に見せ掛けて俺を殺そうとすることだ。
人はやる気になれば人を簡単に殺せる。
ただ、俺も大声で彼らに言い返した。
仮に俺が殺されて死体となって見つかっても、
あるいは行方不明になってもすぐに問いただすだろうし、
ギルド職員もすぐに調査する。
サイレンも黙っていない。
最悪なパターンに対する最低限の保険は取った。




