第58話 小説作家の苦労
「……今日も雨降ってんな」
「ああ……」
サイレンも流石に雨降っている時に、
依頼を受けるつもりはないためか本を読んでいる。
「……【ゴミ屋敷殺人事件】完結したわ」
「……次の話が楽しみだな」
「お、おう……」
「メリ~」
エアリーはサイレンに抱かれたままのんびりしている。
「次の話はアドランが中心で書きたいわ」
「……カナイチの幼馴染のか?」
「せやな。
グラットン・ベアもそうやったし、
ゴミ屋敷もそうやったんやけど、
俺としてはどことなくキャラが薄く思えてな」
「……確かにな。
カナイチが探偵のような冒険者だからな。
通常戦闘よりも推理が目立つ。
普通の冒険小説と比べると活躍できる機会が減るさ」
「せやな」
「……練人が書いた話もそろそろ百を越えるだろ」
「後数話でな。
まあ、成長しとる気はないんやけどな」
百話書いているが、
でも、まだまだ小説家としては未熟者だ。
「……私は悪くないと思うのだがな」
「そりゃ、サイレンに褒められるんは嬉しいんやがな。
でも、感想欲しいのは作家として当たり前なんや」
「……そう言えば、私が練人の世界に行った時に、
どうなるか考えていると言っただろ?
実際にどうするつもりだったんだ?」
「せやな……
考えることが多いんやけどな」
「……考えること?」
「まずは戸籍や」
「……戸籍……
冒険者登録みたいなものか」
「せやせや。
正直、戸籍ってどうやってやるんか、
よくわかってへんねん」
戸籍の時点でリアルがない。
十六歳で戸籍を気にしても、
どうやって調べればいいのかよくわからない。
「他の作品を利用するんやったら、
人に混乱系統の魔法を書けて、
無理矢理サイレンの戸籍を登録する方法もある」
「……混乱魔法か」
「せや。
あれば、使うし、
なければオリジナル魔法として入れる。
次に問題は金や」
「……そうだな。
練人も私の世界で無一文になって大変だと度々言っていたな」
「ほんで、俺が生きれたんはラッキーな部分が多いねん」
「……私の場合、
練人が私の世界に来たように、
私が持っていたものを練人がいた世界のものに、
変換すればいいのではないのか?」
「サイレン、見た目も全部変えたいん?」
「……杖、ローブ、とんがり帽子は残しておきたい」
「せやろうな。
まあ、サイレンの持っている金次第やけど、
サイレンの世界の一デラルは俺の世界の百円になっとるから、
俺の推測を基準にすればええ。
いざとなればオリジナルとして変身魔法にしとくし」
「……変身魔法か」
例えば杖を短くさせて今の服を収納。
敵と戦う時に解除して元の姿に戻るなど。
特撮やそういうアニメではよくあることだ。
「……んで、サイレンが戸籍、
金を解決したとしても学校はどないするとか、
行かへんのやったら仕事もするんとか色々考えなあかんねん」
俺の時と同じように両親や友達といった類はいないだろう。
サイレンの年齢で学校に行かないのは変だし、
フリーの仕事をするとしても世間の目も気になるところだ。
俺と行動して、
俺は小説を書くことを目的にするだろうから、
俺との繋がりも気にしないといけない。
後は学校に行かないと言うことは、
学校に起きるエピソードも実質カットだ。
勿体ないと思う自分がいる。
「……サイレンと関わるような人物にも考えんといかんしな。
日本におる時の名前は決めとるんやけどな」
「……名前?
練人の世界での私の名前はどうなんだ?」
「矢島 彩蓮とかな」
「……ふむ。
練人と似たような名前だな」
キラキラネームもあることだし、
名前でも十分平気だ。
「……後はサイレンが魔法を使うための理由付けや、
辻褄が合う設定も考えなあかん」
「……考えることが多いな」
「せやな。
今までの話は逆異世界転移と呼ばれるんやけど、
難しい点でもあるんや」
メリットならサイレンが町を散策する話や、
ゲームをやる話、
サイレンの世界では味わえない、
俺の世界のことなどネタが豊富である。
だが、矛盾がないようにするための設定、
(衣食住や戸籍、お金など)、
移動手段、
戦闘など気にしないといけない部分も多くある。
「……小説家も大変だな」
「ネタは自分で集めんといかんしな」
まあ、サイレンが俺の世界で、
ゲーム実況やる展開なども考えてはいた。
「……サイレン、もしこの世界がレベル制で、
才能があろうが最初からレベル一やったらどうするん?」
「……最初からか……
そうなれば一緒に成長はしたいな。
最初から弱いが戦い、経験を得て仲間と一緒に強くなる。
楽しいと私は思う」
「サイレンらしいわ。
リシアも加えるん?」
「……そうだな。
私もライバルであり、
親友でもあるリシアがいないと退屈だ」
何だろう、逆異世界でも、
リシアが金持ち設定になりそうだ。
「……リシアは怒るだろうが、
仲間として加えるかもな」
リシアの場合は怒っても、
ツンデレ要素が多いだろうな。
「……練人はレベルとやらが良かったのか?」
「まあ、俺の世界に転移物語や転生物語が多いから、
最初は驚いたけどな。
何一つチートなかったんやし……」
「……ちーと?」
「せやな。
最初弱い自分をサイレンの世界で、
何とかするためにめっちゃ強い武器とか、
スキルとか得ることや。
かなり強い竜でも一発で倒せる武器とか」
「……だが、ちーと?
を奪われれば脆いのではないのか?」
「めっちゃ脆いな。
まあ、おもろい作品も多いけどな。
後はザマア系や悪役令嬢とか多いな」
「……ああ、逆転劇ってことか。
……私はあまり読まないな」
「俺も内容は知っとるけどな。
詳しいのかと聞かれたら詳しくあらへんわ」
何で大変なリアルな世界で暗くなりやすいのに、
わざわざ本を読んで嫌な気持ちにならないといけないのか、
と思うとどうしてもな。
加えて数が多いから、
流行に乗りそうで気乗りはしない。
「とは言っても設定が酷い物語を書くことにも意義はある」
「……意義?」
「せやなぁ……
一つ目は書いてもあくまで創作物や。
リアルではないからいくらキャラが酷い目に遭っても、
リアルまでは影響はない。
影響が完全にないとは言えんのが悲しいけどな」
「……一つ目と言うことは他にもあるのか?」
「せや。
他には、
“何故こんな悲劇になってしまったんだ”
と読者に考えてくれればその作品は無駄やない。
俺も嫌いな言葉があるんやけど、
嫌な気持ちは今までの作品とか、
アニメを見て読んで構築されたんやし」
「……嫌いな言葉?」
「諺で言うんやったら……
狡兎死して走狗煮らる」
「…… 狡兎死して走狗煮らるの意味は?」
「すばしっこいウサギが死ねば、
猟犬は不要になる。
せやから煮て食われる。
このことから、価値がある時は大事にされて、
なくなれば簡単に捨てられる。
犬だけやのうて人にも適用されてな……
ある時は助けてくれと泣いて頼み込むんやけど、
危機が過ぎればあっさりと捨て去って疎む奴がおってしまう。
そう言うのが大嫌いなんや」
「……そうか」
「まあ、俺やったら、
んなふざけたことはせぇへんし、
やられたらさっさと去るわ。
んなことをする奴の近くにいてやる気もあらへん。
ずっといても不利益被るし、
義理は果たしたから文句言われる筋合いはあらへんわ」
俺は本当にそう言う性質も持っており、
いたくないと思えばあっさりと手を切る。
手を切ることをワガママと言われても気にしない。
俺の道は俺が決めて進む。
「……私も一つの場所に留まりたくはないな。
留まるのなら故郷がいい」
「……まあ、そう教訓できる作品があったら、
教訓が自分の道筋になるわ」
「……ならば、練人が書く小説は、
いずれ誰かの道になるかも知れないな」
「そう言われると責任重大やな。
書くのは好きやから辞める気はあらへんけどな」
「……そうだな。
パーティーの注意事項にもしておくか?」
「せんでもええ。
類は友を呼ぶ。
俺達が何も言わへんでも、
俺らが一緒にいたいと思う奴やったら、
自然とそう言う人やろうし」
「……そうかもな」
まあ、今までの会話で今日の話は書ける。
カットされるかも知れないが、
カットされることを気にして書かないのも、
もったいない話だ。




