第54話 巨大幼虫
「うわっ……」
俺達が見た光景は異様なものだった。
多くの巨大な幼虫が葉っぱを食べたり。
枝に纏わり付いたりしている。
「軽くトラウマになるんやないか?」
緑色の芋虫でたくさん蠢いている。
毛虫ではないようだが、
幼虫を放っておけば葉っぱが食い尽くされる。
「……虫型魔獣は卵が多いから、
増えやすいのは知っていたが……」
サイレンも少し驚いたように呟いた。
依頼も一体倒すごとに五十デラル、
報酬金も四百デラルといった感じだったが、
駆除したい気持ちはよくわかる。
「目の前におる芋虫、
毒とか持っていたり、
雑食とかやったりしないやろうか?」
創作物で大抵の昆虫は毒を持っていて武器にしていたり、
雑食で人間の肉を食べる個体もいるから油断はできない。
「……こいつは【ビッグ・モス】。
幼虫はまだ毒を持っていないが、
成長した個体の羽には鱗粉があり、
毒はないが目を眩ませるには十分だ。
ウォーター程度の水で洗い流せるが……
人肉を食べたというの報告もされていないな」
「さ、さよか」
ビッグ・モスなだけあって、
大きさはチワワぐらいの大きさがある。
可愛さは天と地ほどの違いがあるが。
「……練人は平気か?」
「安心せい。
芋虫は平気や。
カブトムシの幼虫を育てたりするしな」
「……なるほど。
カブトムシが好きなのは、
他の男性冒険者と変わらないんだな」
「あ、今おる世界にもおるん?
カブトムシの幼虫の雄雌の見分け方は簡単でな、
腹の部分に黒いVがあれば雄、
なければ雌になるんや」
「……雌雄の見分け方法は知らなかったな」
「コオロギやカマキリも飼っとったから、
割と詳しいで。
カマキリはもう二度と育てたくないけどな」
「……何故だ?」
「カマキリの餌って虫やん」
「……そうだな」
「ほんで、飼う以上餌をやらんといかんやん」
「……そうだな」
「ちっちゃい頃、
バッタとか蝶を捕まえて餌として与えたんや。
ほんで、捕食の時に見てもうたんや」
「……何を?」
「頭からぼりぼり食べるカマキリの姿と、
食われて悶えるバッタの姿……
しかも、血が出るところも見てな……
緑やったわ」
「……練人のトラウマを小説に書くのだろ?
いいのか?」
「俺の小説には、
過激な表現の描写があると、
通告しとるし平気やろ」
「……平気なのか?」
「せやけど、
危険なことは変わらんな。
虫は繁殖能力が高い分捕食者に狙われやすい。
しかも、他の魔獣がタンパク質を取ろうと思ったら、
すぐに手に入りやすい」
つまり、放置すれば野菜などに、
被害が出るだけではなく、
強力な捕食者がやってくることに繋がる。
「……ああ。
強力な魔獣を呼び寄せる餌になる」
「……ちなみに今おる世界に、
昆虫食という概念ある?」
「……あるな。
食べたことはないが……」
「せやろうな」
さっきも書いたように、
昆虫は繁殖能力が高く、
手軽にタンパク質が取れる。
つまり人間にも食べる人がいることになる。
日本ではイナゴの佃煮とかあるだろうけど、
俺にとっては馴染みのない文化だ。
書いている今でも想像しただけで青くなってくる。
「薬の材料や武具の素材とか使ったりする?」
「……するな」
「するんか~……
サイレンはしたい?」
「……試したいという気持ちはあるが、
できれば遠慮したいな」
「ま、まあ、好奇心はあるわな」
俺もテレビとかで蜂の子とかを、
美味しそうに食べるところを見て、
少し食べてみたいと思うことはあるし。
同時にできれば食べたくないという気持ちもあるが。
「……まあ、お喋りも終わりにするか」
鞘から剣を出す。
そして、容赦なくビッグ・モスの幼虫を倒す。
幼虫だけあって容易く倒すことができ、抵抗らしい抵抗はしない。
「うぅ……
幼虫も可愛いと思う時もあるが、
中々堪えるで」
「……可愛いか?
《シャイニング・ショット》」
サイレンは淡々と光の散弾で、
丁寧にビッグ・モスを一体ずつ倒す。
シャイニング・ショットを、
受けたビッグ・モスはバタバタと倒される。
「うげ……
まだまだおるわ」
「……ビッグ・モスは百個の卵を産むらしいからな」
「捕食されない限りは百体の、
ビッグ・モスが出てくるってことかいな」
「……成虫しても安心はできない。
鱗粉が通用しない魔獣は普通にいるし、
虫なら関係なく捕食する魔獣はたくさんいる」
「せやろうな」
「……倒すのが嫌なら捕獲するのもありだな」
「……餌にするんか?
もしくは昆虫食する奴いたりするん?」
「……ペットの餌の他にも、
釣りのための撒き餌とかに使う場合もある。
聞いた話だと海辺なら虫の餌は売れると聞いたことがあるな」
「……そりゃ昆虫は海に住めへんからな」
気門という穴があるから海に入ったら呼吸はできないし、
虫の外骨格は酸素でできているから、
カニやエビと違って海に適応はできないなどの問題点がある。
昆虫は無数にいるが、
弱点も相応に多いのだ。
「うおっと!」
すると、反撃のつもりなのか、
幼虫の口から糸が吐き出された。
多くの幼虫が吐くためすぐに森に覆われる。
「……糸って利用したりするん?
シルクとか糸やん?」
「……利用しようとする人も少なくない。
だが、魔獣を家畜するのなら、
実力者とかでない限りは虫の養殖家は難しいな」
まあ、魔獣が魔獣を捕食する以上、
家畜化するにはリスクが多い。
使い道は多いと言うが、
引き寄せるだけの危険も多いことになる。
「……今の我々のランクでは関係のない話だ。
加えて私は冒険者と魔術師以外の道は興味はない。
養殖家の道に行くことはないだろう」
サイレンは糸を避けながら、
シャイニング・ショットで幼虫を撃ち抜く。
「あっさりしとるで、ほんまに」
俺も幼虫の駆除を続ける。
可哀想なことだが、
倒す覚悟がなければ、
そもそも受けなければいいだけの話。
依頼を受けた以上はの倒して殺す覚悟を持って、
依頼を受けるのは当然の話だ。
「……せい」
でも、弱い魔獣だからか、
すぐに目に見える範囲の幼虫を倒すことができた。
「ふぅ〜……
大体十六体くらい倒したんやけど」
小説では文字だけだから大丈夫だが、
絵面としてはかなり悪い。
ビッグ・モスの死骸が転がっているし、
ビッグ・モスの緑色の血も流れている.
人によっては悲鳴をあげたくなるほどの地獄絵図だ。
「……他の冒険者が見たら悲鳴あげるんやない?」
カメムシだけで大慌てしていた以上、
今の光景は見たくないだろう。
「……かも知れないな。
……耐えて仕事をするギルド職員には頭が下がるな」
俺達が語り合っていると、
空から何かが通り過ぎた。
「……え?」
何かが降りると草陰に向かって突いた。
突いた場所には、
隠れていたビッグ・モスがいて食べていた。
「いっ!」
一体は丸呑みだが、
もう一体は広いところに放り投げて、
目を先に突いて食べる。
まるで惨殺を楽しむように突いて、
体を切り離して美味しそうにビッグ・モスを食べる。
人間くらいの大きさの鳥型の魔獣で、
鋭い嘴が特徴だった。
目は鋭く体も羽毛があるとはいえ、
赤っぽく鶏冠もついている。
「サイレン、鳥型の魔獣は……」
「……【グラットン・イーグル】だ!」
サイレンは急いで杖を構える。
「え?
……グラットンってグラットン・ベアいたと思うんやけど、
目の前におる鳥型魔獣も大食漢なんか?
人も食ったりするんかいな?」
「ああ……
肉なら何でも食べる。
場合によってはオークを狩ることもある」
「オークって……
マジ?」
「マジだ……
食欲旺盛だから、幼虫を食べた程度で、
満足してくれれば戦わずに済むが……」
グラットン・イーグルは俺達を凝視している。
まるで、次の獲物としてロックオンしたかのように。
「俺達を凝視しとるんやけど……
涎も垂らしとるし」
「……最悪だ。
……まだ満足しておらず、
ビッグ・モスよりも大きい私達を狙い始めた」
「……逃げ切れるん?」
「……逃げれるが……
グラットン・イーグルを放置していれば、
きっと町や他の弱い冒険者のところに降りる……
そして、捕食をする」
「戦わないといかんってことか!」
「そういうことだ……
来るぞ!」
グラットン・イーグルは俺達を食おうと咆哮をあげた。




