第52話 小休止
「シーンを書いてっと……」
今日は雨が降り注いでいるため、
俺は音楽を流しながら小説を書いている。
小説を書いている俺を、
サイレンはコーヒーを飲みながら眺めている。
サイレンのコーヒーはブラックではなくて、
ミルクと砂糖が入っている。
「……うるさかったりする?」
「……いや。
……むしろ、打つ音が心地良くてな」
「メリ!」
「……練人の世界ではキーボードとやらで物を書く主な方法か?」
「せやな。
今やっとるキーボード形式やけど、
俺のは少し古いタイプなんや」
「……古いタイプなのか?」
「まあ、古いかもな。
せやけど、俺の世界には、
古いものが好きな人はめっちゃおるねん。
サイレンが言ったように打つ音が心地ええからな」
人によっては音楽もCDやMP3プレイヤーよりも、
レコードの方が好きな人もいる。
俺もCDは嫌いではないが、
嵩張るためMP3に音楽を入れていた。
オルゴールも元々はMP3プレイヤーだった。
「まあ、タイプライター形式にしたのも意図的やけどな」
今いる世界に来る前は、
タイプライターに似せたキーボードを使って、
小説を書いていた。
「……今、何を書いている?」
「まだ途中やけど、カナイチシリーズの続編や」
そして、二話分をサイレンに手渡した。
「……練人が使えると言ったゴミ屋敷の話のことか」
今回はリシアにも色々聞いたから大丈夫だろう。
「……読んでも?」
「構わへん、構わへん。
俺も読んどるの間に色々書いておく」
今日は調子いいからな。
カナイチシリーズの他にも色々書いておきたい。
「……そうか。
……ある意味では私だけの特権だな」
「せやな」
相棒が読者でもあるから、
俺としても常に書かないとという意識が出る。
「……エアリー、抱き締めながら読みたい。
来てくれないか?」
「メリ~」
エアリーはふわふわと飛び、
サイレンに抱き締められた。
サイレンが読んでいるの間に、
俺も集中して書き始める。
でも、やはりタイプライターを打つ音は心地良い。
人はこういう音にリラックスするものだ。
川の流れる音然り、焚き火の音然り。
とは言っても人によってだから、
うるさいと思う人もいるのも事実だ。
「さてと、書きたいのは……」
俺が今、書いているのは三つ。
・カナイチシリーズ。
・【小説作家の冒険者生活】
・サイレン(リシアも含む)の過去の話である、
【白銀の静寂】
多くの作品を書いてしまうと、
俺の作品の何を読めばいいのかと、
読者に選択させてしまう。
選択肢が多いと読者に選択疲れを引き起こしてしまい、
結局読んでくれなくなってしまう。
故に三つがちょうどいいのだ。
俺はブラックコーヒーを飲みながらそう考える。
「……今回も面白いな。
……前回は被害者が誰なのかが主題で、
わかった時の衝撃や犯人の悲しさがよくわかる。
けど、今回の事件は被害者が誰なのかm
わかった上で容疑者もわかっている。
容疑者達の中での被害者の人物像は一人はかなり悪く、
残りはむしろ好意的に思える。
だが、それは読者視点の話だから何を考えているまではわからない」
「せやな」
「……私の感想も載せるのだろ?
……ならば、私からは今以上言わないでおく。
……言えることは今回の話も面白いという点だ」
「おおきに」
「……練人は本当に小説作家としての才能がある。
……私が保証しよう」
「サイレンに言われるとかなり照れるんやけどな」
「……才能があること自体は、
悪いことではないからな」
「サイレンも魔法の才能があって、
よかったってこと?」
「ああ……
私の魔法は私に道を示してくれただけではない。
……才能があることで、
嫉妬を向けられることも多かったが、
魔法で困ったことはない。
むしろ、故郷の冒険者を始め、
リシアや練人など多くの人と、
出会う機会を与えてくれた。
私に冒険者の道を示してくれた。
好奇心を満たす切っ掛けも作ってくれた。
ずっと、魔法は私と共にいてくれた。
だから、私は魔法を愛しているんだ。
魔法を愛している……
私はきっと何度も同じ言葉を練人に言うだろうな」
「俺のはだいぶレアケースやけどな」
「……そうだな」
サイレンは楽しそうに笑った。
「楽しそうやな、サイレン」
「……まあな」
サイレンと話をしている時でも、
俺は小説を書き続ける。
書けば書くだけ小説は上達するものだ。
取り敢えず、やってみるだけだ。
「……私のライトも練人と同じく書けるのだろうか?」
「教えようか?
キーは決まっとるし、
キーボードは熟練すれば、
目を瞑っても書けるんやで」
「ほぅ……」
「ちょいと待ってや。
もう少しで書き終えるから」
今回の小説の最後の行を書き終える。
一つの話は書き終えた。
「……では、頼む、練人」
「まず、俺の方に来てや」
俺はいらない紙を取り出して、
《ライト》の文字盤をさらに広げる。
「……ふむ。
……順番に文字が付いている訳ではないな。
……付いているどころか文字も違う……
書けるものなのか?」
「書けるで。
キーはアルファベットで、
俺が書いとるんはローマ字や」
「……ローマ字?」
「説明は省くわ。
同じことできるん?」
「……見ているからな。
……真似ぐらいはできる。
……《ライト》」
サイレンはライトを使って俺と同じキーボードを作った。
「せや。
サイレンでもできるんやな」
「……魔法なら負けるわけにはいかないからな。
……次に何をすればいい?」
「アルファベットのキーなんやけど、
順番通りに付いとるんやなくて、
使われる文字の頻度によって排列しているんや。
一番度々使われる文字を、
一番使いやすい指で排列しとるんや。
ほんで十本の指で字を打つんか、
ちゃんと決まっとるんや。
俺はまだやけど、
熟練者やったら目を瞑ってでも打てるんやで」
「……暗闇でも打てると言うことか」
「せやな」
「……実際に見せてくれないか?」
「ええで」
俺は取り敢えず、
アルファベット機能を使って、
アルファベット順に書く。
機能のおかげでやろうと思えば英語でも書ける。
俺は優秀な学生ほど英語の成績はよくないから、
書くのは無理だけどな。
「サイレンの得意魔法のシャイニング・バーニングも
《Shining・Burning》、
って今書いた感じに書くんや」
「ほぅ……」
「シャインは、
《Shine》
と書くんやで」
「なるほど……」
「ほんでアルファベット機能を解除して、
まず覚えるんは母音や」
「……ぼいん?」
「簡単に言えばあいうえおやな。
ローマ字のあいうえおは決まっておって、
“AIUEO”を使うんや」
「……AIUEOか」
「試しに書いてみい?」
サイレンは人差し指を使って、
慣れない様子で文字盤を打つ。
すると,俺のように文字が変化して,
あいうえおが表示された。
「……書いてみたが、
大丈夫か?」
「せや。
母音が大事になるんやで。
カ行サ行と言ったもんを、
書こうと思うんやったら、
母音と子音を覚えなあかん」
「……子音?」
「他にもぎょうさん文字盤があるのが子音やで。
例えばSや。
Sに母音をつけ加えることで、
さしすせそ。
今見たような感じに文字が変化するんや」
「……真似してみよう?」
サイレンは俺の真似てサ行を打った。
俺を真似ただけあって,
サイレンのキーボードも、
同じようにタイプライターだった。
「せやせや。
今みたいな感じに覚えれば文字が打てるんや。
で,文字を感じに変化したい場合は……
例えば,さかなを魚に変えたいんやったら、
先にさかなとキーボードに打ち込んで……
ほんでスペースキーを使って変化させるんや」
「……なるほど。
さかなには魚もあるが,
酒の肴というものもある。
別の文字を使いたい場合はどうするんだ?」
「同じようにスペースキーを使うんや。
さかなを打ってからスペースキーを数回押して、
肴って書けるんやで」
「……なるほど。
面白くて便利だな」
何だろう。
普段はサイレンから教えてもらうのがいつもだからか,
少し新鮮な気分になった。
俺とサイレンの立場が逆やったら、
サイレンはパソコンで生計を立てそうな気がする。
もし、サイレンが俺がいた世界にいれば、
別の関係になっているかも知れないな。




