第51話 サイレンの弱点
「はい。
今回の報酬金になります」
「ありがとうございます」
「メリ!」
サソリ戦士を二体倒した後、
報酬金を受け取った。
そして、当然のように報酬金を山分けする。
ついでにギルドに預けていたエアリーも俺の頭に乗っかる。
「しばらくは依頼受けなくても食っていけるで!」
「……そうだな」
「ヨゥ!
おめえらご苦労だったな!」
俺の背中をバンバンと叩くのは、
腕が太い小柄な戦士だった。
見たところドワーフのようだ。
「メリ!」
「いや~!
大変やったわ~!
サソリ戦士、結構強くてのぅ」
「まあ、新人相手にサソリ戦士はきついな。
下手したらハサミ攻撃だけで殺されかねない奴らもいるし」
「ああ、やっぱり」
俺は一応特撮やアニメで戦い方を真似て何とかしているが、
参考がない人がサソリ戦士に勝つに訓練なしで厳しいだろう。
ハサミで武器を飛ばされかねないし、
鋭い尻尾で貫かれたら一発だ。
ドラゴンの鎧だから何ともなかったが、
幸運な部類だろう。
革の鎧では防ぎきれない。
革の盾もアウトだ。
余程の頑丈な鎧ではないと耐えきれない。
「加えて頑丈やったもんな」
「生半可な武器では弾かれるな」
少なくとも、
マジック・ウェポンを付与した武器レベルの威力がないと弾かれる。
サイレンは幼少期から訓練していたから平気だが、
サイレン以外の魔術師はわからない。
「……つまり、フルイってことか」
「嫌な言い方をすればそうなるな」
力のある冒険者とない冒険者はここで分けられる。
ただ、力だけある冒険者が生き残れるわけでもなく、
適材適所だろう。
色んな人のための様々なランク上げ方法だ。
「わっ!」
すると、誰かが悲鳴をあげる。
「ん?」
「メリリ?」
「か……!」
「か?」
「カメムシだ~!」
「カメムシだと!?」
「メリッ!?」
あっ、今いる世界にもカメムシがいて、
呼び方もそのままなのか。
「ちょ、こっち来んな!」
「だ、誰かカメムシを追い払ってよ!」
「無茶言うなよ!
カメムシ、臭いんだよ!」
カメムシ一匹でギルドは大混乱である。
確かにカメムシは臭いしな。
俺も首筋にカメムシが引っ付いてきた時は、
最悪で大変だった。
「大変なことになったな、サイレン……
サイレン?
ん?」
「メリ?」
すると、サイレンの姿が何処にもいなかった。
まるで、最初から存在しなかったように。
「サイレン!?」
「メリリリ~?」
「じ、嬢ちゃん、カメムシの名前を聞いた瞬間に去ったぞ」
「マジで!?」
「メリ!?」
俺に一言もなく行ったってことは、
もしかしてサイレンってカメムシが嫌いなのだろうか。
あるいは臭いものが嫌いなのか。
でも、サイレン、普通に納豆食べることができていたし。
もしかすれば虫が嫌いなのかも知れない。
「もう!
何とかしてよ!」
と言うよりも無駄に暴れ回るから、
カメムシも警戒している。
「……しゃーないわな。
ちょいと借りるで」
「メリ?」
「え?」
「……《ストーン》」
ボソリと石を出す魔法を使って、
もう片手にはコップを握っている。
「な、何をするつもりだ」
「てい」
冒険者の質問に答えることはなく、
俺は石をカメムシにぶつけた。
「馬鹿~~~!
石なんか投げて当てたらカメムシから臭いが!」
「よっと!」
罵倒が飛ぶ前に、
そして、カメムシから臭いを発する前に、
コップを使ってカメムシを閉じ込める。
「え?」
カメムシは魔獣扱いになるのだろうか。
どっちでもいいが、
元の世界同様カメムシも力はなく、
コップから出られない。
すると、カメムシはもがき苦しんだ。
「え?
……え?」
そして、耐え切れずにカメムシはバタリと倒れた。
「よし、失神したで」
「カメムシって自分の臭いで失神するの!?」
「するで。
カメムシの臭いは天敵のカマキリにも通用するんやけど、
密封空間やと自分の臭いも嗅ぐことになるから、
今見たみたいに失神するんや」
「へぇへぇ!」
「もちろん、空気を入れればすぐに復活するんやが、
放置すれば死んでしまうやろうな。
ちなみにカメムシの臭いは、
臭腺と呼ばれる油状の液体やで。
せやから、
もしついたら洗剤と酢で対処した方がええで。
間違ってもお湯やアルコールはあかんで。
えらいことになるからな」
「そ、そうか」
「ちなみに他のカメムシも閉じ込めることができれば、
連鎖的に臭いを出すから全員失神するんや」
「……開けたくねえな」
臭いが酷そうと思って顔を顰めて苦笑する男性冒険者。
「ちなみに虫が死んだりすると、
仰向けに倒れたりするやん?」
「ああ……」
「倒れた格好が彼らの休憩の姿なんや」
「休憩?」
「昆虫の足は六本。
体重を上手に分散させて、
屈伸させて動き回れるようになっとるんやけど、
もちろん筋肉が関節を統制しとるからなんや。
せやけど、
昆虫が死ぬと筋肉が変化して収縮してしまうんや。
そして、足が内側に折り曲げられて、
体の重さを支えられなくなり、
コロッとひっくり返るんや。
蝶は死ぬと横に倒れるんやけど、
原理としては同じやな」
「へぇ~、よく知ってるな」
「雑学の本は結構読んどるからな」
そろそろ死んだだろう。
「ほな、取るで」
「お、おう」
すると、モーゼのように冒険者達がさっと離れた。
コップを開けるとカメムシはぴくりとも動かない。
「……《フロート》」
流石に素手で触りたくないので、
フロートで浮かせて持ち運ぶ。
「……《ドロー》」
死骸をドローで引き寄せて、
被害が出ない草むらまで誘導する。
魔力を解除するとポトリとカメムシの死骸は落ちた。
「終わったで~」
「た、助かった……」
「練人くんって、虫平気なのね」
「虫は平気やな」
尤も虫を踏んで殺したくはない。
特にゴキブリは。
小学校一年生の時、
動き回るゴキブリを先生が踏んで殺したのを、
間近で見てしまったからな。
その姿は……
うん、もう書くのはやめておこう。
「練人くん?
顔、青くなっているけど、大丈夫」
「だ、大丈夫や……
幼い頃の嫌な記憶が蘇ってな……
そっとしてくれた方がありがたい」
「そ、そう?」
「にしてもサイレンがカメムシ相手に逃げるとはな」
流石に驚きだった。
しかも俺を置いて一目散だったから余程嫌いなのだろう。
驚いたがサイレンも人間だなと思えて少し安心した。
「可愛らしいじゃねえか。
カメムシ相手に逃げるのはーー」
「せやな。
まあ、あんたらは大混乱やったから、
言える義理はなさそうに思うが」
「う、うっせ!」
「む、無理の範囲だろ、
むしろ、対処できたお前すげえよ」
とは言え、苦手なものと遭遇した時の反応が大人しいのは助かった。
キャラによっては暴走するし、
周囲の被害を顧みずに、
攻撃したり逃げ回ったりするキャラもいるからな。
「練人くんってうんちくとかよく知ってるの?」
「まあ、何が小説に使えるかわからんからな」
元の世界にいた時もかなりの本を買って読んでいた。
返却日を気にして読みたくはないから、
中古の本ばかり集めていたが、
役に立ったのだろう。
他には自己啓発の本や推理小説、
歴史など様々だ。
「知的~」
「サイレンには負けるわ」
「おい、練人!
暇潰しで何か雑学を時々でもいいから披露してくれや!」
「せやったら今、披露するわ。
ビール腹あるやろ?」
「おう」
「せやけど、ビールにカロリーがあるんやのうて、
ビールに含まれる食欲増進効果で、
つまみをモリモリ食べてしまうからなんや」
「ああ、確かにビールを飲むと他のつまみを結構食べるな」
「ついでにチャンポン……
つまり複数の別種類の酒を飲むのは危ないで。
酒は種類によってはアルコール濃度がちゃうから、
複数の酒を飲んだら肝臓がいちいちそれに適応させて、
酵素の濃度を変えんといかん。
ほんんで、かなりの負担になるんや。
酒には糖分、
アミノ酸、
コハク酸など、
色んなもんが含んどるから対処せなあかん。
脳や神経がほろ酔い状態なのにな。
せやからチャンポンしたら、
二日酔いや悪酔いになるんや」
「お、おう、そうか……」
「そう聞くと注意した方がいいな」
「せや、適量が一番や。
単純に金もかかるしのぅ」
そして、俺は立ち上がる。
「ほな、今日はもう帰るわ」
「おう、またな」
「ああ、またな」




