第46話 ローブは薄くありませんように!
「よしっと」
今日の文を書き終えて、背筋を伸ばす俺。
「……今日の小説を書き終えたか」
「まあの」
「継続は力なのよ。
当然よ」
「……そうか?
私にとっては私にできないことをやっているからそれだけでも凄いと思うのだが?」
「……まあ、貴方からすれば練人は珍しいタイプの人間でしょうね」
「珍しい?」
「ええ。
サイレンって冒険者の時点で警戒は緩くなるのだけど、その反面、冒険者ではないタイプの人間には警戒するのよ。
冒険者でも同い年くらいの年齢なら多少の警戒はするのよ」
「あれ?
でも、サイレンって俺に真っ先に話しかけてきたよな?」
「……あれは私のルールを優先しただけだ」
「ルール?」
「ああ。
あれやろ?
“最初の仲間はサイレンが登録した日に、同じ場所、同じ時間に私と同じように登録した者を仲間にしよう”
ってやつ」
「貴方……
以前、仲間の候補は決めていると私に言ったけど、もしかしてそれのこと?」
「そうだ……」
「それ、結構の賭けよ?
仲間にした人物が悪漢とかならどうしてたの?」
「……大丈夫だ。
……こう見えて私は運が良いからな」
「……いや、確かにサイレンが運が良いのは認めるわ。
……実際に練人という興味深い殿方を手に入れたのだから」
「おお、興味深いにランクアップ」
「あら?
私に負けた時点で彼氏候補から自動的に排除されるわ」
「それは狙ってへんけど、リシアさんもーー」
「リシアさんって他人行儀な……
リシアでよろしくてよ。
もちろん、貴方の書く小説の地の文でもよ」
「あっ、ほな今後そうするとして、リシアも何か彼氏の基準でもあるんかいな」
「そうね。
弱い殿方は興味ありません。
私を手に入れようとするのなら力を示してくれないと」
「それはつまり?」
「最初に言いますけど、お父様が選んでくれる相手もヴァルクロウ家のためなら私は進んで婚約しましょう。
でも、お父様にも言いましたけど、私の決闘に勝てた相手に限定してますのよ」
「リシアの決闘に勝てば?」
「ええ。
簡単でしょう?
私より強い殿方なら構いませんわ。
もちろん浮気や略奪、ナンパした時点で却下。
不純な輩はそもそもヴァルクロウ家に不要」
ヴァルクロウ家って情報収集が凄いと聞くけど、そんな一族が調べたらそんな情報容易く手に入るか。
「もちろん、私もしません。
相手が決めている殿方を奪うのは余裕がなくて優雅ではないでしょ?」
悪役令嬢にならないってことか。
「つまり、リシアに負けた俺は候補外ってことか」
「ええ。
だから、サイレン安心しなさい。
練人を取りませんので」
「……それは安心した。
仲間を取られるのは流石に困るからな」
リシアの言い方的にどっちの意味とも取れるけど、口にするだけ野暮か。
「ん?
もし、サイレンが男ならサイレンにしたってこと?」
「まあ、あり得るわね。
サイレンが男だと仮定した場合、サイレンが良いとするのなら、私は狙っていたわ」
「……そうか。
だが、私は自由が好きなタイプの人間だからな……
私が男性だとしても自由のない貴族社会に魅力を感じるかどうか」
「でしょうね。
その場合は無理強いしませんわ。
なりたくない者を無理矢理手に入れるのも優雅ではないでしょ?
ちなみに私はレズではないので、そういう目でサイレンを見たことはありませんわ」
「レズ……?
……ああ、私もそういうの趣味ではないな」
ああ、女性にはそういうタイプの人間いるからな。
創作物ではよくある非公式のカップルにもそういうのあるし。
「……そう言えば、リシアの取り巻きはどうした?
彼女達にも久しぶりに会いたかったが」
「あの子達は私の不在の間の仕事を取り組んでいますよ。
あの子達の実力も相当上がってますので」
「……そうか」
「サイレンってリシアの取り巻きと顔見知りなんか?」
「ええ。
サイレンは私が主催する大会やパーティー、イベントに招待したことが何度もあるのよ。
……そう言えば、あの時私がプレゼントしたドレスやら水着はどうしました?
確か、故郷のギルドに預けていたのでしょ?」
「ああ……
私の《ストア》に入れてある。
……何故か故郷の受付嬢や女性冒険者から口が酸っぱくなるほど注意されたが」
「どういうことなん?」
すると、リシアは悪戯に成功した子どものようにくっくっくと笑い出した。
「そうですの。
貴方が持って行くと言った時の受付嬢や女性冒険者の顔が目に浮かびますわ。
結構必死だったのでしょ?」
「ああ……
最後までその理由はわからなかったが……」
「いいのよ。
貴方がその方が私にとっても楽しみなので」
「置いてけぼりなんやが」
「まあ、貴方がサイレンの過去を書くのならいずれ知るでしょう。
それまでの秘密よ。
ドレスも水着もまだ時期としては早いもの」
「……さよか。
そういえば、リシアってなんでその格好なん?
寒くないん?」
「よくぞ聞いてくれたわ!」
「……へ?」
「このローブはヴァルクロウ家で最高峰のローブですのよ!
私の肉体美も美しさも引き出してくれる上に性能も素晴らしい!
寒くないかという質問もあったけど、このローブから魔力が放出されているのよ!
その魔力によって寒さや暑さを防いでその気温に適した温度を出してくれてのよ!
もちろん、紫外線も肌にダメージが入らないレベルまで防御してくれるのよ!」
「お、おお」
「それだけではなくてこのローブ自体、防御力があるのでそこいらの鎧以上に頑丈!
そういう意味では私の腹部やローブのない部分を攻撃しようとした練人は正しいと言えるでしょう」
「さ、さよか」
「だけど、このローブの最大の魅力は魔力吸収にあるのよ」
「魔力吸収?」
「一日も経てば魔力を全快にできます
けど、その分どうしても余剰魔力は出てしまいます。
このローブはその余剰魔力を吸収し蓄積してくれるのよ!」
「蓄積?」
「ええ。
そして、仮に私の魔力が空になった場合、その蓄積された魔力を私に注いでくれる。
つまり緊急時においての魔力回復アイテムにもなってくれるのよ!
最高峰だから蓄積できる魔力も最高峰!」
「……魔力が空になった場合の回復アイテムか」
確かにゲームでも魔法使いはMPが空になれば危険だし、その対策アイテムを使う。
まあ、ラストエリクサー症候群に罹っている人も少なくないけど。
「……私にとっても羨ましいの一言だ。
……ローブの色が白と青なら迷わずに着ていた」
「基準そこ?
着るんか?
リシアみたいに下手すれば露出狂のように見られるかも知れへんで?」
あと、サイレンが着た場合の破壊力は尋常じゃないから心臓に悪い。
「露出狂とは失敬な」
いや、普通の反応です。
「こういうローブは珍しくないのよ?
ローブが薄かったり、肌面積が多いタイプもありますし」
ああ、ゲームでもそういうタイプの防具は何故か性能が良かったりするもんな。
「……それを聞いて私もある程度露出するかと思ってな……
それを故郷の冒険者達に言ったら泣きながら止めようとしたが」
「当たり前やろ」
サイレンの故郷の冒険者はきっとサイレンのことを娘か妹のように可愛がっていたのやろう。
そんな子が露出しようかと言ったら誰だって止めるだろう。
「……そうか?」
「そういうもんや」
「……まあ、今はこれくらいの露出で慣れようとしているがな」
ああ、サイレンのローブ、肩を出していたりスリットがあったり、胸を隠しきれていないなと思ったけど、そういう理由があったのか。
「え?
仮にリシアのような肌面積が多いローブが出てそれの色が白と青なら着るってことなん?」
「ああ……
一応、妥協として黒と赤も構わないが、それはリシアと被るからな」
「まあ、私も服の色が被るから着るなとは言わないわ。
そこまで狭量ではなくてよ」
サイレンの性格が良くてライバルとして素晴らしいと言っているからそれもおかしくはない。
「……どうか、そういうローブが見付かりませんように」
何だったら故郷の人達もそう願っているかも知れないと思うと俺の役目は結構重いな。
「……練人の反応も面白そうよね」
やめてください、死んでしまいます。




