第45話 練人vsリシア
訓練場の広場で俺とリシアさんは向き合っていた。
「いよいよ始まるぜ」
「メリ……」
大抵の観客人は俺が瞬殺されることに賭けていた。
エアリーも心配そうに俺に向かって鳴いていた。
そう思うのは自然だろう。
俺自身、勝てるとは思っていない。
サイレンは言った。
魔法を使う上で大事なのは自分を信じること。
だが、それと同じようにそのための力を鍛えることも大事だと言っていた。
リシアさんもサイレンと同じように強いのなら、その強さを手に入れるまで俺では考えられないような鍛錬の日々だったのだろう。
真面目に鍛錬していたとしてもその差は歴然としていた。
手加減すると明言した以上、それはリシアさんの目から見ても明らかだ。
数多くの制約も、“それでも自分は彼に勝てる”という自信の表れだ。
同じように勝てると信じてる以上、明確に勝敗を分つのは実力。
弱ければ負ける。
至極当然の理論だ。
「精々、サイレンの目の前で無様な戦いはしないようにね」
「……戦う以上、後で文句を言うなや」
「あら?
ガクガクと震えているのではなくて?」
「実際にそうか試してみるんやな」
「……これより、練人vsリシアの戦いを始める……
始め!」
「おらっ!」
サイレンの号令と共に俺は手に持っていた訓練用の木刀をリシアさんに向けてぶん投げた。
「メリっ!」
「なっ!
か、開始と同時に武器をぶん投げた!?」
「どう考えても自殺行為だろ!?」
「ふふふ、策があると思っていたけど、この程度で倒せると思いまして?」
当然、リシアさんはその木刀を避ける。
が、こっちも投げたと同時に走り出す。
「距離を詰めようとしているようですが、今の貴方はただの的ですわ!
《ダークネス・》ーー」
「《ドロー》!」
俺は杖を使わずに地面に転がっている木刀を引き寄せた。
木刀が引き寄せる途中にはリシアがいる。
「ーーっ!
くっ!」
まさか、ぶん投げた木刀を引き寄せて攻撃してくるとは思っていなかったリシアさんは回避せざるを得ない。
故に発動しようとした魔法は中断され、大きな隙になる。
「そこ!」
「はっ!」
木刀による縦振りをリシアさんは杖を使って防御する。
「甘いですわ!」
「そっちがな!」
こんな攻撃、防がれると最初から予想していた。
狙いはその無防備な腹部。
その腹部を狙って前蹴りをする。
「っ!
《プッシュ》!」
その蹴りはリシアさんは片手で発動して阻止されたが、慌てて発動したためかよろけて後退する羽目になった。
「ふっ、女性の腹部を狙って蹴ろうとするとはね」
「何や?
敵に女性扱いされるの願っとったんか?
生憎とそんな余裕は俺にはないんや。
実力差が開いとるからな。
多少頭は使うで」
「……ふっ!」
しかし、互いに動かない。
俺はもとよりそうだが、さっきの攻防でリシアさんも油断すれば大火傷を負うと悟ったようだ。
ある意味では最も有効な手札である慢心を切ったことになる。
この点もリシアさんは俺が思っとったプライドの高いキャラの違いと見える。
プライドの高いキャラならさっきの攻防で俺に対して侮辱されたと考え、激昂する。
しかし、リシアさんはサイレンに負けた過去があるからか、そういう隙はない。
「お、おい、マジかよ」
「あいつ、リシアさんを動かしやがった!」
「賭け大損じゃねえか…、」
「意外とやるじゃない」
さっきの攻防で俺を侮っていた冒険者達も驚愕していた。
もう数分も経っているから賭けで多かった俺が瞬殺されるという内容は外れたことになる。
「はっ!」
木刀でリシアさんを突き攻撃をする。
距離は縮まっている。
リシアさんには近距離になっても戦えると言っても遠距離で効力を発揮できる魔法を封じることができたのはかなりアドバンテージになるのは確かだ。
ここで躊躇すれば距離を離され魔法の嵐が来る。
リシアさんの得意分野で戦うことになり、必ず負ける。
今、この瞬間こそチャンスなのだ。
「……!
《ダークネス・リング・ウィップ》!」
すると、リシアさんの杖から魔力で形成された闇の鞭が飛び出る。
以前、サイレンと戦った時と比べれば棘のないただの鞭。
「安心なさい。
これに巻き付かれても傷付くことはありませんわ。
ただ、貴方の力ではこの鞭を千切ることはできないでしょうが!」
そう言ってリシアさんは鞭を振るう。
その動きは長く練習していたのか無駄はなく正確に俺を狙う。
「くっ!
づっ!」
その鞭を避けるが、一回だけ当たってしまった。
ドラゴンの鎧のおかげで痛みはないが衝撃を受ける。
「せい!」
木刀で鞭を払う。
弾くことはできるが、リシアさんには届かない。
「なら!」
俺は一回避けて、その鞭を掴んだ。
「鞭を掴んだ!?」
「えい!」
「なっ!?」
「自分から巻き付いてきた!?」
観客人の言う通り、俺は鞭を掴んだ上で自分から両手をあげて巻き付いた。
それは自分から敗北をするためでもなく、痛いのが好きでもない。
リシアさんが動揺している隙に俺は巻き付かれながら近付く。
「なっ!?」
「《マジック・ウェポン》!」
木刀に魔力を纏わせて鞭の根っこから切り離す。
闇の鞭は思った以上にあっさりと切ることができた。
「鞭を切った!?」
「あいつ、このためにわざと!?」
「くっ!」
鞭が切れたことにより、リシアさんは急いでその場から離れた。
「逃すか!」
「《ダークネス・バレット》!」
その無数の闇の弾丸は俺に向かって放たれた。
俺はドラゴンの鎧を信じてまっすぐ走る。
急所に当たらないようにはしたが、何発か受けた。
それでも、ドラゴンの鎧はびくともしない。
「……っ!
まっすぐに来た……
《ダークネス・イリュージョン》!」
四体の闇の分身がリシアさんを守る。
サイレンの言葉が正しいのなら、一体一体はリシアさんと同じように強い筈。
「くっ!」
「やりなさい!」
四体のリシアさんが俺に向かって襲い掛かった。
俺は剣で受け止めながらちゃんと見えるように移動する。
剣で受け止める中で、横にいるリシアさんの分身体を蹴ることもある。
「おい、結構粘るぞ。
あの坊主」
「……リシアも計算外だろうな。
……練人があそこまで食らいつくとは……
……リシアは決して弱くない。
……慢心しているように見えてきちんと戦っている。
……リシアにとっての予想外が練人があそこまで考えて粘っていることだ」
「……あの坊主を馬鹿にできねえな」
「……俺、リシアさんが分裂したら勝てねえかも……
強いのもそうだけど、揺れてるし」
「あんたねえ……」
分身体は強いが、木刀を当てれば自然と霧散し消滅する。
正直、複数の敵との戦いの練習になるし、ありがたい。
「スゥ……
もう一度」
俺は戦っている最中に呼吸を整えて魔力を掛け直す。
そして、全力で走る。
三体になったリシアさんの攻撃を対応して木刀で一体ずつ叩き付ける。
少しでも油断も躊躇も入ったらその瞬間に倒される。
それを念頭に入れた上で戦い続ける。
「……先に謝罪しておきますわ。
私は最初、貴方はすぐに負けるだろうと思って侮っていました。
この結果はある意味で私の予想外である意味では私の敗北で失敗でしょう」
そうリシアさんは言ってきた。
分身体との戦いで必死な俺には返事をしている余裕はない。
「……そして、もう貴方を侮りはしない。
《ダークネス・ウェポン》!」
そして、リシアさんの赤黒い禍々しい杖にさらに赤黒い禍々しい魔力が覆われる。
「……貴方の敗因は私に油断ならないと思わせてしまったこと……
ですが、同時に貴方の勝利でしょう……
参ります!」
そう言ってリシアさんも突っ込んできた。
「っ!
分身が!」
突っ込んだと同時にリシアさんの分身は一斉に消滅した。
「あの分身の役目は私に呼吸をさせ冷静にさせるために使ったもの!
貴方を侮らないと決めた以上、もう不要!」
「ぐっ!」
魔力で覆われた木刀で杖を防ぐが、リシアさんは意外と力強く押し負ける。
「……なら!」
そのパワーに付き合ってやる必要はない。
杖の振るう向きに沿って木刀で受け流すだけ。
まあ、聞けば簡単そうに聞こえるが実力者の攻撃を常に受けなければならず、少しでもずれたら吹き飛ばされる。
「……そこ!」
リシアさんはあえて木刀で杖を止まらせて、くるりと回転する。
巻き込まれた木刀は上に吹き飛ばされる。
「なっ!
くっ!」
木刀を吹き飛ばされた俺に選択肢はないに等しい。
急いで後ろに下がる。
ジャンプで木刀を掴みジャンプ斬りをする。
それだけの身体能力があればいいが、生憎と今の俺にそんな身体能力はない。
ならば、さっきみたいにドローで引き寄せればいい。
そのために受けないのが大切だ。
しかし、それはリシアさんもわかっていた。
リシアさんは完全に離される前に俺の腹部に杖を向けていた。
「……《プッシュ》!」
「がっ!」
まるでボクサーに殴られたかのように力強いプッシュを受けた。
鎧は頑丈だが、それでも衝撃までは防ぎ切れない。
鉄の鎧ではハンマーを防ぐことはできない。
それと同じで吹き飛ばされた俺は倒れた。
「ぐっ!」
悶えている間にリシアさんは杖を俺に向けた。
俺が何しようとその前に魔法を発動し、確実に倒せると示すように。
「……そこまで!
勝者、リシア・ヴァルクロウ!」
サイレンの号令により、リシアさんは杖を納めた。
結果はみんなの予想通り、リシアさんの勝利。
しかし、さっきまでの空気ではなかった。
勝負が終わると同時にパチパチと拍手が聞こえた。
「……大丈夫かしら?」
そう言って、リシアさんは手を差し伸べた。
「な、何とか……
結局負けた」
「当たり前ですわ。
貴方が私に勝とうなどと、十年早い。
しかし、貴重な体験をしたのも事実ですわ。
私より弱そうと思っても貴方のように喰らい付いてくる人物がいる。
簡単に馬鹿にできません」
そう言って、リシアさんは関心そうに笑った。
「すげえじゃねえか!
坊主!」
「馬鹿にしてごめんよ!」
「結構カッコいいじゃない!」
「……まあ、貴方ならサイレンを任せてもいいでしょう。
……彼女は強いですが、変な虫が付いては困りますし」
「は、ハハッ……」
「……ご苦労様、練人」
「……おう!」




