第43話 サイレンとリシア
「はぁ……
本当に有言実行していたわ、この子」
あの後、リシアさんはサイレンの言う通りに俺達が泊まっている宿に速攻で手続きして隣部屋に泊まった。
そして、俺達の部屋にお邪魔しに来たのだが、リシアさんは呆れたようにサイレンをジロッと見ていた。
「……ん?」
「あ、やっぱおかしいんか?」
「おかしいわよ。
普通、男とは一緒の部屋に泊まらないわよ」
「良かったわ〜
てっきり俺だけの常識やと思っとったわ」
リシアさんの呆れに俺は心の底からほっとした。
「サイレンって、私と会った時からこうでしたわよ。
彼女、故郷で冒険者ギルドにたむろっていたから考えが冒険者に染まっているのよ。
だから、一緒の部屋に泊まっても平気だと常々言っていて……」
「ああ……
俺もそうやないかと思っとったんやけどやっぱそんな感じやってんな」
「ええ。
貴方がまともな殿方で安心したわ。
他の男ではこうはなりませんことよ」
「ですよね」
意外にもリシアさんはフレンドリーで俺と会話してくれた。
「貴方が貞操観念が強いと会った時からわかってたわよ」
「え?」
「だって、貴方、私をジロジロと見ていませんし、できるだけ胸とか見ないようにしてましたもんね」
「あっ、やっぱわかるもんなん?」
「ええ。
そう言う視線は鋭いものよ。
でも、まあ……
私は美しいもの!
胸も大きいし、それを見せびらかさない方が罪でしてよ?」
「罪なんか?」
「罪よ。
でも、手を出したらヴァルクロウ家総出でその人物に絶望と後悔をプレゼントしてあげるけどね」
まあ、大貴族にそんな狼藉を働いた日には命がいくらあっても足りなさそうだ。
「メリメリ!」
エアリーはサイレンに撫でられている。
「でも、貴方がメリボーを飼うとは思わなかったわ」
「いや、こいつは練人に惹かれたようなものだ」
「でしょうね。
貴方、飼うのならフクロウか猫か犬のどれがいいのか悩んでいたほどだったし」
「フクロウ?
猫?
犬?」
「彼女、魔術師としての拘りが強い方よ。
魔術師以外には絶対にならないと言い切るほどに……
で、どれかにしようと悩んでいた理由が……
どれを飼えばより魔術師に見えるかって」
「……ああ」
犬はどうかわからないが、確かに魔術師のペット感があるな。
「練人はどうだ?」
「せやな。
それやったらフクロウやろ?
魔術師のペットと言ったら」
「そうか……」
「ちなみにこいつの名前はエアリーや」
「……それは貴方が付けたのですの?」
「まあ、サイレンのフワフワから考えたんやけどな」
「そう……
ネーミングセンスはいいのね」
「で、リシアさんとサイレンっていつぐらいの知り合いなんや?」
「十四歳よ。
互いにそれぞれ杖を手に入れた同じ時期にね」
「幼馴染とかそんな感じ?」
「まさか。
私が彼女の噂を聞いてやってきたのよ」
「噂?」
「……練人は小説家志望だ。
もしかしたら、その時の話を小説にするかも知れない」
「あら?
そうですの?」
「まあ、そうですね」
「なら、良くてよ。
その時の私の心情も、結果も包み隠さずに教えてあげるわよ」
「……あれ?
そう言うのって隠したがるような?」
彼女のような性質だったら、敗北の記録は隠しておきたいと思っていた。
「私をそこらにいる三流貴族と同じように見ないでいただきたいわね。
私にとってあの敗北があったからこそ、ここまで成長したのよ。
それを隠す必要はなくてよ」
(あ、負けたんか)
「……つまり、貴方はサイレンの専属の記録者と言うことかしら?」
「……いや、練人が設定した小説も書いている」
「へぇ。
それを読んでいると?」
「ああ……
私は面白いと思う」
「なら、今度読ませてよ。
サイレンが面白いと言う作品は私も興味あるし」
「わかりました。
今度お見せしますね」
【熊に喰われた男】もそろそろ完結しそうだしな。
「そう言えばリシアさんって時折言い直すことが多かったんやけど、あれは何なん?」
「あれは……
あの時は真面目な雰囲気、緊張感のある雰囲気の方がピッタリじゃない?
ライバルとして接する時はフルネームで呼び合うとそう言う取り決めだったのよ」
「ああ……
言い直したんは、フルネームで呼ぶ場面やのにうっかり親しげな感じで呼びそうやったからか」
「ええ。
彼女って好敵手として最高の相手で……
こっちが気を使わないとうっかり親しく呼んでしまいそうで」
「……私は別にそう呼ばれても構わないが」
「いやよ。
貴方は親友だけど、ライバル関係は続けていたいもの」
二人は本当に仲良しのようだ。
「にしても魔術の筋トレ理論って聞いた時は驚いたで。
そんな理論があったとは思わんかったわ」
「……ねえ、あれはまだ伝えていないの?」
「ああ……
伏線にしたいから黙ってくれ」
「ふむ。
わかったわ。
私の口からは言わないでおきましょう」
あ、何だか伏線を敷かれたような気がする。
「……でも、これだけは聞かせて?
……練人……
貴方、何者ですの?」
サイレンに言われて薄々覚悟してたけど、やっぱりこの人、俺のことを徹底的に調べたんだな。
「ちなみに質問の意図は?」
「サイレンが冒険者になったから一通り調べたのよ。
そして、練人と言う人物が仲間になったことも。
当然、貴方のことを調べたわ。
けど、ヴァルクロウ家の力を持ってしても二月二十八日以降の痕跡が見当たらない。
精々、その時、貴方が大変慌てていたことくらいしかわからないのよ」
「えっと、ヴァルクロウ家でも漏れ出る情報くらいありそうーー」
「ないわよ。
意図的に隠そうとも情報の漏れはどこかしら出てくるもの。
実際、私はサイレンの秘密を全て知っているわ。
情報収集においてヴァルクロウ家に並ぶ家系はいない。
そのヴァルクロウ家の力を持ってしても少しの痕跡が見付からない方がおかしいのよ。
しかも、貴方は情報を隠すことに関しては素人風で特別隠そうという気はないのにも関わらずよ」
ああ、サイレンにバレてからは俺の秘密は軽い感じになってしまったな。
「えっと。
ここから先は他言無用でお願いします」
「……私からも練人は信用における人物だと明言しておく」
「……?」
「こほん……
俺は小説家志望の高校生【静川練人】!
二月二十八日に惑星直列を撮るために出かけて行って、星を見とった。
星を見る時に星から眩い光が発した。
余りの光の強さに目が眩み俺は目を閉じてしまったんや。
光が収まり、目を開いたら……
この世界に来ていたんや!
この世界が元の世界やあらへんと知った俺は金がなくなり道具も変化、あるいは消滅したことにも気づいた。
冒険者登録の時【練人】と名乗り、元の世界に帰る方法、そして生きる手段を手に入れるために冒険者として戦うことにした!
そんな俺の頼もしい仲間で協力者、それが【サイレン・マジャン】!
彼女は光属性の魔術師で俺と同い年。
冒険者になって世界を旅することが夢で俺とパーティーを組むことになった。
彼女の魔法は強く、得意魔法は《シャイニング・バーニング》!
その魔法で多くの魔獣を倒してきて、バリエーションも豊富!
俺の正体や夢を知るただ一人の人物でもある。
何故、俺がこの世界に転移されたのかも、他にもそう言う人がいるのかも謎や。
別世界に行っても好奇心はそのままな冒険者!」
「……いきなり何ですの?」
「俺の説明を簡潔にまとめてみたわ」
「……要するに貴方は偶然やってきた転移者だってこと?」
「そんな感じや」
「……サイレンが信じるのなら私も信じましょう。
ヴァルクロウ家には適当にそれとなく伝えておくわ」
「お願いします」
「それはそうと、その異世界に興味があるのだけど……」
「まあ、結構長いからそこは覚悟しておけよ」
「ええ。
楽しませてちょうだいな」
「……それよりもご飯にしよう」
「そうやな」
「メリっ!」
「……いいでしょう。
いつもは高級食材を食べるのだけど、ここの料理も堪能しましょう」
「結構柔軟な人物やな」
「褒め言葉として受け取っておきましょう」
まあ、こんな美人達と食べていると男性冒険者の視線が痛いような気もするが、そこは気にしないでおきましょう。




