第42話 サイレンvsリシア
訓練場、そこで決闘が始まろうとしていた。
「そ、それでこれよりサイレン・マジャンvsリシア・ヴァルクロウとの決闘を始めます!」
そう言って審判を務めたのはギルド嬢だった。
「サイレン……」
他の冒険者も面白いと思ったのか観客としてこの戦いを見に来ていた。
「ふふっ!
盛り上がって来ましたわ!
ヴァルクロウ家の後継者……
リシア・ヴァルクロウ!」
「……サイレン・マジャン!」
「「……いざ尋常に勝負!」」
「《ダークネス・バレット》!」
「……《シャイニング・バレット》!」
光と闇の弾丸がそれぞれ放たれ、ぶつかった。
「うわっ!」
「余波がこっちにまで!」
轟音を立てて衝撃がこっちまで響く。
だが、サイレンのバレットの方が少し押されている。
「……」
「ふふ、私のバレットは貴方のバレットよりも洗練されていてよ。
貴方はある魔法を極限まで洗練したけど、それはつまり他の魔法はその魔法よりも洗練ではないと言うこと!」
旅立つ前には、ある程度練習し、練人を仲間にしてから使い続けるようにしたようだけど……
貴方がそうしている間に私は他の魔法を洗練し上げたのよ!」
「……そのようだな」
「《ダークネス・ショット》!」
「……《シャイニング・ショット》!」
互いに光と闇の貫通弾を放つがそれもサイレンより少し強く押したが、サイレンに届く前に消滅していた。
「……!」
「……どうやら、そこまで差はないようだな、リシア・ヴァルクロウ」
「全く、どれだけ貴方は魔法に愛されているのやら」
「……お互い様だ」
「まだ勝負はここからでしてよ」
「……《シャイニング・カッター》!」
「《ダークネス・カッター》!」
光と闇の刃がそれぞれぶつかる。
「お、おい、すげぇ戦いだぞ」
「ああ……
互いに一歩も引いていない」
「凄いです……
あのリシア・ヴァルクロウに食らいついている……
彼女はAランクにも到達されると期待されている期待の新人なんですよ。
その彼女と互角に戦えるなんて」
確かにあの二人は光と闇の違いがあれど、そこを瞑ればある意味では似た者同士かも知れない。
あそこまで戦いを楽しそうにしているサイレンを見たことがないし、リシアさんもどことなく楽しそうだ。
「……《シャイニング・バーニング》!」
「……!」
「くっ!
《ダーク》!」
リシアさんは咄嗟に目を闇で覆った。
俺も目と耳を瞑った。
「……ハズレだ」
そう言うと大きな音が響いた。
この感じからして恐らくシャイニング・ロアー・バーニングの方だろう。
「ぎっ!」
「ぎゃああ!」
「こっちまで響いた!」
「くっ!」
すると、サイレンがリシアさんに向かって走り出した。
「ちぃ!
《ダークネス・ニードル・ウィップ》!」
今度はリシアさんの杖から棘だらけの鞭が出てきた。
「これは以前の《ダークネス・ニードル・リング》の改良版!
貴方に超えられて?」
そう言いながらリシアさんは鞭を振るう。
サイレンは走るのを止めて回避に集中する。
「この棘鞭なら貴方のローブも耐えられなくてよ」
そう言うと男性冒険者はおぉと息を漏らした。
「おい、何を考えとうねん!」
「……《シャイニング・イリュージョン》」
今度のイリュージョンはサイレンそのものの姿で現れ、サイレンの踏み台になった。
「なっ!」
流石に軌道を変えるには時間が足りなかったのか闇の棘鞭はサイレンの分身に巻き付いた。
「……ーー」
ここからでは聞こえなかったが、サイレンがボソリと何かを唱えるとリシアさんの近くまでジャンプで届いた。
同時に巻き付かれた分身はその場で爆発して棘鞭諸共破壊された。
「くっ!」
「……《プッシュ》!」
「《プッシュ》!」
まるで互いの拳がぶつかったようにガンッと鈍い音が響き、振動がこっちまで届いた。
「……《プッシュ》!」
「《プッシュ》!
無駄よ!
あれ以来こちらも鍛えた……
あの時のように不意を突かれて狼狽えるリシア・ヴァルクロウではありませんわ!」
「……《シャイニング・カッター》」
「《ダークネス・カッター》!」
互いの刃がぶつかり、簡単に砕け散った。
どうやら、魔法で生成した物体は結晶のように脆いようだ。
そして、杖同士で鍔迫り合いをする。
サイレンはリシアさんに近付こうとし、リシアさんはそれを食い止めようとする。
サイレンが至近距離で近付いたら、シャイニング・バーニングを使う。
それをリシアさんは警戒している。
「お、おい……
あの二人、魔術師にしてはかなり動いているよな?」
「ああ……
普通の魔術師はあそこまで接近戦なんかしないし、接近されたら終わりの筈だろ?」
「いいえ。
サイレンさんはともかく、リシアさんに関してはそれはあり得ません」
「え?
なんで?」
「ヴァルクロウ家はある時を境にある魔術の訓練法を重視するようになりました。
それ以来、ヴァルクロウ家直属の魔術師は接近戦も積極的に行うようになりました」
「訓練法?」
「それは……
“魔術の筋トレ理論”です」
「……は?」
「魔術の筋トレ理論?
な、なんだよ、それ?
魔術師が筋トレするように勧める理論のことか!?」
俺も初めて聞いた時、少し驚いた。
「……それ、新しい理論やろ?」
「はい。
数年前にあるギルドが見付けた理論のようで出所は機密事項になっていますが、そのギルドでも優秀な魔術師が増えているのですよ。
初めは眉唾物や偶然と言って片付ける魔術師も多かったのですが、ヴァルクロウ家がそれを支持。
積極的に取り組むようになり、他の魔術師も無視できなくなったのです」
(なるほど。
確かに有名な家系がそれを支持し、成果も上げているとなると無視するわけにはいかず、意固地になって取り組まなかったら次第に追い抜かれてしまう)
コガワにいた時、ダイヤナさんが少し驚いたのはサイレンがその理論を取り入れているからだ。
「……その理論の内容って?」
「それはーー」
「《プッシュ》!」
「……《プッシュ》!」
またプッシュのぶつかり合い。
だが、今度はリシアさんが吹き飛ばされた。
「押し負けた!?」
「……いや、あれはあえて力負けしたんや」
「あえて?」
「ーー!」
周りの雑音が大きくて聞かなかったが、リシアさんもサイレンと同じように大ジャンプに成功して距離を離すことに成功した。
「……やるな」
サイレンもその意図に気付いたのか嬉しそうにニヤリと笑った。
「時にはあえて負ける必要がある。
貴方が相手ならば例え負けても構わないわ!」
そして、サイレンもその場に止まった。
迂闊に近付くとまたあの棘鞭のような魔法が出るから。
だが、それは逆にリシアさんの躊躇にも繋がる。
また同じように近付かれる可能性もあるからだ。
それではせっかく離した意味がない。
「……正直に言えば、眼福だな」
「そうだな。
気にしているのかいないのか知らないけど、あのプッシュ合戦の時も、動き回っている時もそうだけど……
揺れてたな」
「おい」
「いや、だってあの二人かなり大きいし、そんな二人が動き回っていれば……
なあ?」
何人かの男性冒険者がうんうんと頷いた。
「やめとけよ?
あれでも二人は真剣に戦っているからな?
それと女性冒険者達からの視線がかなり冷たくなっとるで。
極寒レベルやで?」
「男子、最低」
「……妻がいるのに何鼻の下伸ばしているのよ」
「……あなた、そう思ってるのね」
ああ、これは痴話喧嘩の切っ掛けにもなっているな。
「……っ!」
その時、二人の杖の先端が奔流を始めた。
サイレンの杖からは眩いほどの光の奔流、リシアさんからは冷たくなるほどの全てを呑み込まんとする黒い闇の奔流。
まるでホワイト・ホールとブラック・ホール。
周囲の草花もザアザアと音を鳴らしている。
「……これで決める」
「……っ!」
サイレンは自信満々のように振る舞っているが、リシアさんの額から汗が流れ落ちた。
彼女はこの激突に緊張しているのだ。
「……《シャイニング・》ーーー」
「《ダークネス・》ーー」
そこに一人の老齢な職員が現れバンっと上空に魔法を放った。
「「……!」」
その音を聞き、二人は止まった。
同時に奔流も収まり霧散する。
「そこまでじゃ」
「ま、マスター!」
その老齢な職員がここイナミのギルドマスターだろう。
「……何ですの?
ここからがいいところなのに止めるなんて酷いんじゃないですの?
ある程度の修繕費は払った筈よ?」
「確かに受け取った。
……しかし、それ以上はここ訓練場だけではなく、イナミの町や作物に被害が出るのでな」
そう言われて数秒。
二人はそれぞれ杖を納めて近付く。
「ま、まさか……
キャットファイト?」
「決着付けたがっていたし、そうなる可能性もーー」
二人は無言になって殴り合える距離まで近付いた。
「……これはどうだ?」
「そうねぇ。
私としては引き分けって言ったところね」
「……引き分けか?
割とリシアの方が優勢だと思ったが」
「それでもバーニング対決に持ち込まれた時点で勝機は怪しかったわよ。
貴方のシャイニング・バーニングは本当に極限まで鍛えたから私のダークネス・バーニングで届くかどうか……
それにしても互いに強くなり過ぎたわね。
まさか、止められるとは思わなかったわ」
「ああ……
本当に強くなったな、リシア。
これは私もうかうかしていられないな、流石だ」
とまるで親友同士のように語り合っていた。
「あ、あれ?」
「引き分け?」
「何ですの?」
「いや、ライバルの割には結構仲が良さげだなと思って……」
「ああ、サイレンの場合は最初からこんな感じですのよ?
貴方達の思うような関係ではなくてよ」
「……それはリシアが素晴らしい人間でもあるからだ。
そうでなくては私もここまで語れない」
「……あなたって本当にそう言うことをサラッと言うから」
そう言ってリシアは嬉しそうに微笑んだ。
さっきまでのライバル同士のピリピリから一転、まるで親友同士に見えた。
「……それでは戻るわよ」
「……せっかくだ。
リシアも私達が泊まっている宿に泊まればどうだ?」
「えぇ?
私、高級宿以外泊まったことなくてよ?」
「……なら、偶にはいいじゃないか」
「全く……
しょうがないわね」




