第41話 サイレンのライバル
彼女は前触れもなく、
突然やってきた。
「う~ん、次の依頼、どないしようか?」
「……そうだな」
俺達が今日の依頼を受けようとしたその時だった。
ギルドの扉が「バンッ!」と大きな扉を立てて開かれた。
「え?」
「な、何だ!?」
「メリッ!?」
他の冒険者やギルド職員が驚きで一斉に扉の方を見る。
扉を見たのは俺達も同じだった。
サイレンと同年代の美女だった。
セミロングの金髪で赤い瞳をした鋭い目。
そして、スタイルもかなり良かった。
誰の目から見ても明らかで、
何故かと言えば彼女の服が異常だったからだ。
彼女の服は露出がかなり高い。
肌面積の方が圧倒的に多い。
サイレンと同じとんがり帽子を被っており杖も持っていた。
違うのは、とんがり帽子もローブも黒く、
彼女の杖は禍々しい黒と赤が目立っていた。
ちょうど、サイレンと対照的になる色合いだ。
「す、すげぇ、美人……」
「てか、エロくね?
めちゃくちゃエロくね?」
「男って……」
反応を男性冒険者がしていて、
男性冒険者に冷ややかな視線を送る女性冒険者達。
ただ、当然の反応だろう。
漫画やアニメで、
彼女のようなキャラが出てきたら賑わうのは必定。
(……何のために来たんや?)
とは言っても俺は美人に、
メロメロになるよりも先に疑問が勝った。
冒険者達の反応から、
彼女の知り合いはいないのは明らかだ。
旅で来たにしては荷物は少ない。
少なくとも俺達が泊まっている宿に、
彼女のような人物が泊まっている様子もない。
彼女も声を発することもなく、
キョロキョロと辺りを見渡した。
まるで誰かを探しているように見える。
そして、俺達の方見ると、
まるでロックオンしたかのように向いて歩き出す。
(彼女のような知り合いは俺は元の世界でもおらん。
何か惹かれて来ている様子もあらへんし、
都合のええ展開はそうそうに起こらん)
「メリ?」
とは言っても近付いて来ている以上、
俺達が目的なのは変わらない。
俺に用があるのか、
俺に用がないのなら一つしかない。
(……目的はサイレンってことか?)
チラッとサイレンを見ると、
サイレンの表情も真剣に変わった。
彼女はサイレンが知っている人物で間違いないだろう。
「あら、お久しぶりね……
サイレン・マジャン」
彼女はサイレンの名を言ってニヤリと笑った。
まるで、悪役令嬢のような不穏な笑顔。
「……ああ、久しぶりだな。
……【リシア・ヴァルクロウ】」
リシア・ヴァルクロウ。
彼女の名前か。
そして、彼女の名を口にしたと言うことは、
やはり彼女とサイレンは顔見知りになる。
「メリリ?」
「リシア・ヴァルクロウ?
あれ?
何だか知っているような……?」
「リシア・ヴァルクロウ!?
な、何でヴァルクロウ家がこのギルドに!?」
「知っているのですか?」
「知っているも何も……
ヴァルクロウ家は魔術師にとって有名な一族ですよ!
『エンディミオン魔法都市』では、
ヴァルクロウ家を知らないものはいない。
ヴァルクロウの一族を輩出する魔術師は、
殆どの人物も優秀で、
今でも前線で活躍している者も多い。
超エリート集団で、
全員がヴァルクロウ家を支持している。
わかりやすいほどの大貴族で、
情報を収集するのも超一流なのですよ!
ヴァルクロウ家で手に入らない情報はない……!」
「情報収集?」
「……つまり、皆さんの秘密も、
彼女なら全員分知っていてもおかしくないんです」
「ま、マジで!?」
「もしかして、俺の恥ずい秘密も!?」
「あ、あたしの秘密も!?」
「……何か、ずれとる心配している輩が多いな。
何の秘密隠しとるんや?」
動揺する輩が多いから、
思わず彼女よりも彼らの秘密が気になった。
「ふふっ、相変わらずの魔力ですわね。
思わずギルドで一発撃ちたくなりましたよ」
「……やめた方がいい。
私に通用するかどうかまでは保証しないが、
周りの人間に危害が及ぶ」
「でしょうわね。
流石の私も大事進んでしたくないですもの。
私、暴れ馬でもありませんし、
優雅ではありませんもの」
今度はジロジロと俺を見た。
本当に俺の人柄を品定めされているような感じがする。
「……え?
何?」
取り敢えず、変なところあるか、
確認しないといけないと思って体を確認する。
一応、サイレンの知り合いっぽいし、
カッコ悪いところは見せられない。
「……へぇ。
彼がサイレンの……
こほん。
サイレン・マジャンの仲間でしょうか?」
(ん?
特別言い直すところなかったような)
「ああ……」
「れ、練人と言います」
「練人……
すでに知ったでしょうけど、
サイレン・マジャンの仲間なので、
礼儀として名乗って差し上げましょう。
私の名は【リシア・ヴァルクロウ】!
サイレン・マジャンの永遠のライバルにして、
ヴァルクロウ家の後継者にして至高の魔術師!
私に手に入らないものも、
情報もありはしませんわよ!」
何かカッコ良さそうに自己紹介した。
と言うよりも、
もしかしなくても以前サイレンが言っていた、
俺を調べている人はリシア・ヴァルクロウだ。
ヴェルクロウ家は情報収集が得意そうだし、
俺の正体に察している可能性すらある。
いきなりのピンチである。
「お、おう。
よろしゅうな」
「……ふむ」
そして、また俺を品定めをするかのように、
ジッと上から順に眺めた。
「……戦闘経験はようやくある程度積んだ程度、
魔力もそう多くない。
けど、一つの生活魔法をかなり使っていると見ましたわ」
「っ!」
「彼の推測できる性格なども含めて……
色々と興味深い人物ですけど……
まあ、サイレン・マジャンの仲間として見るのなら、
及第点は上げてもいいでしょう」
何の視点で見ているのか気になりはするが、
取り敢えず認められたような気がする。
「……彼を相棒として認めたのよね、
サイレン・マジャン」
「ああ……
……練人を仲間にしたのは私にとっても幸運だ」
リシア・ヴァルクロウに、
まるで認められたようで少しだけ照れるな。
「……あなたが言い切るのなら、
私からはうるさく言わないわ」
「メリッ!」
今度はエアリーが元気よく、
手を上げてリシアに挨拶をした。
「メリボーのエアリーね。
確か名付けたのはそこにいる練人……
名前の由来は?」
「……私がフワフワと名付けようとした時に、
練人が考え直してくれた」
「ふむ……」
リシアは優しくエアリーを撫でてくれた。
「……名前もそうだけどーー」
リシアは何故か固まった。
そして、また咳払いをした。
「……イナミに何しに来た?
私の仲間を確認しに来ただけなのか?」
「あら?
私がすぐに帰る筈がないでしょう?
まさか、私との誓いを忘れたとでも?」
「誓い?」
「……忘れる筈がないだろう。
……お互いが冒険者となって再会した時、
再びお前と戦うこと……
だろ?
リシア・ヴァルクロウ」
「ええ。
覚えてくれて安心したわ。
まあ、忘れたらあなたに失望してあげるけどね」
リシアは怪しげに微笑み、
赤い目でサイレンを鋭く見た。
妖しく笑う彼女に対してサイレンは涼し気に対応する。
「リシア・ヴァルクロウ……
サイレン・マジャンに対して決闘を申し込むわ」
「……挑戦、受けよう……
リシア・ヴァルクロウ!
お前の挑戦なら逃げるわけにはいかない!」
互いに杖を向け合う。
互いの視線から火花が吹き出し、
光と闇がぶつかり合う気もした。
「ま、マジか」
「お、おう……」
「な、何だか興奮する展開だぜ!
……いや、まあ二人は美人だし、
大きいし、そういう点でも興奮するけど……」
「口にすんなや……」
「け、けど、如何にも宿命の対決っぽくて、
カッコイイじゃん?」
「……リシア・ヴァルクロウは、
最年少でDランクに上り詰めた上級冒険者……
彼女は熟練の冒険者のように活躍しているのに……
Gランク冒険者に勝負を挑むなんて!」
「あら?
サイレンだってなろうと言う気になれば、
いつでもDランクに行けるのではなくて?」
「え!?」
「尤もサイレン……
こほん……
サイレン・マジャンの場合は、
仲間と冒険することが優先でしょうから、
のんびりと上がるつもりでしょう。
ランク上げに関しては彼女の道ですもの。
好きになさい」
「言ってくれると助かる……
リシア・ヴァルクロウよ」
「で、でも、ギルドでは辞めてくださいよ……」
「わかっています。
表に出なさい。
近くの訓練場で決着をつけて差し上げましょう」
リシアはポンっとギルドに小包みを渡した。
「こ、小包?」
「訓練場の修繕費よ。
余ったらギルドの増築か修繕……
あるいはイナミの町のために使っても構わないわよ」
包みの中身は大きな黄金のコインが八枚入っていた。
「は、八十万デラルだと!?」
「た、大金をポンっと……」
初めて見る。
冒険者達の驚きから察するに、
今いる世界で一番価値のあるデラル。
計算が合っていれば、
一枚だけでも一億の価値がある筈だ。
「い、一枚でも訓練場二つできるほどですよ……
と、取り敢えず支援として受け取っておきます」
「問題はないでしょう……
訓練場で雌雄をつけさせますわよ、
サイレン・マジャン」
「……相変わらず派手な性格だ。
だが、お前らしい……
リシア・ヴァルクロウ」
「……決闘と言っても互いに命までは取らないこと……
ルールは守ってくださいね」
「ええ。
わかっておりますわよ」
「……私達も互いに命を取るつもりはない」
「さあ、行きましょう。
サイレン・マジャン。
そして、練人」
「っ」
「……今から貴方に、
サイレン・マジャンの本当の実力を、
見せて差し上げましょう。
自分が如何に凄い人を仲間になったのか、
わかるでしょうからね」
「……わかった」
サイレンの本当の実力。
彼女の実力を見るために、
俺だって行かざるを得ない。
好奇心が止まらないし、
かなり気になる。
「メリ……」
「大丈夫や、エアリー……
サイレンは負けないし、二人の決闘……
どうやら、サイレンも心待ちにしていた戦いやしな」
だって、サイレンは機嫌がいいのは明らかだ。
リシアのことを気に入っているみたいだし。
あれだけバチバチとしていても、
二人とも、
今のやり取りを楽しんでいる節すらある。
「お、おい!
俺達も行こうぜ!」
「おうとも!」
そして、俺達は訓練場へ向かった。




