第37話 桜舞い散る時 〜後編〜
「……結構人おるんやな」
「メリ~」
俺達が来た稲穂神社には大勢の人が集まっていた。
「……ああ」
「こういう神社ってよくあるん?」
「……少なくとも私がいた場所にはなかったが……
……そういえばこの杖を買った時に杖専用の神社があったような気がするな」
「杖専用の神社?」
「メリ?」
「……チラッとしか観ていないが偉人の杖やローブなどが祀っているらしい」
「へ~。
ここも稲穂って書いとるから稲に関するものが祀っとるんやろうか?」
「……かも知れないな。
練人はどうなんだ?」
「……似たような感じやな。
偉人を祀ったり、神様を祀ったり」
「……そうか。
……意外と別世界だとしてもあまり違いはないのかも知れないな」
「どうやろ?
まだ一ヶ月しか経ってへんし……」
「メリ?」
「ーーいやいや、それよりもさっさと分身のところに行こうや!」
準備にかなり時間を掛けた。
弁当や飲み物、おやつを買ったりいる荷物といらない荷物を分けたりなど。
俺も今回は剣も鎧を置いているし、サイレンもとんがり帽子を脱いでいる。
杖は持ってきてはいるがまあ、許容範囲内だろう。
エアリーのための弁当も持参している。
「……そういう割にはその銀の箱を持って構えているが?」
「え?
こんな綺麗な景色やから必須やん!
結構撮るで!」
このカメラは本来惑星直列を撮るために買ったものだが、こういう絶景を撮るためでもある。
使い方は同じで俺の魔力で稼動するらしく上のダイヤルを回すことで様々な撮影機能に変更できる。
レンズを調整することで遠くまで撮ることもできる。
一回ボタンを押せばぼかしも解消もできる。
「……良かったわ、ほんま。
これ結構高かったんやから」
思わず泣きそうになる。
そのカメラが消滅するのもそうだが、元の世界に置き忘れることになれば余計にショックだ。
ショック過ぎて高いものを買うのに余計躊躇することになるだろうと容易に想像がつく。
「……どのくらいだ?」
「せやな。
二千デラルくらい」
「……かなりの大金だな。
……オルド・ドラゴンレベルか」
そう聞くと確かにあの戦いは大変だと思う。
あいつ一体で普通に仕事をしている人の一ヶ月分の給料になるからな。
それを討伐して手に入るのなら冒険者を志望する人は多いし、オルド・ドラゴンと戦いたがる人も少なくはないのだろう。
そして、俺は喋りながら桜を撮り始める。
「……まあ、小さい頃から貯めてた小遣いで買ったからな」
お年玉貯金を使っての購入だ。
高い買い物だったが、後悔はしていない。
この世界に持って来れなかったら後悔はしていた。
「……写真は好きだったのか?」
「嫌いやないで。
ネタを思いついた時に覚えるために使えるし、何より綺麗な絶景をこうして撮れるからな」
買った当初は色んな景色や青空を撮ったものだ。
まあ、すぐにこの世界に来て使えなくなったと思った時は軽く絶望したけどな。
そして、原初魔法が使えるようになってオルゴールと一緒に使えるようになったことに対する俺の歓喜も理解してくれたら嬉しい。
「……あそこだ」
そう言って、サイレンが指したらそこに分身サイレンがジッと座りながら待っていた。
見た目が見た目だからか誰も話しかける人はいなかった。
「……来たか」
「……場所の確保ご苦労だった」
「……それでは消滅するがいいか?」
「……ああ、しばらく休め」
「……わかった」
そうサイレンと会話して分身サイレンは目を閉じて光の粒子として消え去った。
「……何やろうな……
悉く感動シーンが普通のシーンに変換されてくんやが……」
あの分身サイレンが消えるシーンなんて普通アニメとかなら切なくて悲しいシーンになるものだ。
けど、今回は“花見席の場所取りの役目終えたから”普通に労って解除したにしかならない。
ただ、このカメラに録画機能もあるから分身魔法を使っての撮影もできると思う。
サイレンの使った通り、容姿など好きに変更できるようだし、一人で最大八人できると思うと派手になりそうだ。
「……?
……何をやっている?
花見するんだろ?」
「メリ」
「……せやな」
そんなバカなことを考えながら俺もサイレンもシートの上に座る。
「……それで練人は今まで花見をしたことはあるのか?」
「……え?
今、それ言うの?」
「……ああ、聞いてみる」
「……桜が咲く時期ってのは大体入学や卒業と言った特別な日が主やからな。
人付き合いはよくあらへんし、あんま友達もおらへんからな。
花見に行こうと誘う人も誘いたい人もおらへんねん。
両親もそういうの興味ない人やったしな」
「……そうか。
……私もあまりに同年代の友達はいない方だ」
「……その言い方やと他の年齢やったらそうでもないように聞こえるわ」
「……実際そうだ。
……学校では私は人気なかった。
むしろ、取るに足らない嫌がらせを受けることは多かった」
そうだろうな。
サイレンはきっと幼い頃から優秀だった。
子供にとっては面白くないし、自分が劣っているとわかりやすくもある。
その逃避のために嫌がらせをする人もいただろう。
「……辛かったりするんか?」
「……?
……いや全然」
「全然?」
「……確かに同級生に机に落書きされたこともある。
魔法バカ、化け物、ひとりぼっち、誰もお前を愛さない、誰もお前のことが嫌いだ、消えろ……
そういった感じのな」
「それ、普通に酷いいじめになるけど……」
「……だが、私からすれば何も響かなかったし掠りもしなかった」
「掠りも?」
「……魔法バカなのは合っている。
……実際に流行やお洒落よりも私は魔法を優先していた。
それを指摘されても当然だと思ったし、それでダメージを受けることもなかった。
……前にも練人にも言ったが、その時の私はすでに冒険者と関わっていた。
彼らが私を大事に思っていたことは私の目から見ても明らかだった。
そんな私にひとりぼっちも誰も好かれない愛されないと言っても、ああそうで流せれる。
だって、そんな奴に好かれたいとは思わないし愛されたいとも思わない。
そんな奴のために消える道理もない」
「……強いんやな、サイレンって」
そこで歪む人は大勢いるのに、サイレンはそうじゃない。
出る杭は打たれるとよく言うが、本当に強い人はそんな攻撃は軽く流すことができる。
「……確かに全ての人に愛されるのは不可能や。
そんなこと神様だってできひん。
どんなに好かれるものだって必ず嫌いな人はおる」
そして、少し納得した。
サイレンは気さくな良い人だ。
けど、冒険者気質でどこかガードが緩い。
そう思っていたが、冒険者以外の人には警戒し、ガードが硬い時がある。
それはつまり、冒険者相手なら緩むが、他の人はそういう人が多いと思って警戒すべきという認識だ。
彼女の冒険者気質なのも、冒険者達がまともな人に見えてそこから模倣しているのだろう。
「……そうだな。
だが、練人はそうしないだろ?」
「せやな。
そんなことをする気もあらへん。
俺やったら一緒にやろうと思っても興味ないと言ってそこで縁切りや」
そこまで順々になる必要もないし、そこで従ったらそいつのようになる。
そんなことになるくらいならそこで縁を切って二度と関わらないようにするまでだ。
「……で、それはつまり、その知り合いの冒険者と一緒に花見しとったってことか?」
暗い話になりかけたが、質問内容はあくまで花見していたかどうかだ。
花見という明るいイベントでする話じゃなかった。
「……そう言うことだ。
……今は二人だけのパーティーだが、大勢で騒ぐのを見てもそれはそれで悪くなかった」
「さよか」
サイレンのような静かなキャラは騒がしい場所は嫌がるとか思うが、そこまで冒険者と繋がっていれば騒がしい雰囲気に耐性が出ても不思議じゃないな。」
「……今は二人やが、きっとパーティーも増える。
そん時にまた花見とかやろうや」
「……そうだな。
……その時は楽しみだ」
確かに今は二人でできることも少ないかも知れないが、人数が増えれば楽しいことも増えるだろう。
「メリメリ!」
「ん?」
「おお、そうやったな!
エアリーも含めて二人と一体やったわ」
「……確かにエアリーを抜かしてはいけないな」
そう言って俺達はそれぞれエアリーを撫でた…
「……綺麗だな、練人」
「……せやな、ほんま桜綺麗やわ。
よっしゃ、桜に合う曲をかけるわ」
俺は音楽を掛けた。
少なくとも俺が持ってきた中で桜に合う曲だ。
「……練人はその曲が好きなのか?
……よく聞いている印象がある」
「まあ、歌声が綺麗やし」
探偵アニメでも屈指の人気のある曲だ。
歌声が綺麗で、アニメではヒロインの切ない表情が印象的だ。
「……そうか。
……確かにいい曲だ」
まあ、推理小説を書くかと決めた時に雰囲気作りのために聞き始めたが、それ以来結構聞くようになった。
カメラと同じだが小説のためにしたことが結果的にそれが好きになることが俺には多い。
「……歌詞は覚えた」
「……え?
マジ?」
「歌ってやろう」
そして、サイレンなりに歌ってみた。
その曲のように綺麗な歌声で切なく歌ってみせる。
歌詞も間違っておらず綺麗だった。
思わず聞き惚れたほどだ。
「……どうだ?」
「サイレンって歌上手いんやな。
凄いわ」
「メリリ!」
「……その褒め言葉は受け取っておこう」
とサイレンは嬉しそうにそう言った。
「……練人は歌わないのか?」
「やめとくわ。
今、歌うんはハードル高いし……
家族から歌うなと言われるんや。
音痴で音程破壊ってよく言われる」
まあ、母さんの好きな曲を揶揄い目的で変に歌っている俺にも非はあるが、それ抜きでも俺はそこまで歌は上手じゃないと言い切れる。
「メリ?」
「そうか……」
「まあ、人には向き不向きあるからええけどな。
いずれ聞かせてやるわ」
「……わかった。
楽しみにしておこう」
「ほんなら、弁当食おっか!」
「ああ……」
花を見ながら弁当を広げる。
そして、時折楽しく会話したりする。
サイレンとエアリーと一緒に見た桜。
思い出としては印象残るものだ。
当然の如く、サイレンとエアリーと一緒に桜の写真を撮りまくった。




