第35話 意外と悪くない食事
「おお、イナミも結構雰囲気あるやんけ」
コガワは少し洋風でそういう食べ物が圧倒的に多かったが、ここはそうではない。
部屋もそうだが、食堂も和風だった。
カウンター席もあるが、座席の方が圧倒的に多い。
「……そうだな」
「メリ~」
「あっち空いとるわ」
「メリ!」
俺はサイレンとエアリーを連れて座った。
「さて、メニューメニュー」
メニューを確認すると、さらに驚いた。
コガワにもお米を使った料理はあるが、
基本的には小麦が主食でパンやパスタなどが主だった。
だけど、イナミはお米が中心の料理が多い。
お米だけではなく、
豆を使った調味料、
醤油や味噌を使った料理もあったのだ。
「へ~
和食料理も充実しとるんやな」
「メリ~」
「……意外そうだが、
練人は何の料理をイメージしていたんだ?」
サイレンはエアリーを膝の上に置いて抱き締めていた。
「せやな。
小麦が中心でお米や醤油、
味噌は少数、
てか、全然ないと思っとったわ。
ほんで俺がいずれ、
“ああ、和食懐かしい”
と嘆くまでがセット」
「……練人の言葉から察するに、
料理も近いということか。
私としても意外とイメージしやすいものなんだな」
「……まだ歩き回ってへんし、
雨降りそうやから確認する暇なかったんやけど、
イナミは雰囲気的に田舎って感じやわ」
田んぼあったし、
施設も行ったことがある都市と、
比べれば都市まで繁栄していない。
今いる世界の都市はまだ見たことないけどな。
「……確かに私の杖を買った時の街と、
比べると田舎であると認めざるを得ないな」
「メリメリ!」
話をしながらサイレンはエアリーを撫で始めた。
「前に言っとったな。
あんま見てへんやったんやろ?」
「ああ……
だが、杖を探しに行く時に、
歩く必要があったからな。
街の雰囲気は見る機会はあったさ」
「なるほど」
「……料理決めたか?」
「あっ、せやな。
……マッカレルの味噌煮?」
もしかして、鯖の味噌煮のことだろうか。
マッカレルは確か鯖の英語読みだったし、
今いる世界、英語読みが多いからな。
「……マッカレルが気になるのか?」
「……マッカレルの味噌煮を頼むわ」
「……私は川魚定食をーー」
「サイレンって魚料理好きよな」
コガワにいた時もよく魚料理を食べていて、
ああ、サイレン、魚好きなんだなと思っていた。
「ああ……
思ったが、練人。
練人は私がドローで魚を釣った時に驚いていたが、
コガワにいた時に話したと思う。
何故、驚いたんだ?
忘れていたのか?」
「い、いや、一種の冗談やと思っとったし、
ほら、今日の体験から読み始める読者もおるかも知れへんやん?
読者にサイレンの人柄を教えなあかん時もあるんや」
「……キャラ説明というやつか。
……なるほど、そういうことにしておくか」
納得してくれたみたいだ。
「あ、すんませーん!」
「はい」
「彼女に川魚定食、俺はさーーー。
こほん。
マッカレルの味噌煮と普通盛りのご飯、
沢庵もつけてや」
「確認しますね。
川魚定食が一つ、
マッカレルの味噌煮が一つ、
普通盛りのご飯が一つ、沢庵が一つ。
よろしいでしょうか」
「頼むわ」
「かしこまりました。
少々お待ちくださいね」
俺は暇潰し兼、
朝食候補を調べるためにメニューを読み続ける。
「……おっ、納豆もとろろもあるやん。
オクラもあるみたいやし、朝飯でええか」
「……納豆とかを食べるのか?」
「ん?
サイレンは食べたことないん?
もしかして、ネバネバは嫌いやったりするん?」
「……食べたことはないな。
納豆もとろろもオクラも……」
「なら、食べた方がええわ。
めっちゃうまいし」
「……わかった」
「メリ?」
けど、納豆とかもあるのなら、
蕎麦やうどんもあるやろう。
確認すると案の定あった。
しかも、安い。
そして、体感的に思っただけだが、
一デラルは俺の世界やと百円と同じ価値だ。
つまり、初期費用の八百デラルも、
元の世界で換算すると八万円になる。
「……思えば親切やったな。
合理的ではあるけど」
「……ん?」
「メリ?」
そう。
俺はそうするしかなかったとはいえ、
冒険者登録の時に登録費用が掛かったり、
初期費用がなかったら武具も買えなかった。
初期費用があったから何とかなったと言える。
もしかしたら、サイレンに借金する未来もあったのかも知れない。
「……説明はこの辺りで終わりにしよう」
「……説明?」
「メリ?」
「小説は何でもありの世界やけど、
せやから暗黙のルールというのがあるんや。
代表例が説明が多過ぎたらあかんって奴や。
書き始めはやりがちやけどな」
「……説明が多過ぎてはいけないのか?」
「せや。
ほら、サイレンも学生の時期があったらおったやろ?
校長の話が長過ぎ、かつ興味なくて眠る奴とか」
「……ああ、いたな。
……なるほど。
……あまり長くし過ぎたら読者が飽きたりする。
結果、話を閉じるということか」
「せやせや。
せやから地の文でも話す時も、
説明し過ぎてへんか注意せなあかんねん」
「……他には?」
サイレンはエアリーの餌箱に、
メリボー専用の餌を入れて、
エアリーも嬉しそうに食べ始めた。
俺もエアリーを撫でる。
「せやな……
毎日書かなあかんとか?
些細なことやありふれた内容でも、
何でもええからとにかく毎日書かなあかんねん。
書き続けていれば少しずつやが上達するやろうし、
読者にも読んでくれるしな」
まあ、俺も人間だから、
毎日ギリギリになって書き続けて完成させることもある。
当初は朝の八時まで書き終えようと決めていたのに、
ズルズルとハードルを下げて、
八時越えなければOKなんてこともある。
ついでに修正しやすいと言うこともあって、
時折、修正して文字数などを増やしている。
まだ読んでくれる人が少ないからできることだ。
「……なるほど」
「後、あまり戦闘描写は得意やあらへん」
「……そうなのか?」
「せや。
戦闘多いところやから自然と戦闘は多くなるし、
書かなあかんけど、どうしてもアーー。
劇と比べると見劣ってしまって」
アニメや映画は動きを動画で見れて迫力もあるから、
人気は高いが、小説だと一つ一つ文字にしないといけない。
文字を並べるからアニメなどを比較すると迫力は落ちる。
文字だらけのゲームもあるが、
背景や人物画があってBGMも流れるから、
読んでも気にならずに読めることもある。
「前に一度だけ戦闘が多い作品も書いたんやけど……
モチベーション上がらず、
虚しいというか嫌になって没にしたんや」
使えると思った設定もいくつかあるが、
書く内に投稿するために戦闘を書かないといけなくなり、
まるでゲームのような感じになり、
戦闘が作業感が強くなり、
泣く泣く没にした経緯もある。
何度も書くが、俺は決して完璧な人間ではない。
むしろ、欠点が多いだろう。
「結構あるねんな、俺。
設定だけ練ってよし、投稿!
勢いに任せて説明多かったり、
爪が甘くて没にすることも」
「……そうか」
「お待たせしました!」
話し込んでいると注文した料理が出た。
「おっ、美味しそう!」
「……そうだな」
「いただきます!」
「……いただきます」
そして、食べ始める。
鯖の味噌煮、
もといマッカレルの味噌煮はぷりぷりで、
味噌も甘く美味しかった。
「美味しいわ!」
「……ああ、川魚料理も悪くない」
「メリ!」
サイレンも黙々と食べ始める。
コガワの時もそうだったが、
俺達は食事中は喋るタイプではなく、
食べる間は無口になることが多い。
サイレンとは長い付き合いになりつつあるから、
気にせずに、むしろ居心地が良いと思うことが多い。
「ご馳走さん!」
「……ご馳走様」
「メリ!」
「ほんなら戻るか」
「ああ……」
食事を終えれば自分達の部屋に戻る。
長居していれば、普通に迷惑だ。
エアリーは普通に俺の頭の上に乗り始めた。
ちょくちょくやるから俺も慣れ始めてた。
可愛いし。
癒されもする。
「意外と何とかなるもんやな」
「……何が?」
「メリ?」
「いや、俺が転移者であることは、
サイレンや読者にバレたんやが、
せやからこそ書けることもあるし……」
「……そうか」
「まあ、バレてもうた分、
俺の伏線は殆どなくなったんやけどな!
正体バレもいずれ来るだろうと思ったけど、
思った以上に早かったし!」
何度も言うが、
正体バレシーンは他の作品でも感動したり、
緊張したりするものだ。
けど、
俺の場合は感動したり緊張したりするシーンではなかったと思う。
いや、別の意味で緊張したけど、
俺の求めていた緊張ではなかった。
「本当はもっと感動的な場面で、
告白するんやろうなと内心期待してたけど、
あらへんかったわ……
推理で追い詰められる犯人のような気持ちになって……
いや、何でもあらへん」
まだ、書き終えたのを、
読ませていなかったの思い出し途中で切る。
流石にネタバレ過ぎるだろう。
「メリ?」
「……途中で切ったな」
「まあ、俺が隠し事しとるのは、
小説のためが多いってことで堪忍な!」
普通はあまり公に言わない方がいいが、
部屋にいるから多少は大丈夫だろう。
「メリ!」
「……わかった。
……さて、温泉に入りに行こう」
サラッとサイレンはそう言った。
今回の旅館には温泉があり、
泊まっていればタダで入れる。
朝風呂もいいらしい。
「せやな。
俺も入るわ!
いや~まるで温泉旅行に言った気分やわ~!」
「……そうだな。
練人は温泉旅行に行ったことはあるのか?」
「あるで!
最近では一人だけで行ったこともあるわ!」
行った場所は豊臣秀吉に由来がある温泉地。
“有馬温泉”だ。
一人で行った時は緊張したものだ。
何せ、今までは両親と一緒に行くしかなかったし、
緊張もしたのだ。
「……意外とアグレシッブなんだな」
「まあな!」
温泉地で坂道に躓いて足を怪我して、
痛みながら足を引きずって帰ったこともある。
間抜けな話だが、言うことではない。
「温泉に行った時の体験を元にして、
小説書いて投稿したこともあったわ」
「……そうか」
「ほんなら行くわ。
サイレン、急な坂道にご注意を」
「……?
ああ、わかった。
体験から得た忠告か?」
「さあね。
エアリー留守番頼むで」
「メリ!」
そして、俺達はそれぞれ温泉に入り、
部屋に帰って寝た。




