第34話 曇りの日
天気は移ろいやすいのか、あれだけ晴れていたのに、急に雲が怪しくなっていた。
「……サイレン、やばくない?」
「……もうすぐ着く」
周辺が田んぼが多くなり、言われた通り米がたくさんある町だと思ったが、それに鑑賞する暇もなく俺達は町の中に入った。
「えっと、冒険者ギルドはーー」
「あそこでございます」
「急がな!」
俺達は急いでイナミの冒険者ギルドに入った。
ギルドの中はコガワと似たような感じだが唯一違うのは二階になっており、酒場になっていると言うこと。
「おおっ、ここが……」
「……すまない、ちょっといいか?」
「はい。
イナミ冒険者ギルドにようこそ。
御用はなんでしょうか?」
「この二人の冒険者に護衛を頼んでもらったのだよ。
これが証明書ね」
証明書を受け取るとイナミの受付嬢はしばらく確認して笑顔で頷いた。
「確認終えました。
お二人とも、報酬を受け取ってください」
「ありがとうございます」
「例を言うのはこちらの方ですぞ。
それでは私はここで……
店の準備もありますので」
「はい、頑張ってくださいね」
「……しばらくここを拠点にする。
……宿を教えてくれないか?
……ついでにイナミの地図も欲しいのだが」
「はい、少々お待ちくださいね」
少し待っていると受付嬢は二枚の地図を持ってきた。
「こちらがイナミの地図となります。
そして、確認したところ『稲穂の宿』が空いているらしいですよ」
「ほんなら、行くか」
「ああ……」
急がないと、さらに天気が悪くなって雨が降りかねない。
そんな時に呑気にイナミを確認する暇もあるはずがなく、急いで地図を頼りに稲穂の宿に向かった。
「いらっしゃいませ、ようこそ『稲穂の宿』へ」
稲穂の宿は雰囲気のある宿でほぼ木製だった。
昔の旅館のようにも見える。
「部屋空いてます?」
「はい、空いてますよ」
「……ほんなら」
「……少し待ってもらおうか」
「……へ?」
サイレンはじゃんけんをするポーズを取っていた。
「……コガワの時と同じだ。
……どうせ、平行線だ」
「……やと、思ったわ……
ほんなら行くで!」
「「……最初はグー!
じゃんけんぽん!!」」
結果は七回ほどあいこになった後で俺はチョキ。
サイレンはグー。
「……私の勝ちだな」
「……くっ、負けた!」
「……それでは一緒の部屋で」
「かしこまりました。
三十二号室の鍵で三階になります」
負けて悔しがっている俺を余所に、サイレンは淡々とカギを受け取り、三十二号室へ向かう。
コガワと同じだから立ち直りも早く俺はサイレンの後を追いかけた。
三十二号室はコガワの時と違って和風であり畳も敷かれていた。
「へぇ~!
和風やな」
「……和風?」
「俺の故郷の言葉で日本特有の伝統や味わいを感じさせる様式のことを指すんや」
「……イナミは練人の故郷に近いのか」
「かもな!
説明やと温泉もあるみたいやし、楽しみやわ!」
「……そうか。
……ただ、雨になったな」
そう言って外を見ると雨が降り出し、音も強くなっていた。
「まあ、必要なことやししゃーないわ!
むしろ、間に合って良かったやんか!」
「……そうだな。
……練人は元の世界で何をやっていた?」
「学校に通っててん。
高校生や」
「……学校か」
「ほんで、本をたくさん読んで小説をちょくちょく書いて普通の生活を送ってたんや」
「……戦いはなかったのか?」
「せやな。
平和そのもので戦う職に着く人もおるが、基本は戦いとは無縁やわ」
「……魔法はなかったと言っていたな」
「せや。
けど、サイレンが来たら絶対びっくりするで!
大慌てするし、俺が見知ったものは魔獣に間違えるかも知れへんわ!」
「……そこまでなのか?
……いや、練人の驚きを見るとそうなるかも知れないな」
「俺に取っては何でもかんでも新鮮に見えるからな」
「……魔獣もいないのだな」
「……おらへんけど野生動物もおるし、獣害もあるんや。
それを討伐する人もおる。
何やったらゲームでやることもあるしのぅ」
「……ゲーム?」
「遊び……
トランプのようなものや」
「……なるほど」
「俺の世界にもTRPGという遊びがあってな!
割と好きやねん!」
「……TRPG?」
「テーブルロールプレイングゲームのことや。
言うなれば劇のようなもん。
大人がやるごっこ遊びの延長線や」
「……練人はできるのか?」
「……できるがルールまでは完全に覚えてへん、流石に」
あれはかなり分厚いから全部覚えきれない。
ルールブックは親父が持っているが、キャラ作成の時によく使っている。
「……そうか」
「後は音楽を聴いてたりとか、カメラ持って散歩したりとか……」
小説のために徒歩で行って遠出することも多々ある。
「……ふっ、やっていることは今もそう変わらないってことか」
「そういうことになるわな。
まあ、関西人が中心の転移物は珍しいと思うわ」
「……何故だ?」
「基本は東京もん……
つまり、東の人が主役の作品が多いんやわ」
「……何故だ?」
「東京が日本で有名でわかりやすいからやろ……
東京は日本の首都……
えっと、中心の街や」
まだそこまで読み切れていないといえばそうかも知れないが関西人が主役の作品はかなりマイナーだろう。
「なるほど……
確かに都市の人間が主人公という話も多い。
それとは別に田舎出身の者が主人公という話もあるが、特別な出身な者になりがちだ」
いわゆる三国志のようなものだろう。
「まあ、俺らには俺らの物語がある。
今日もその物語の一ページや」
「……そうだな。
……練人のライトは独特の形だが、それも練人の世界の文字を書く方法なのか?」
「ペンで書くこともあるけど、そっちの方が馴染み深いわ」
「そうか……
近くで見ていいか?」
「ええで。
まだ晩飯まで時間があるさかい、今までのことを書くついでに見せてやるわ」
そう言って紙を取り出す。
「《ライト》」
これは本当にタイプライターに近く、しかも文字も消せるからタイプライターよりも高性能だ。
そして、サイレンが近くで見ている中で俺は小説を書き始めた。
俺に取ってはやっぱり小説を書くのは面白い。




