第28話 ドラゴンの誇り
「おいおい……
何でドラゴンがコガワにいるんや!?」
「……恐らく年老いているからだ」
「と、年老いている!?」
「……落ち着け練人。
よく観察すれば練人でもわかることだ」
「か、観察やと……」
サイレンの言う通りにドラゴンを観察すれば、
確かにその通りだと納得できることだった。
翼はボロボロで飛べないのは明らかだ。
そして、皮膚も傷が残っており、痩せ細っている。
木々を倒すほどのパワーは残っているが、
かつてのような凶暴さは抜け落ちている。
凶暴さが残っていれば観察なんてできなかっただろう。
「……年老いているより、
戦いに負けて落とされたんじゃない?」
「……なら、わざわざ外敵に会わないさ。
怪我してもジッとしていれば治るからな。
加えて戦いに負けたドラゴンは、
プライドが傷ついてかなり凶暴になる」
「……確かにプライド高そうもんな、ドラゴン。
せやけど、年寄りドラゴンが何でゴブリンの住処にいるんや?
ゴブリンを食いに来たんか?」
「……確かに年老いてもドラゴンならゴブリンには負けず、
喰らってそうだな」
「……Hランク案件?」
「まさか……
年老いてなければBランクだが……
年老いていればEランクが妥当だ」
「……Eランクでも遥かに上やんか」
「……そうだな」
「……どないすんねん?
ゴブリンを食べにきたんやったら、
しばらく放置してゴブリンの死骸を食わせるか?
討伐成功を報告できるか微妙やが、
数体なら言い訳も立つやろ?」
「……普通ならそうなるだろうな。
……普通なら」
「……含みのある言い方やんか?」
そういえば、ドラゴンは襲い掛からないが、
品定めをするように俺達を見ている。
特にサイレンを見ることが多い。
「……グルアアア!」
「な、何や!?」
「……すまない。
……どうやら、ドラゴンと戦うしかないようだ」
「な、何でやねん!?」
「恐らく、ドラゴンは……
……死期が近いのだろう」
「死期?」
「……年老いたドラゴンは通称『オルド・ドラゴン』と呼ばれていて、
ある者以外は人を襲わない大人しいドラゴンとして扱われる」
「……“ある者以外”?
ある者って何やねん?」
「……戦い甲斐がある敵」
「……へ?」
「……例え、戦って死んだとしても、
構わないと思えるような敵だ。
……ドラゴンの琴線に触れるような、
最後の戦いとして相応しい相手。
……ドラゴンが戦いたい相手だけを襲うんだ」
「……結構名誉なことやないのか?」
「……確かに名誉なことだ。
……オルド・ドラゴンに目をつけられるってことは、
戦う者にとっては箔が付く上に、
勝っても負けてもギルドから評価される」
「勝っても負けても?」
「……勝って死ぬのならよし、
負けたとしても世界の広さを相手に教えて、
戦った者の未来の礎になるのなら朽ちても構わない。
……誰とも戦わず、醜く老いて死ぬのならーー」
「……“誇りのある死”を求めているってことか。
ドラゴンの咆哮は決闘を要求する……
いわば、手袋を投げるようなもんか」
「……そう言うことだ。
……当然、ドラゴンからの決闘を」
「冒険者なら避けて通る理由はあらへんってわけかいな」
「……そうだ。
……ドラゴンが直々に世界の広さを教えてくれるのなら、
私としても意義がある」
「……ドラゴンとの戦いって、サイレンだけの戦いなんか?
俺も参加してもええんか?」
「……ドラゴンとしては仲間と一緒に戦うも、
仲間を信じて見守るのも構わない。
練人は?」
「……ビビったんやけど、名誉ある戦いなら参加したい。
ドラゴンとの戦いは、
俺としても貴重な体験になるから」
「……決まりだな」
サイレンは笑うと、杖をドラゴンに向けた。
「……わかった。
……オルド・ドラゴンよ。
……お前の最後の戦い……
……“サイレン・マジャン”が引き受けた!」
サイレンの声はまるで、
宣誓のようで堂々としていた。
「お前が戦うサイレンの仲間、
“練人”も参加するで!
ーーけど、その前に!」
「……ん?」
「ちょいと触らせてくれへんやろうか!」
「……何を言っているんだ、練人は?」
ドラゴンも呆然と、
俺を見ているような気がするがどうでもいい。
「よう考えてみぃサイレン。
本来触る暇もないような強くて、
生きた魔獣相手に触るとかできひんやろ?
今やったら、触り放題や。
俺としてもドラゴンは初めてやから、
今のうちに触り心地とか知っておきたいんや!」
いずれ、ドラゴンと戦うことになるだろうなと薄々思っていたが、
触る機会としたら普通は死んだドラゴン相手になるだろう。
けど、今なら生きたドラゴンを触ってもいいだろう。
「誇りを持って死ぬんやったらちょいとくらい構わへん?
今だめやったら俺が後悔するし」
「……一応、確認はするがいいだろうか?」
サイレンも流石に予想外だったのか、
呆れながら一応ドラゴンに交渉してくれた。
創作物なら呆れているような汗を垂れ流してるだろう。
「……グフッ」
ドラゴンはまるで了承するように唸り声をあげてジッとしている。
「……いいようだ」
「ほんなら、遠慮なく」
俺は恐る恐るドラゴンに触れてみた。
ドキドキしながらの触れ合いは、
サメに触れるような気持ちに近い。
普通は怖い生き物も触っても大丈夫な状態だと、
恐怖よりも好奇心が勝つものだ。
「おおっ!
結構ゴツゴツしとるわ!
皮膚ボロボロやけどしっかりとしとるわ!
古傷のある戦士って感じでカッコええし!」
俺がベタベタと触ってもドラゴンは嫌がっていなかった。
「……すまない、私もいいだろうか?」
サイレンもドラゴンを触り始める。
ドラゴンは“お前もか”という眼差しで、
サイレンを見ていた。
「……練人の言う通り、
ドラゴンに触る機会はないからな」
サイレンも好奇心は強い方なので、
逆らうことはできなかったようだ。
そして、俺たちはひとしきりにドラゴンを触った後、
満足して距離をあける。
「……貴重な体験だった。
……では、始めようか」
サイレンが瞳を閉じる。
「ッ!」
すると、素人の俺でもわかるくらいの殺気を、
オルド・ドラゴンに向けて放つ。
「ガアアア!」
殺気を感じたのか、
オルド・ドラゴンもサイレンに向けて咆哮を上げる。
上げたまま尻尾を振り回してサイレンを狙う。
「うわっと!」
俺は尻尾攻撃を飛び退いて避けたが、
サイレンは違った。
「……《プッシュ》!」
プッシュ魔法を使って尻尾の軌道を逸らした。
「……《シャイニング・ライフル》!」
サイレンは続けて光の貫通魔法を発射するが、
ドラゴンの硬い鱗に阻まれた。
「……硬い!
はぁ!」
俺の剣攻撃も全く通用しない。
ドラゴンだ。
俺の魔法は全て通じないだろうし、
撹乱も通用しない。
剣を振り回しても岩のような鱗や皮膚には通じずに弾かれる。
初期武器のまま使っているから、
しょうがないが、
通じないのなら俺の役目は自分の体を使っての撹乱にしかならない。
「サイレン!」
「……《シャイニング・バレット》」
サイレンは構わず光の弾丸をドラゴンにぶつける。
ゴブリンを一撃で葬った魔法でも、
流石にドラゴン相手では通用せずに、
ガキンと鈍い音を立てて弾かれる。
「……バレット程度の魔法は平気か。
……流石ドラゴンだ」
オルド・ドラゴンはサイレンに目掛けて突進攻撃を仕掛けるが、
サイレンは華麗に躱す。
「……《プッシュ》!」
プッシュ魔法で今度はドラゴンに直接叩き込んだ。
しかし、プッシュでも大したダメージにならず、
ゆっくりとサイレンの方を振り向く。
「……《フロート》」
サイレンは構わずにドラゴンに浮遊魔法を使うが、
いくら翼がボロボロで飛びなくなったからと言って、
ドラゴンが浮くことはない。
「……くっ!」
むしろ、途中でずしんと重過ぎて手を離すような顔になって、
サイレンは解除する始末。
「大丈夫か、サイレン?」
「……大丈夫だ。
……やはり、思った通り、
ドラゴン相手では基本魔法は相性が悪かったみたいだな」
落ち込む様子はなく、
むしろ確認できて良かったような顔を見せる。
オルド・ドラゴンは噛みつき攻撃をするが、
大木は容易く噛み砕く。
「くっ!」
「……遊びは終わりにしろと、
ドラゴンは言っているみたいだ」
「あ、遊び!?」
「……私にとっては危険を承知の上で、
確認したかったことなんだが……
……様子見は終わりだ」
「……ガアアア!」
再びサイレンに向けて噛みつこうとしたドラゴンだが、
サイレンはギリギリまで引きつけて回避する。
「……《シャイニング・バーニング》」
回避する間際に至近距離で、
サイレンの得意魔法を炸裂する。
威力は絶大で一撃でドラゴンを怯ませることができた。
「グルル!」
しかし、倒しきれずにドラゴンは後退する。
「……シャイニング・バーニングが厄介だとわかったか」
誇りある死を求めて戦う以上、
ドラゴンは逃げることはしなかったが、
じっくりとサイレンの動きを見る。
ただ単にやられる気は毛頭ないようだ。
「……どうする、サイレン?
俺の攻撃は全部効かない」
「……お前の中には魔力がある。
魔力はお前のイメージに付き合ってくれる」
「え……」
「……お前が弱気に思っている以上、
あいつには勝てない。
勝てないイメージが引っ張るからだ」
「ッ!」
「……実力が足りない。
……わかる。
魔法に必要なのは“自分を信じる心”と、
信じる心に見合った“実力”だ。
欠けていては何も成功しない。
二つの中で大事なのは自分を信じる心だ」
「でも、実力に合ってないとーー」
「……考えろ。
今、お前は待ち合わせしている。」
「待ち合わせ?」
「……魔法などを使う時、お前は早くに着いたと信じる。
……そして、いつ来てもいいように魔法を待ち続けろ」
「……待ち続ける」
「……私はいつもそうしている。
新たな魔法が覚えられると信じて、
魔法を待っている。
いつでも使えてもいいように……」
「……サイレン」
「……お前も自分の中に秘める力を信じろ」
「……わかった」
自分では倒せないというマイナスイメージはなしだ。
サイレンは俺のことを相棒だと言ってくれた。
サイレンの期待に俺は応え続けないといけない。
「おらああ!」
隙を突いてドラゴンに切り掛かってもやはり弾かれる。
何度も切り掛かっていれば剣が刃こぼれしてしまう。
「くっ!」
やはり、弾かれる。
俺の力と剣の力では足りない。
俺の魔力は俺のイメージに直結する。
ならば、切り裂けるものをイメージしろ。
今戦っているドラゴンの皮膚を、
尻尾を切り裂けるもの、
最後まで一緒に戦える姿を。
「……スゥ」
ドラゴンが俺に向けて突進を仕掛けてきた。
恐怖が近づいてくる。
焦るな、集中しろ。
一緒に戦ってきた以上、
今持っている剣のことも多少知ってきたはずだ。
なら、間に合う。
足りないのなら、さらに魔力の力も重ねる。
「はああ!」
魔力が練られて纏った剣でドラゴンに立ち向かう。
「ぐるああ!」
剣がドラゴンの皮膚を切り裂き、ダメージを与える。
「はあ、はあ……」
剣を見ると、剣の柄から魔力が放出して纏っている。
「……行くぞ、練人」
「ああ……!」
ドラゴンの咆哮が響く。
咆哮を聞いてすぐにドラゴンに近づく。
ドラゴンの願いは名誉のある死。
殺してくれる相手に俺達を選んでくれた。
なら、ドラゴンの思いに少しでも応えないとカッコ悪い。
サイレンだけだとしても、
仲間なら一緒に戦いたい。
「せい!」
ドラゴンに攻撃が通るようになり、
多少気を引けるようになった。
転がりながら、ドラゴンの攻撃を躱し、
少しでもサイレンに気が向けないようにする。
「デリャアア!」
ドラゴンの攻撃を剣で受け流して、
少しでもダメージを与える。
俺のやるべきことは、
サイレンが攻撃しやすいように場を整えること。
「……今だ」
サイレンがグルングルンと回転した。
杖の先には光が満ちて輝いていた。
「……《シャイニング・バーニング》!」
ドラゴンの腹部に目掛けて、
高威力のシャイニング・バーニングを叩き込む。
「ガッ……!」
もろに食らったドラゴンは地に伏せる。
「……眠れ、オルド・ドラゴン」
サイレンの声に対してドラゴンは笑ったように見えた。
そして、オルド・ドラゴンは満足したかのように、
唸り声をあげて眠りについた。




