第20話 雨の日の冒険者
雨。
生命には必要な時期で、天から水が降り注ぐ日。
だが、同時に多くの人を建物の中に留まる日でもある。
冒険者も同じで、
特に低ランクの冒険者に与えられる依頼はなかった。
「ふっ、ふっ!」
依頼がない日だから、
今日は宿で一日中いることになった俺達。
サイレンに言われて筋トレをしている。
「はぁ、疲れた~!」
「……毎日続けることは重要だ、練人」
「サイレンは回数少ないけど、毎日やっているの?」
「……ああ、前はもっとやりたかったが、
今では少なくても毎日続ければいいと思っている」
「へぇ」
サイレンは自分がやる回数を終わらせると、
俺の小説を読んでいた。
「……この前の冒険者とのやり取りで、
カナイチのキャラに矛盾はなくなっているな」
「それはおおきに」
結構デラルを使ったが必要経費として割り切るしかない。
「にしても、雨やから暇やわ」
「……そうか?
……いつもは動き回るから、
今日くらいは読書しても許される日だと私は思う」
「せやけど、俺の小説はまだ少ないで?」
「……もう一つの小説もあるし、
故郷から持ってきた本も多少ある」
「……ゑ?
もう一つって俺達の今までの読むんか?」
「……私も出るんだ。
練人視点でもいいが、
矛盾がないか確認する権利は私にもある。
特に練人が書いた小説を秘密にするなら、
私だけの特権と言っても過言ではない」
「マジか……」
ちょっと恥ずかしい描写もあるが、
サイレンに読まれるのか。
「……何を怖気付いている?
いずれ世に出すのなら私程度に怯んでいたら、
他の人に読ませられないぞ」
「せ、せやけど、やっぱ緊張すんねん。
ほら、変な言葉遣いやし、
小説家になりたいと言ってもまだまだ初心者やし」
「……千話くらい書けばある程度慣れるだろ?
……私はやっていないからわからないが、
練人の苦労を考えると、
他の作者も似たような苦労をしていることがわかる。
……興味のない話、
嫌いな話があるのは事実だが、
苦労しているのは認める」
「……興味のない話?
嫌い話?
何や?」
「……はっきり言えば私はあまり流行に関心を持たない。
だから、流行に関する知識は魔法と比べると、
圧倒的に足りていないんだ」
「ああ、サイレンって流行に乗らない感じがするわ」
「……練人はそうじゃないのか?」
「流行は俺もようわからん。
わからんが、例えば衣装。
キャラの衣装の参考にせんといかんからな」
キャラの価値観やと、
流行り物が好きなキャラは一向にできない。
多くのキャラは出すつもりはないが、
自分から作れるキャラを狭めるのはいかがなものかと思う。
「……確かにおしゃれなキャラが、
流行りの服を一つも知らないのは矛盾だな」
「矛盾のない小説にするんは、結構むずいってことや」
何でもかんでも興味をわかないといけない。
好奇心を刺激されたら、調べないといけない。
器用貧乏になりかねないもので、
一つに特化した人には勝てないことを意味をする。
「……多芸は無芸という言葉もあるしな」
だが、多芸は無芸言葉が、
俺の戦闘スタイルに直結するかも知れない。
剣での戦闘も蹴りでの戦闘も、
魔法での戦闘もと何でも手を伸ばして、
中途半端になりかねない。
「……私は魔法特化で魔法が中心だ。
私の夢は冒険者だった以上、
肉体も鍛えるのは不思議ではないからな」
「他の魔術師もそうなん?」
「……まだ体を鍛えていない魔術師の方が多いな」
「……まだ?
引っかかる言い方やな」
「……小説で言うところの伏線だと思ってくれ」
「小説で嫌いな話は?」
「……例えば、最初から仲間なのに欲に任せて切り捨てるところ。
切り捨てられた仲間が、
途中でかなり強くなるのは都合が良過ぎるし、
捨てた仲間に共感もできない。
……私は絶対にしないから読む気がないんだ」
「ほうほう」
要するにサイレンは『ザマァ系』が嫌いなのだろう。
『悪女系』も好きそうではない。
「……練人の顔はなんだ?」
「いや、俺も伏線として取っておくってことで」
「……よくわからないが、納得するしかない」
まあ、多くの作品を書くと決めた以上、妥協はない。
コナン・ドイルや横溝正史、
アガサー・クリスティーではない。
俺は俺。
作者名は【才練人】。
才練人の名を轟かせるしかない。
書きすぎるのは良くないが、
とりあえず書いてみる精神は大事だ。
「……何をする?
練人」
「……困るな」
すると、ノックする音が聞こえた。
「ん?」
ドアを開けると、
やってきたのはカールイパーティーだった。
「よっ、暇か?」
「暇やけど、カールイはどないやねん?」
「俺達も暇だ。
暇だから、ちょっと親睦を深めようと思ってな。
邪魔だったか?」
「邪魔やないけど、
ちょいと待ってや」
俺は扉を一旦閉めた。
「サイレン、二つの小説隠しといてくれ」
まだ、他の冒険者に読ませる勇気はない。
二つ目は特に。
「……わかった」
サイレンは引き出しの中にしまい、鍵をかけた。
「ええで」
「お邪魔しまーす!」
「すみません、ゾロゾロと入ってしまって」
カールイは遠慮なく入り、
ダイヤナさんは少し申し訳なさそうに入ってきた。
ルビィズさんも入ってくる。
「おお、二人だけだから広く感じるな」
「逆に六人やから狭くなるってことやけどな。
ほんで、親睦を深めるって言ったんやけど、
どないすんねん?
いきなり言われたから何も用意してへんで」
「まぁまぁ!
ダイヤナがクッキー焼いてくれたから」
「ど、どうぞ」
「ダイヤナさんってお菓子作れるんか?」
「は、はい」
「我が娘は母から料理を仕込まれていてな。
母と同じように料理はうまい」
「もう、お父さん」
ダイヤナさんが少し照れて頬を赤くした。
俺は和やかな空気のままサイレンを見た。
「……何だ?」
「聞きたいんやけど、
サイレンって料理の腕はどないやねん?」
「……得意料理は焼き魚」
「グリルで?」
「……いや。
串に刺して焼くタイプだ。
他となるとスープ系や鍋系になる」
魚に関しては意外とワイルドと思ってしまう。
冒険者としては正しいのかも知れない。
スープ系も鍋系も食材を煮込むから簡単料理でもあり、
古風と言えば古風。
「お菓子作りは?」
「……料理本を読めばいい」
「さ、さよか」
少なくとも激マズ料理はないと安心すべきだろう。
わからないのなら、
無理したり、
思った通りに好き放題入れたりせず、
料理本を忠実守る。
「……練人は?」
「俺も簡単な料理は……
興味ないかと言われたら嘘になるわ」
最近では料理をする小説や漫画も増えてきているし、
作ることは嫌いではない。
食材を切ったりなど簡単な調理はできるが、それまで。
後はサイレンと似た感じになる。
「……つまり、
今のところ激マズ料理を食う可能性は、
今のところないってことやな」
頭に思い浮かんだのは様々な激マズ料理。
リアルにあってたまるかと思う反面、
リアルでも驚きの方法で調理して地獄を見せる人はいるからな。
油断大敵だ。
「俺達のパーティーじゃ、
調理はもっぱらダイヤナで、
ルビィズさんはテントなどの準備。
俺はルビィズさんの手伝い」
今のところは宿に泊まる生活だが、
旅をするとなると意識もしないといけないだろう。
「練人達は?」
「……まだわからないな。
私は大丈夫だが……」
俺もテントの張り方とか勉強しないといけないだろうな。
「気になったけど、
昨日、練人、俺達に結構奢ってくれたけど、
何でなんだ?」
「そうですね。
クラフさんはとても喜んでいましたけど、
普通はしませんもんね」
「奢りたい気分ってことで」
「奢りたい気分?
メモして取材っぽいことしたのに?」
「俺もまだまだ初心者やからな。
先輩達の話を聞いて色々勉強したいねん」
「真面目だな、練人は」
ルビィズはうんうんと頷いた。
「練人達はずっと二人で冒険者やるのか?」
「うーん、どないやろ。
俺は冒険者になって色々やりたいと思ったけど、
はっきり言えばノープランや」
「サイレンさんは?」
「……同じくノープランだ。
あてもない」
「……案外、二人とも似た者同士だな」
「……でも、だからこそコンビとしては、
悪くないかも知れませんね」
ダイヤナは少し笑った。




