第14話 サイレンの実力
「おおっ!」
徒歩で依頼場所まで歩いたが、
広大な草原だった。
草花が生い茂っており、
蝶々が飛んだり鳥が囀っていた。
「結構綺麗な場所やんか!」
「……私は正直、馬車で見慣れている。
……感動しているよりも先に警戒しておけ」
「わかっとる、わかっとる。
えっと、カエルスライムやろ?」
双眼鏡で確認すると、
ゾロゾロといた。
カエルの頭をした、
気持ち悪いスライムのような生き物。
一体一体の大きさは、
近くにある岩と同じでチョイッと大きい。
そして、一体が食事をしたのか、
動いている魔獣を長い舌で引っ張って丸呑みした。
「……魔獣を丸呑みしたで」
「……危険だろ?」
危険だ。
家畜も平気で食べるだろう。
家畜ならまだマシで、
外に出た子供も容赦なく喰らう。
何も武器も対抗手段も持たない相手を食い殺すのは、
自然界では普通だからな。
「せやな」
同時にカエルスライムに対しての恐怖はない。
あることに気付いたからだ。
うまくすれば攻撃を受けずに済むかも知れない。
「……ハハッ」
「……何を笑っている」
「いや……
俺の兄やったらカエルの時点で、
受けへんかったなって」
「……兄がいるのか」
「いたで。
俺の兄はめっちゃカエルが嫌いでな。
似た形もあかんねん」
「……そうか。
そういう話はしたいが、
私自身が言ったからな。
今はカエルスライムを倒すことに集中しておこう」
「全部駆除か?」
「……見える範囲は倒した方がいい」
「……チョイッと待て。
……結構多いで?
パッと見える範囲で、
数えきれないくらいに……」
「……問題ない。
練人は近くのカエルスライムを、
ゆっくりでもいいから倒せ。
練人が戦っている間に私が片付ける」
サイレンは自信満々と言い切る。
彼女はカエルスライムを脅威として見ていないのだ。
「……わかったわ」
言うが早いか、
サイレンは杖をカエルスライムに向けて駆けた。
「へ?
お、おい!
サイレン!」
サイレンは魔術師だ。
俺が思っていた魔術師は魔法による遠距離が主で、
自分から進んで近づくとは思ってもみなかった。
しかし、彼女に迷いはなく、
まるで当たり前のようにもカエルスライムに向かった。
「……《シャイニング・バーニング》!」
先手必勝。
サイレンの杖から膨大な光が放出された。
しかし、
杖は慣れ親しんだかのように滑らかで閃光も加減していた。
放たれた一発は絶大で、
カエルスライムがたくさんいる地点に命中すると爆裂。
三体のカエルスライムを吹き飛ばし、粉々にした。
「って、凄い」
光があまりにも綺麗だったため、
思わず見惚れてしまった。
洗練されていて美しく力強い。
シャイニング・バーニングを、
彼女は軽々と制御していた。
「って、感心してる場合やないな……
はああ!」
俺も駆けて剣でカエルスライムを切り掛かる。
ボケっとしていて全部サイレンに任せる気はない。
俺も少しずつでも実戦を積まないと強くはなれない。
「よし!」
深く剣が入った。
しかし、まだカエルスライムは生きており、
俺の方を見ようとしていた。
体の大きさに見合っているほど、
タフだった。
「っと!
せい!」
カエルスライムは舌で俺を、
虫のように捕まえようとしたがすぐに反撃し、
倒した。
事前にカエルスライムは打撃が通じにくく、
逆に剣のような斬撃が通じると知っていたから、
難なく倒すことができた。
その間にサイレンは飛び、
カエルスライムの中央に着地。
「……ふぅ」
すると、サイレンは杖を持って、
まるでハンマー投げをするようにブンブンと回転し出した。
「ーーっ!?」
ブンブンと回転したのだ。
だから、当然彼女の体が回転して揺れることになる。
大きな胸が。
だが、サイレンの顔は真剣そのものだった。
自分の体型を気にせず、
淡々とカエルスライムを倒すことに集中していた。
「……《シャイニング・バーニング》!」
同じ魔法のようだったが、
別物のように見え、
彼女を取り囲んでいたカエルスライムを一掃した。
まるでハンマーのようにカエルスライムを薙ぎ払った。
「よ、四体のカエルスライムを一瞬で……」
当然、カエルスライムも反撃をする。
舌を使って彼女を食べようとするが、
サイレンは滑らかで無駄のない動きでダンスのように、
カエルスライムの攻撃を躱す。
激しく動いているにも関わらず、
彼女は息切れやスタミナ切れを起こすこともなく躱し続ける。
それに至るまで、
どれだけトレーニングをしてきたのかわかるくらいに。
「……《シャイニング・バーニング》!」
二体のカエルスライムを一瞬で倒す。
躱せるということは、
カエルスライムの隙を突けるということに繋がる。
「はああ!」
俺も全力でカエルスライムに切り掛かる。
カエルスライムが舌で攻撃しても、
動き自体は鈍重で簡単に避けられる。
「せい!」
剣で貫き、何とか倒す。
(思った以上にサイレン凄いわ)
カエルスライムは思ったよりも、
タフで剣で数撃当てないと殺し切れない。
数体なら対して脅威ではない。
だが、数が増えると、
処理する内容が多くなる。
恐らく俺一人だけなら、
途中で喰われていただろう。
彼女は二十体のカエルスライムと、
退治しても余裕すら感じられる。
「……」
カエルスライムが俺に向かって丸呑みしようとした。
躱して一旦動きを止める。
すると、カエルスライムは、
目の前にいる俺をまるで見逃したようにキョロキョロとし出した。
「せい!」
カエルスライムの隙を逃さずに、
連続切りで倒す。
思った通り、
カエルスライムはカエルの生態そのままだ。
カエルは動いている物体を餌だと思って襲い掛かる。
だから、動いていないものは極上だろうと見逃すし、
動いているのなら危険な相手でも構わずに食い掛かる。
だるまさんが転んだ戦法は、
守りを中心とするのなら有効だろう。
(そんなトリッキーな動きをしている間に、
サイレンはもう八体のカエルスライムを処理してるがな……
サイレンほど強ければ、
だるまさんが転んだ戦法はいらんわな)
たくさんいたカエルスライムも残り僅かになった。
「でいりゃあ!」
カエルスライムが、
俺を丸呑みしようとするのを躱して体を一回転。
剣に威力を乗せて切る。
カエルスライムを切り裂いて倒した。
「……《シャイニング・バーニング》!」
二体のカエルスライムを倒した後に、
サイレンは最後のカエルスライムに接近。
カエルスライムも抵抗しサイレンに食べようとする。
怯みもせずにサイレンはカエルスライムの攻撃を躱す。
「……《シャイニング・バーニング》!」
すれ違いにさっきと同じ魔法を命中させる。
超至近距離。
なのに、サイレンに被害はなく、
カエルスライムだけ倒し切った。
カエルスライムを見つけてわずか十数分の出来事。
「……終わったか。
……ふぅ」
「……サイレン、
めっちゃつよっ」
戦いが終わったからか、
サイレンは杖を回転させてから立ち止まった。
俺が四体倒すのに時間を掛けている間に、
サイレンは二十体のカエルスライムをあっさりと駆除した。
戦い慣れていると言うよりも洗練されていて、
まるで魔法で戦うことを、
想定して丁寧に鍛え上げた成果だと思わざるを得ない。
魔法を愛しているからこそ鍛え上げたのだろう。
「……さて」
サイレンは《ファイア》を使って。
ギルドから支給された狼煙を使う。
戦いが終わり、
ギルドの職員が来るようにした。
「……手慣れてるで、ほんま」
そして、わかった。
彼女はカエルスライムが、
打撃が通じにくいからしなかっただけで、
通じるのなら魔法を使わなくても強いことに。
サイレンの強さは才能だけではない。
才能を丁寧に長い時間を掛けて磨き上げたもの。
はっきり言えば、
彼女は一人だけでも強くやろうと思えば、
一人だけで楽々とランクを上げられていた。
サイレンの実力は既に新人の枠ではなく、
熟練の高ランクの冒険者だった。
「……練人もご苦労様だ。
新人としては十分なくらいだ」
しかし、サイレンは天狗にならずに、
仲間を褒めるのを忘れなかった。
「サイレンと比べればまだまや」
「……当然。
むしろ、練人と同じ数なら私の立つ瀬がないだろ」
サイレンは俺に微笑んだ。




