第105話 仲間が近くにいない日
「……練人、困ったことになった」
「困ったこと?
どないしたん?
何か事件とかか?」
宿で小説を書いている時だった。
サイレンが困ったことなんて珍しいから、
俺は真剣に聞いてみた。
「……いや、困ったとは言っても、
そこまで真剣になることではないんだ。
……大きな事件とかではない」
「へ?」
「ほら、練人様。
この前、サイレン様が、
子ども達のために魔法を披露したじゃないですか」
「ああ〜
せやな。
子ども達、めっちゃに喜んでいたで」
「……ああ。
……私としても嬉しいんだ。
……だが、あまりにも人気が出過ぎたんだ」
「……というと?」
「南リーマハの学校で、
同じようにして欲しいという要請がありまして……
何なら、魔法の指導もお願いするほどで……」
「……報酬は六千四百デラルと割りのいい依頼でもある」
確かに報酬としては割りがいい。
色々買い揃えることもできる。
「サイレンは嫌なん?
子どもに教えるのは苦手とか?」
「……嫌ではない。
……子どもに魔法を教えるのも問題ない。
……だが、依頼を受けると私は今日動けなくなる」
「下手をしたら、しばらく動けなくなる可能性もありますよね」
まあ、同じ依頼が立て続けに受けることになったら、
一緒に行動は難しくなるものな。
「サイレンはどないしたいん?」
「……私?」
「サイレンが何をしたいんか……
そういうの大事やろ?」
「練人……」
嫌なら嫌とはっきりと断る。
受けたいのなら、受ける。
人生は短い以上、そういう選択は大事の筈だ。
「……私は受けようと思う」
「サイレン様がそう決めたのでしたら、
私も付き合いますよ」
「……ありがとう、リアー……
……練人、もし、危険な魔獣とか出たらユレイラ達に任せろ」
「了解。
……そういえば、ベンガスは?」
「……ベンガスは畑依頼だな。
……とは言っても簡単な手伝いだがな」
「は、畑依頼?
何でや?」
「……畑とかそう言う依頼を受けると、
報酬金と一緒にチケットをもらえるのですよ。
そのチケットを使えば対象の食材が安くなるのです」
「な、なるほど……
畑ってことは野菜か」
「そう言うことです」
そう言う依頼があったのは知らなかった。
「報酬は?」
「八百デラルですね」
「……ふむふむ」
バイト系の依頼は本当に通常の依頼と比べると安く感じる。
いや、日本円で換算すると八万くらいだから破格か。
「よくわかったわ。
エアリーは?」
「ベンガス様と行きました。
エアリーちゃんも手伝いますが……
いらなくなった野菜が目的でしょうね」
「……草食でもあるからな」
「そう言うことです」
「ほんなら、俺だけお留守番か。
わかったわ」
「お留守番、お願いしますね」
「……ではな」
そして、サイレンとリアーは行ってしまった。
「じゃあ、小説の続きを書くか」
俺は手をポキポキさせて、
小説を書き続けた。
とはいえ、人間の集中力には限りがある。
どれだけやりたいと思っていても、
エネルギー切れを起こすものだし、
人間、そして、動物は元々集中力が切れやすいようになっている。
と言うのも、餌や水に集中して飲んだり食べたりし続けていれば、
草食動物はあっさりと肉食動物に食べられるからだ。
動きが止まるのはそれだけ危険なこと。
故に人間の集中力には限りがある。
「ふぅ〜……」
腕を伸ばして背筋を伸ばす。
「……暇潰しに冒険者ギルドへ向かうか」
依頼を受けるだけじゃなくて、
小説のネタに使える出来事があることもある。
「お〜!
練人くん!
今日はどうしたの?」
「ユレイラさん。
今日は俺一人なんですよ」
「あらら」
「はは!
まあ、そう言う日もあるよな」
「ああ、みんながおらん日くらいあるわ、レオさん」
「まあ、それもそうよね。
サイレンはどうしたの?」
「サイレンとリアーはイベント。
ベンガスは畑仕事ですよ」
「あ〜
サイレンのアレ、すごいもんね!」
「……そうだな」
「すみません!
空いている冒険者はいますか?」
その時、受付嬢が慌てた様子で駆けつけた。
「どうしたの?」
「実は凶暴な魔獣が接近しているという情報が出たの。
このまま放置していれば被害が出てしまう。
すぐに討伐して欲しいのですけど……
……サイレン様はもう行ってしまわれたのですよね」
「……ああ。
今頃は準備とか打ち合わせしとるやろうな」
「そうですか」
「……そんなに危険な魔獣なんか?」
「はい」
「……わかったわ。
俺が行く」
「練人くん」
「魔獣が接近しとるからと言って、
サイレン達を呼び戻すわけにもいかんやろ。
サイレンの魔法を子ども達が待っているのなら尚更や」
「し、しかし、練人くんが勝てる保証はーー」
「やってみないとわからんやろ?」
「……そうね。
私の妹がやっていることを邪魔するわけにはいかないわ」
「だな!」
「……そう言うことなら俺達もついて行こう。
実力としては申し分はない。
危ないと思ったら助ける」
「……わかりました。
お願いします」
ベンガスの時以来の合同依頼になる。
あの時と違うのは相手が信頼できる相手かどうかだ。
「魔獣を討伐したら、どのような種族なのか確認します。
討伐報酬、成功報酬は今のところは未定にさせてもらいます」
「はい!」
「では、準備が出来次第、出発してください」
「……念の為に鎧や剣を持ってきてよかったわ。
ユレイラさん達は?」
「問題ないわよ」
「ああ!」
「……俺もだ」
「練人くん。
今日はあなたの実力を見させてもらうわ。
危険になったら私達が守る。
だから、思い切り暴れていきなさい」
「はい!」
俺はユレイラさん達に敬礼をした。
「場所は南リーマハと北リーマハの境にある村付近です。
ご武運を!」
「了解!」
俺とユレイラさん達は武器を整えて馬車に乗った。
今回の依頼は俺だけで戦うもの。
緊張もある。
不安もある。
だけど、それ以上にサイレン達がいない状況で、
俺自身、どこまで行けるのか試したい気持ちもある。
ダブル・アップ、
ダブル・パワード・アップ、
ダブル・スピード・アップ、
新しい剣を揃えた今の俺。
最初よりも強くなった。
なら、どこまで通用するのか、試さないといけない。




