第104話 サイレンの舞台
「さて!
今日は依頼をこなしていくで!」
ここしばらくは戦闘がない日々だった。
「……ん?」
すると、サイレンは一枚の依頼書を見て止まった。
「ん?
どないしてん、サイレン?」
「……?
サイレン様?」
俺とリアーは気になってサイレンが見ていた依頼書を見る。
〈急募!
子供達のために!
今日、子供達に見せるはずの人形使いが、
土砂崩れに巻き込まれて来られなくなりました!
人形使いは無事ですが、間に合いそうにないとのこと。
誰か代わりにできる方いますか!
報酬:四千デラル〉
「……人形使い、無事なんか」
まあ、ファンタジーの世界だからな。
人形を操って戦う冒険者がいても不思議はない。
「梅雨の時期は多いですもんね、土砂崩れ」
「それでサイレン殿、どうした?」
「メリ?」
「……私、これを受けようと思う」
「受けよう?
……誰が?」
「……私だ」
「……劇やろ?
今から台本書けって言われても困るで」
「……いや、原初魔法と基本魔法があれば十分だ」
「サイレン殿、何をやる気なのだ?」
「……ここに、子どもが喜ばせれば何でもいいと書かれている」
「注意書きにそう書かれとるな」
「せやから?」
「……私ならできると思う」
「どうしたの〜?」
すると、ユレイラさん達がやってきた。
「ああ、実はサイレンがこの依頼を受けたいって言うてな」
「ん?」
ユレイラさんもその依頼を確認した。
「……ああ、こう依頼をサイレンがやりたいのね。
……サイレンも好きね〜」
すると、ユレイラさんの反応のは反対とかでなかった。
「……ユレイラさんの反応からして、
サイレン、こう言うのやったの初めてやない?
それも一度や二度やのうて頻繁に」
「正解よ、練人くん。
私からも太鼓判を押してあげるわ」
「……そういうことやったら、信じるわ」
「……私が大丈夫と言った時に、信じて欲しかったがな」
「いや、流石に何の脈絡もあらへんのに、
言われたらびっくりするからな?」
「……そう言うものか?」
「そう言うもんや」
「……まあいい。
……こう言う依頼もあった」
「何々?」
「……私が受ける依頼と同じ場所で、
……門番の依頼がある。
……四時間だけで四百デラルだ」
「ふむ」
「……ベンガス頼めるか?」
「……小遣い稼ぎになるか。
あいわかった!」
にしても、討伐依頼ではないと安くなるな。
確か、バイトも割と安い給料だったな。
「……受付嬢、これらの依頼を受ける」
「かしこまりました。
受理の判を押しましたので、
依頼場所である“南リーマハ会館”へ向かってください。
地図を貸してください」
「……ああ」
サイレンは地図を差し出すと、
受付嬢は南リーマハ会館を赤丸で場所を教えてくれた。
「……行こう」
「……なあ、俺ら何かできることあるん?」
「……そうだな、リアーは原初魔法はできるな?」
「それはもちろん」
「……では、リアーは手伝ってもらう」
「俺ら?」
「メリ?」
「……エアリーは多分もみくちゃにされる」
「せやろうね!」
「……あるいは場所によっては魔獣は出入り禁止エリアがあるから、
エアリーもベンガスと一緒になる」
「ああ、そう言う可能性もありか」
要するにペット禁止エリアってことか。
「メリ?」
「……とりあえず行ってみようか」
「ああ……」
そして、俺達は南リーマハ会館へやってきた。
そこにいたのは若い女性の先生のような人だった。
「……すまない。
……依頼を受け付けた冒険者だ」
サイレンは受理された依頼書を女性の先生に渡した。
「あ、あなたが!
私、【キョウコ】と申します!
今日はよろしくお願いします!」
キョウコ先生は頭を下げて、
俺達にお願いする。
「……彼、ベンガスは警備員だ」
「わかりました。
警備の更衣室はあちらになります」
「うむ」
「……では、行こうか、リアー」
「は、はい。
さ、サイレン様、あれでよろしいんですよね?」
そういえば、ここに行く途中で、
サイレンはリアーと後ろで打ち合わせをしていたな。
「……ああ、緊張しなくていい」
「わ、わかりました」
「俺は?」
「……練人は写真でも撮っているがいい」
「……わかったわ」
そして、サイレンとリアーは子供に会う前に、
舞台を見てみた。
舞台は狭く、円形状だった。
だが、人形を動かす場所としては十分な広さはあった。
「大丈夫か、サイレン?」
「……問題ない」
「……リアーは?」
「……私のメモを見ている。
……そこまで難しくないがな」
「わかったわ。
……ほんなら、その実力見させてもらうわ」
「ああ……」
ちなみにエアリーはベンガスと一緒にいる。
ここはペット禁止とかではないが、
よく考えれば何も考えずに子どもの前に出したら、
子どもが抱きたいといって喧嘩になりかねない。
そして、エアリーが欲しいと言われるかも知れないしな。
そして、時間になり、子ども達が集まってきた。
「さて!
皆様!
今日は魔術師のお姉さんが、
皆様に素敵なものを見させてあげますよ〜!」
サイレンは頭を下げて礼をする。
「……始める。
……楽しんでいってくれ」
そう言いながらサイレンは杖をクルクルと回す。
会場の明かりも消えて暗くなった
「……《シャイン》」
サイレンが上にて伸ばして球体のシャインを使い浮かばせる。
それはまるでスッポットライトのように、
あるいは月のように会場を輝かせる。
「……《シャイン》」
サイレンはさらにシャインを使って上がらせた。
だが、そのシャインはすぐに落ちて床に落ちた。
床に落ちたシャインは大きな水晶玉が割れるように、
破片が飛び散った。
そう。
ガーゴイルの時に使ったシャイニング・バーニングのように。
「《ウィンド》」
後ろからリアーが風の原初魔法を使って、
光の破片を巻き上がらせる。
光が散りばめられた風は上空に舞い上がり、
それだけでも綺麗だった。
「きれい……」
一人の子どもが呟いた。
「……《フロート》」
「《フロート》」
サイレンとリアーがそれぞれフロートを使う。
光の破片はまるで星空のように止まる。
「うわぁ〜!
星空だ!」
「……《ドロー》」
サイレンが片手で軽くドローをすると、
光の破片が数個サイレンに引き寄らせる。
まるで、流れ星のように。
「すげぇ〜!
流れ星だ〜!」
「……《シャイン》」
サイレンが追加でシャインを出して、
同じように割る。
「《ウィンド》」
同じように粉々になったシャインを、
リアーがウィンドで巻き上げる。
「……《ウィンド》」
サイレンが軽くウィンドを使って、
星空に渦巻を作らせる。
星空に星が増え、綺麗に煌めく。
子どもは興奮し、手を伸ばし星を掴もうとする子までいる。
「……《フォール》」
その子どもに対して、サイレンは軽く手を落とすと、
星、否、光の破片がゆっくりと子どもの手のひらに降りてくる。
「うわぁ〜……」
子どもは大事そうに光の破片を握る。
例え、その光が萎縮し消えるだろうが。
「《シャイニング・バーニング》」
「え?」
サイレンがクルクルと舞いながら、
シャイニング・バーニングを何発も使ったように見える。
あれは攻撃魔法でここで使えば大惨事になる、
そう思っていた。
だが、実際は連発する花火だった。
閃光と音がまるで、花火のような音で、
光のためか熱くもなければ、威力もない。
「花火だ〜!」
舞台が狭いから夜空に四連発花火が上がるが、
一往復するから八発の花火が上がる。
「……こんなことまで」
後ろにいたリアーも驚いていた。
「……《フォール》」
サイレンは残りの星をゆっくりと下ろす。
「……《シャイン》」
サイレンは月のシャインより大きいシャインを浮かび上がらせる。
「……《ファイア》」
そのシャインにファイアで着火。
シャインはオレンジ色に燃え始める。
「……フィナーレだ」
燃えているシャインと月代わりのシャインを重ねる。
「……日食」
そう。
サイレンが出しているのはまるで日食だった。
全て原初魔法と基本魔法で作り出した景色。
「……!」
サイレンが激しく両手を振るうと、
日食はまるで幻かのように消え去った。
「……ありがとうございました」
サイレンは深々と礼をすると、
子どもだけではなく、見ていた大人達も拍手した。
「すごいよ!
お姉ちゃん!」
「とても綺麗だった!」
子ども達も大喜びだった。
「あ、あの、本当に綺麗でした!
……四千デラルで良かったのでしょうか?」
「ああ……
……追加報酬はいい」
サイレンの謙虚さにキョウコ先生は驚き、
尊敬の眼差しを向けている。
確かに、今日のサイレンは尊敬せざるを得ない。
「ほ、本当に素晴らしかったですよ、サイレン様!」
「……リアーのサポートがあってこそだ。
……ありがとう」
「い、いえいえ!」
リアーも興奮冷めやまない様子だった。
「あ、あのお姉ちゃん!」
「……ん?」
「か、感動しました!
お姉ちゃんみたいになりたいです」
女の子が顔を赤くして、サイレンに言った。
「……そうか。
……なら、魔法を使う場合は気をつけるといい。
……魔法はいいものだが、火も使うから危険なんだ。
……水も地も風も光も使い方を誤ればとても危険。
……魔法が好きになったら注意してほしい」
「は、はい!」
「……後は基本的な特訓を忘れるな。
……私の魔法も基本をしっかりしたからあそこまで綺麗になったのだ」
女の子はこくこくと頷いた。
「……魔法を信じろ。
……魔法は君から離れない」
「はい!」
「ミライ〜!」
「あっ、お母さん!
あのね!」
女の子、ミライちゃんはお母さんの手を掴んで離れた。
「基本ね〜
驚いたで、サイレン。
星空だの、日食だの……
ほんまに魔法の練習で身につけたんか?」
「ああ……
ガーゴイルとの戦いで使ったシャイニング・バーニングを覚えているだろ?」
「せやな。
それに今日のシャインで鮮明に頭に浮かんだわ」
「……あのシャイニング・バーニングはシャインを使って練習したんだ。
……地面に的を書いて、シャインで上がらせて、
中央に当てる練習をな」
「それであのシャイニング・バーニングができたんか」
「……ああ。
シャイニング・バーニングとシャインは似ているからな。
……十四歳になるまでシャイニング・バーニングの代わりに、
シャインを使って練習をしてきたんだ。
……だから、杖を手に入った時にすぐに、
複数のシャイニング・バーニングを使えるようになっていた」
「……ほんまにすごいで」
「はい」
「……私としては魔法が好きになってくれるのは嬉しいんだ。
……魔法は素晴らしく、良いものだから、
多くの人に、子どもに教えてやりたいんだ」
「……素晴らしい考え方です」
「今日のサイレンを何枚も撮ったで!」
「……そうか」
「あ、あの!
こちらが今日の報酬の四千デラルになります!
ありがとうございました!」
キョウコ先生は頭を下げて、
お礼と報酬を渡してくれた。
「……では、これは四頭分だな」
「でも、今日はサイレン様の活躍ですし、
サイレン様だけもらった方がよろしいのでは?」
「俺も、今日は特に何もしていないしな」
「……いや、四頭分にする。
……受け取ってくれ」
「……そう言うのでしたら」
「……その代わり、ベンガスの報酬はベンガスだけにしよう。
……百デラルもらっても困るしな」
「……わかったわ」
そして、ユレイラさんの心配していない表情の意味もわかった。
サイレンは故郷でも同じことをしていた。
それがユレイラさんもよく知っていたのだろう。
サイレンにとっては魔法の練習だろうが、
子どもにとって見れば魔術師を目指す明確な理由になる。
そして、サイレンもそれには否定的ではない。
「……さて、私達は宿へ帰るか」
「ベンガスはどないするんや?」
「……ベンガスはまだ仕事だし、宿の場所も知っている。
一言告げてから帰っても大丈夫だろう」
「ですね」
「……せやったら、エアリーもベンガスに任せるか。
エアリーはベンガスと絡み少ないからのぅ!
この機会に仲良くなればええやろ!」
「……ああ。
……それもいいだろう」
「サイレン、お疲れ様」
「……疲れていないが、悪くない」
サイレンは杖を回しながら意気揚々と宿へ帰って行った。
「……良い人ですよね、サイレン様」
「……せやな。
サイレンはめっちゃええ人や」
リアーの呟きに俺はすぐに同意した。




