第103話 夏服を買おう
「……やっぱ違うよな」
俺はボソリと小言を呟く。
今日はパーティー同士の交流として、
ユレイラさんのパーティーと一緒に遊びに回っている。
天気は梅雨の時期を考えれば貴重な晴れの日。
そして、初夏なのだ。
なのに、日本と比べても涼しく感じる。
今の時期だと元の世界では蒸し暑く感じるが、
この世界ではそうでもない。
温暖化ではないだけでここまで涼しく感じられるのか。
「ねえ、ねえ!
これはいいんじゃない!?
「あっ!
いいですね!」
「……そうか?」
女子と一緒の場合の男子は荷物持ちが基本なのである。
まあ、ここは男の服も売っているが。
「……練人は買わないのか?」
「夏服用の服やろ?
俺は長袖でええわ」
「え?
長袖だと目立ちますし、暑いのでは?」
「夏は直射日光浴びたくないし」
もちろん、この世界では夏は初体験だが、
経験上、夏に半袖で歩くよりも、
長袖で行った方が涼しく感じる。
「……安い半袖の服も買っているな」
「買わへんとは言ってへんし、
寝る時はしてもええかなと」
「……ふむ」
「……せやけど、やっぱ、夏になると出てくるんよな……
蚊」
「……それは言わないでよ」
「俺なんざ、叩くだけでも痛いのに、
あの虫、普通に避けていなくなるからな」
「大人しく蚊取り線香を使うしかあらへんわ」
ポーション屋に行った時に、
普通に売ってあって驚いた。
「……宿とかは平気ですけど、
依頼を受ける屋外ではどうしても」
「まあ、かゆいと思ったら掻かずに水で洗うか、
塩で揉んだほうがええで」
「そうなのですか?」
「蚊に血を吸い取られて痒くなるんは、
蚊が血を吸う時に出す唾液が血管に入れられるからや」
「蚊の唾液を?」
「ああ。
そうせんと血が固まるからな。
その唾液にアレルギー反応とかを起こして、
ほんで痒くなるんや」
「へ〜
意外と頭いいのね」
「意外とって……
せやから、唾液を出す必要があるんや。
水や湯で洗い落としたり、塩で吸い取ったりとかな」
「吸われる根本的な解決はないのか?
……はっきりいえば、俺、よく吸われるのだが」
「それは酒を飲んどるからや。
お酒を飲むと体内でアルコールを分解して、
大量の二酸化炭素を出すんや。
蚊は二酸化炭素で獲物を感知するからのぅ。
蚊に刺されないためにも、
露出は避けて、汗はきちんと拭くんやで」
「……酒に関しては善処する」
「ああ、善処するのね」
「あ、サイレン!
これなんてどう?」
「……これいいのか?」
「ああ!
似合ってますよ!」
「リアーちゃんは……
これどう?」
「あ!
いいですね!」
「……確かにリアーは緑の服という印象がある」
「緑好きなのですよね。
これどうでしょうか?」
「あ!
いいじゃない!」
「……女性陣楽しそうやな」
「そうだな」
「そして、レオさん、ほんま筋肉すごいわ」
「まあ、俺も色々あったからな。
今では、三人で前に出ることが多くなった」
そりゃ、その筋肉なら前に出ても不思議じゃない。
「……レオは本当に変わった。
……昔は、荷物持ちを断るどころか、
ユレイラに気を使われて、逆に荷物を持ったりとか」
「……言うな」
「……ほんま、ひょろひょろやったんやな」
本当に今日まで何があったのやら。
「それじゃ、試着するから!」
「……わ、私もなのか?」
「サイレンもよ!」
ユレイラさんがサイレンの背中を押して、
試着室へ入って行った。
「俺らはどないする?」
「……待つしかないだろうな」
「そうは言っても練人殿は少し楽しみだろ?」
すると、ベンガスがコソコソと、
着替えている女性陣に聞こえないように話し始めた。
「なんでや?」
「サイレン殿の着替えているからな」
「なっ!
それ、今言う!?」
きちんと声を小さくしてベンガスにツッコミを入れる。
「おっ?
やっぱ、そうなる?」
レオさんがコソコソ話に参加し始めた。
「……どう言うことだ?」
「……ああ。
……お前はいいよ」
「……?」
「それはともかく、お前、サイレンに惚れてるのか?」
「そ、そう言うんやないけど」
「隠すな隠すな」
「痛い痛い」
バンバンとレオさんが俺の背中を叩く。
「まあ、俺達も〜
サイレンがサイレンの見た目とか力だけで寄ってきたのなら、
全力で阻止してたろうけどな。
お前はそう言うのじゃないだろ?」
「そ、それは……」
「まあ、サイレンはヒューズのように鈍感だし、
そこまで手伝ってやれないけど、頑張れよな」
さらっとヒューズさんも鈍感扱いされているな。
てか、知らない間に恋愛話になってしまった。
「お待たせ〜!」
最初に見せたのはユレイラさんだった。
「ほぅ、これは!」
「……似合ってるぞ」
「そうだな!」
ユレイラさんの活発的な性格に合いそうな服装である。
「私も終わりましたよ」
リアーは緑色の小さいワンピースで、
腕だけじゃなく、足も出していた。
「リアー殿も中々に似合ってるぞ!」
「そうっすね!」
「……ああ」
「ほんま、似合っとるで」
「ありがとうございます」
「ううぅ!
俺にもこんな時代が来るとは!
練人殿に会うまではこうなるとは思ってなかったぞ」
「そうだったのか?」
「女っ気の一つもなかったからな」
「……もう出ていいのか?」
サイレンも出てきた。
サイレンはズボンスタイルだが、
清楚な感じが出ていて、クールさが損なわれていなかった。
「やっぱり、サイレンはズボンが似合うよね!
サイレンって、小さい頃はよくズボンを履いていたのよ」
「……ああ。
……スカートの中を見られると女性はよく恥ずかしがるだろ?
……見られたくないのなら、最初から履かない方がいいと思ってな」
「サイレン様の戦闘服も短い黒い短パンですしね」
「……ああ」
「でも、足は出てるのよね……
ねえ、やっぱり」
「……ん?
ああ……
露出の高い色がいいローブがあれば着るぞ」
「やっぱりか〜……
リシアが強すぎるのよ」
ユレイラさんは頭を抱えた。
まあ、頭を抱えたくなる気分はわかる。
「……まあ、いいわ。
お会計しに行きましょう」
「……そうだな」
でも、夏服の用意をしているってことは、
本当に夏が近づいてきていること。
同じように一年過ぎるだろうな。




