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小説作家の冒険者生活  作者: 才練人
〜魔術師の先輩との会合〜 第1章 先輩冒険者との再会

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102/106

第102話 そうだ、髪を切りに行こう

「う〜ん」

「ん?

 どうしたんだ、練人殿?」

「……邪魔」

「……何がだ?」

「いや、サイレン。

 俺が冒険者登録して三ヶ月経っとるやん」

「……そうだな」

「……当然やけど、髪伸びてんねん。

 前髪もほら」


 そう。

 人間だから髪が伸びてくるのは当たり前なのだ。

 よく創作物では、髪が伸びてきたり、

 髪を切りに行くシーンはカットされがちなのだが、

 この小説は俺が体験していることを書いているのだから、

 当然、髪は伸びてくるのだ。


「ああ、確かに」

「……確かに長いな」

「メリメリ」

「……正直、髪を乾かすのにも時間がかかったり、

 書いとる途中で髪が目にかかることもあってな」

「確かに浴場に入った後の練人は時間かかっていますからな」


 そう。

 お風呂に入るのは好きなのだが、

 髪を洗うことも多いから、髪を乾かす必要がある。


 この世界のドライヤーは暖かい風を出す魔石を特別な容れ物に入れて、

 ドライヤーのように放出して乾かすのだ。


 だけど、髪が長いと当然乾かすのに時間がかかるので、

 本当に面倒なんだ。

 長いと寝癖もつけやすいしな。


「……なら、今日は休んで髪を切りに行くか?」

「ええん?」

「……戦闘中に髪を気にして攻撃を受ける方が問題だ。

 ……それに私としてもいい機会だからな」

「……ああ、サイレンも髪を切りたいんやな?」

「……ああ。

 バッサリではないが、それでも整えておきたいしな」

「ベンガスとリアーは?」

「では、私もサイレン様と一緒に整えておきます」

「俺もだ。

 ついでに髭も整えてもらおうかな」


 正直、梅雨の時期である六月で、

 晴れているので、依頼を受けに行った方が良いかも知れない。

 だが、そんなことを言っていたら、

 いつまで経っても髪を切りに行けない。

 こう言うのは思い立ったら吉日だ。


「では、いきましょうか」

「あ、すみません」

「ん?

 おお、コンフィを売ってくれた冒険者達じゃないか!

 どうしたんだ?」

「実は髪を切りに行きたいのやが、

 どこに行けばええんかわかる?」

「ちょっと、地図を見せてくれ」

「ほい」

「いいか?

 この宿を出て冒険者ギルドに向かうだろ?」

「うんうん」

「その時に使う道路を右に向いていれば、

 “クリティカル・カット”っていう店があるんだ」

「クリティカル・カットね。

 そこが髪を切ってくれる場所?」

「ああ!」

「ありがとうな、早速行ってみるわ!」


 それにしてもクリティカルヒットにかけたニュアンスだろう。

 冒険者をやっていると、自然とクスリとなってしまう。


「場所聞いてきたわ」

「……では、行こうか」


 そして、俺達はクリティカル・カットへ向かった。


「いらっしゃいませ〜」

「……髪を切りたい。

 ……私達四人分だ」

「お一人様につき四十デラルになります」


 四十デラル、日本円にして四千円。

 高い理髪店のようなものだ。

 通常俺は千円代の理髪店を利用するから緊張はする。


「はい」

「今日は空いてますので、あちらの席で待っていてください」


 店員の言う通りに俺達は別々で髪を切ることになった。


「では、どのような髪型にしましょう」

「せやな。

 髪の長さを四センチにしてくれへんか?」

「わかりました」


 普通は髪型を維持するために髪をすいたりするのだろうが、

 もうすぐ夏で、頭が濡れる事態は多くなる。

 なら、最初に切ってのも悪くない。


「では」


 そして、店員は丁寧に髪を切ってくれた。

 話したりしないが四千円分の技術を持っているようで、

 素早く、滑らかに髪を切っていく。

 俺は髪が目に入らないように目を瞑る。


 段々と髪が軽くなってくる感触。

 店員の丁寧な指さばき。


「目を開けてくれませんか?」


 目を開けると、俺の髪は短くなっていた。


「お客様、こういう感じでよろしいでしょうか?」


 店員は鏡を持って俺の後ろ髪を見せてくれる。


「ええ感じやわ」

「では、こちらの台へ」


 そして、店員が俺を移動させる。

 店員に従うと髪が洗われている。

 お湯を注いでシャンプーを使って洗う。


 ありがたい。

 髪は切り終えたらすぐに洗わないと、

 服とかに髪の毛がついてしまう。


 そして、ドライヤー型の魔道具を使って、

 洗い終わった髪を乾かす。


 髪が短くなった分、乾かすのも早くなっている。


「ありがとうございます」

「いえいえ、またのご来店を」

挿絵(By みてみん)

「髪切り終えたで〜!」


 切り終えた俺はすぐに合流する。


「お〜、練人殿!

 すっかり見違えたな!」

「ええ。

 でも、似合ってますよ」


 リアーとベンガスは髪をすいただけなのか、

 そこまで変わっていない。


「まあ、早い方がええしな」


 実は丸坊主に近いことをやったりもしている。

 夏休み前に髪を切って、楽をしていたのだ。

 だから、こう言う髪になるのは嫌ではないのだ。


「ベンガスは髭剃らへんかったんか?」

「ああ!

 髭がある方が俺らしいからな!」

「それはわかりませんが、

 一度くらいは剃ったらどうでしょうか?」

「もう金払い終えて、

 髪も切り終えたからな。

 しばらくは諦めろ」


 そう言ってベンガスは笑っていた。


「そういえば、サイレンは?」

「サイレン様は私以上に髪が長いので、

 恐らくかかっているのでしょう」

「……それもそうやな」

「……何の話だ?」

「あ、サイレン」


 サイレンは最初に言った通り、

 髪を整えるだけに留めたようだ。


「……練人、随分と変わったな。

 ……見違えた」

「せやろうな。

 ちなみに、ここまで髪を切って平気なんか?」

「……大丈夫だ。

 冒険者カードには確かにお前の姿は写っているが、

 判断するのは絵柄だけではない」

「まあ、指紋とかあるしな」

「……練人の作品のように徹底的に潰されでもしない限りは大丈夫さ」


 サイレンが微笑みながら言う。

 サイレンが言っているのは【熊に喰われた男】だろうな。


「再現性は低いけどな」

「低いのですか?」

「せやで?

 都合よく熊型魔獣が被害者を襲ってくれるとは限らへん。

 犯人が襲われる可能性もある。

 酒などを使って熊型魔獣が噛み付く部分を誘導したとはいえ、

 誘導通りに顔や指を潰してくれるとは限らへん。

 最悪な場合は冒険者によって救われる可能性もある。


 一つでも狂ったら完全犯罪どころか、

 逆に自分の首を絞めることになるわ。

 被害者に犯人は自分を殺そうとしているのがわかってしまうからのぅ」


 元の世界ではさらに難しくなるだろう。

 何せ、元の世界には至る所に監視カメラなどがある。

 科学も発展しているから、どこから連れ込まれたのかもバレてしまう。


 顔や指を潰した程度では、

 耳紋や足の指の指紋も誤魔化せない。


 作品以上にあっさりと犯人はバレるだろう。


「作中で、ギルド職員が犯人の計画を賭けだって言ったり、

 失敗した時のリスクもわかりやすく説明しとるのも、

 模倣犯対策でもあるんや。

 俺の作品読んだだけで完全犯罪行けるかもと思う奴もおるかも知れへんが、

 そう甘くあらへん。

 大抵の探偵小説の事件は再現性が低いもんや」


 よく、考察動画などで、

 このトリック無理があるだの、運が絡むだの、

 金がかかるだの、サスケに出られるだのと言うが、

 逆に普通の身体能力でもできる、

 運の要素も排除、トリックも現実的の方がマズい。


 そう言うのは再現性低くて当たり前なんだ。

 再現性が高いと模倣犯が出てしまう。


 だから、【熊に喰われた男】も、

 失敗すると、こう言うリスクあるぞとか、

 成功する可能性はめちゃくちゃ低くて、

 成功したのは作品だからだぞと、

 描写している。


 あれ、失敗すれば性的暴力を受けるだけではなく、

 恐喝だの、更なる犯罪に無理矢理手を伸ばす羽目にもなる。


「……なるほど、一種の警告でもあると言うことか」

「犯罪者の益になることは避けたいしな」

「練人様も色々と考えているんですね」

「まあ、髪もスッキリしたし、今日はどないする?」

「……そうだな。

 ……時間も余っているし、今日はのんびりしておこうか」

「おっ!

 いいな!」

「俺はしばらく書いとるわ」

「大変なのですね、練人様」

「でも、好きでやっとるからな」


 今日の体験をすぐに書いておかないと忘れかねない。


「……確かに好きなことなら、忙しくてもやってしまうな」


 サイレンはうんうんと頷いた。

 サイレンも経験があるのだろう。

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