表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/57

第54話「もう孤独なんかじゃない」

人間に興味があった。


だけど人間と関わってはいけないと固く禁じられていた。


こっそり人魚の園を抜け出して、人間を見てみたいと空に浮かぶ星を眺めた。



「人魚だ」


一隻の小舟が近づいていることに気づかなかった。


かろうじて胸を起伏させ、呼吸をする人間の男の子がいた。


男の子もまた同じように空を見上げていた。


人魚を見つけた男の子はゆっくりと笑って手を伸ばす。


同乗していた色黒の男性が止めにかかった。


悲しそうな顔をした男の子は手を引き、小さく手を振った。



「ありがとう」


それだけ言って遠く離れた大陸方面へと船は進んだ。


どうしても男の子が気になって、翌日また顔を出してみる。


空は真っ黒な雲に覆われて、叩きつけるような雨が降っていた。


男の子が乗っていた小舟は荒い波にのまれて転覆してしまう。



――助けなきゃ。


その一心で男の子を抱きしめ、近くの無人島まで泳いだ。



「どうしよう。息してない……」


胸に手をあてても鼓動を感じられない。


肌は血色が悪い。


あまりに男の子が静かなものだから、なんとかしなきゃと必死だった。



「ダメだって言われてるの。でも心臓を繋げばまた息をしてくれるかもしれない」


人魚はそっと紫色になった男の子の唇にキスをした。


左手を握りしめて、指を絡める。


それが人魚の魔法、禁じられた魔法“愛の魔法”の発動だった。



心臓を繋ぐと男の子は息を吹き返す。


ゆっくりと開き、まばたきを繰り返す男の子に人魚は笑った。


男の子の目が見開かれ、つられて微笑んだ。


そこに魔法の発動に気づいた人魚の王が湖を突き破って現れる。



「自分勝手に魔法を使った。お前は海獣となる者を救ってしまった。お前の存在が海獣と繋がってしまった」


「ちがうもん! 私はただ助けたかっただけだもん!」


「……ならお前が罰を背負うか?」


王の問いに人魚姫は迷わなかった。



「やさしい気持ちに間違いなんてない! あいってまだわかんないけど、絶対絶対間違ってないんだから!!」


「禁じられた魔法に代償がないと思うな。お前はこれからそれを背負う。……お別れだ」



人魚の王が珊瑚の杖を振ると、湖から水があふれ出し人魚姫を絡めとる。


男の子が手を伸ばすも届くことはなく……。


人魚姫は異世界に流され、言葉を失い、孤独な運命に落とされた。


ミオを戻さなければ、海獣は復活しなかった――。






――言葉が通じなくなって、これ以上ない孤独が待っているかと思ったの。


だけどここは温かかった。


もう一人じゃないと。


孤独に悩まなくていいとわかったんだ。


凶器と化していた海が静まり、波が引いていく。


ドワーフの森の守りが解け、ジュリアやエルダ、海兵たちが砂浜に膝をついた。



「なんだったの? すごく眩しくて……」


「……ミオ! カイ!」


ジュリアが砂浜に打ち上げられた二人に気づいて走りだす。


二人が抱きしめ合って倒れており、駆けつけたジュリアがあわてて息を確認した。



「息してる……。よかった……よかっ……!」


指先がやわらかな輪郭にたどり着く前に、何度も丸い粒が意識を失ったミオに落ちていく。


ミオが重たいまぶたをあげると、視界いっぱいに鮮やかな青が広がった。


青の中で、珊瑚色がマリーゴールドを咲かせる。



「……おはよ、カイ」


「うん。……やっぱりキレイだな」


カイの大きな手がミオの髪をすくい、指で撫でながら耳にかける。



「実は一目惚れでしたって言ったら怒る?」


その問いにミオは目を閉じ、青色の髪に手を伸ばして慈しむように撫でる。


世界が広がるようなコバルトブルーに惹かれて命をかけた。


心を殺された日々にミオはようやく立ち直れたと実感して、笑った。




「いつまでいちゃついているんですかー」


棒読みでエルダがぼやきだす。


ミオは慌てて起き上がり、真っ赤になって顔を隠した。


エルダの顔色をうかがうように指の隙間から覗き込むと、エルダは腹を抱えて笑いだした。


ジュリアはエルダの後ろに隠れてスンスン泣きだす。


それにミオは瞬時に反応し、カイを突き飛ばしてジュリアの背にぴったりとくっついた。



「ごめん、ジュリア。エルダも」


「ばかぁ……ミオのバカ! カイはもっとバカだよー!!」


「ホントーにね! 二人とも、心配ばかりかけて! 頼り方間違えてるよ!」



エルダはジュリアを受け止め、ミオにはデコピンを一発、カイには強烈な突き飛ばしを食らわせた。


ミオは最低だと自覚しつつ、友だちに心配されるのは嬉しいと涙に微笑んだ。


エルダもジュリアも大好きで、ミオにとってはじめての友だちとなっていた。



「ジュリア~。俺っちも抱きしめて~」


間の抜けた声が聞こえて顔をあげると、リーノに支えられて足を引きずるラウロがいた。


全身傷だらけで、血が足までしたたり砂浜を染めていく。


意識があることさえ奇跡な重傷を見てジュリアが鼻をすすり、さらに崩れて泣いた。



ラウロとリーノの後ろをいたたまれない様子で頭をかくレンツがいる。


あれだけの騒動で気を失っていたレンツだが、ラウロとリーノが必死に守ったようだ。


身を挺して守ってくれた息子に、レンツはわんわんと男泣きをした。


それからかろうじて海を泳ぎ抜き、生き抜いた人魚たちが浜へとやってくる。


ドワーフの森からはダフネが飛びだして、傷だらけのラウロとリーノを抱きしめた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ