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第54話「人魚の魔法」

「ドワーフの大量殺戮後、数人のドワーフに道具を作らせました。……逃げたドワーフが道具を隠してしまいましたが。この縄もその一つですよ」


それはただの弱い者いじめであり、奴隷のように扱ったということだ。


悪びれる様子もなく語るアルノルドにミオは燃えるように激怒した。


ミオがどれだけ強い反感をみせてもアルノルドはせせら笑うだけ。


これはどうしたって相容れない人。


戦いの中に甘さを求められない相手だ。



「さて、ではさっそく海獣を使ってみましょうか。まずはそこの弱った人魚の王様でも退治しましょう」


舌なめずりをして、アルノルドが黄金の縄を引っ張る。


水面で腹を貫通した傷口を抑え、にじみ出る汗を流す人魚の王。


珊瑚の杖は折れており、王は血に濡れた手を前に出す。


水の膜を作り、海獣の攻撃を防ぐも息はあがっていた。



海獣は咆哮をあげ、縛る縄に操られて腕や尾で海を薙ぎ払う。


何度も空で水が弾け、水平線にまで届きそうな勢いで水の刃が飛んでいた。



ミオは振り落とされないように必死に掴まることしか出来ない。


黄金の縄からにじむ赤い血で手をすべらせてしまう。


いくら海を優雅に泳ぐ人魚でも重力には逆らえなかった。



空に向かってカイが咆哮をあげている。


赤い心臓をむき出しにして、苦しいと叫んで見えた。


この手にこびりつくのも真っ赤な血だ。


ミオの中に流れるものとまったく同じだった。



「カイ……」


――海獣の動きが一瞬止まる。


血まみれの触手が黄金の縄を引きちぎる。


自らを傷つけるスタンスだ。


カイは海へ落ちていくミオに向かって触手を伸ばす。



ぐらぐらと揺れる海の中で泡を見た。


悲鳴をあげる海にまじって、心の琴線に触れる想いが伝わる。


霞む視界。


だが耳はたしかに音を拾っていた。




――リーン、リーン、リーン。



(泡から音が聞こえる。心臓が震える)



これはミオとカイの心臓を繋ぐ音。


切なく、くるおしく震える金色のベル。



「私はっ! 絶対にカイを助けるんだ!!」



そんな簡単に諦められるほど、今まで嘗め続けた苦汁は甘くない!


だからこそ、孤独に泣いた先にやさしい想いがある!



――水の粒が太陽の光を浴びて落ちる。


珊瑚色の二つ目を見てミオははにかんだ。


ボロボロのミオの身体に触手が巻きつき、カイの心臓の前まで引き上げられる。


ミオの尾は青い鱗をまといながらも、二本足で立っていた。



ミオの影に隠れていたドクが必死に前へと突き進む。


右手にはドワーフの短刀が握られており、全身血まみれで、どこを怪我しているか特定することも出来なかった。



「なっ!? その短刀は!?」


「うおおおおおおおっ!!」


ドクは短刀でカイを拘束する黄金の縄を断つ。


そしてミオを引きあげる触手に短刀を突き刺して、ミオへ繋ごうとした。


ドクはにやりと笑ってアルノルドを見据えている。


焦りを募らせたアルノルドが動き出すも、すでに遅く……。


二人は海獣の背中からあっけなく落ちていった。




ミオはマリーゴールドの艶やかな髪に光をまとい、珊瑚色の瞳を見て微笑んだ。


触手に引き寄せられるままに、ミオはそのむきだしの心臓に近づいていく。


渡された短刀を、いっしょに海へ落とした。



「カイ。あいしているよ」



唇を寄せる。


あの時と同じ、好きな人にキスをしたいと思った恋心だった。


巨大な渦が巻きあがり、カイとミオを飲み込んでいった。




***


泡沫だなんて言わないで。


もし勇気があれば伝えたかった。


”あいしてる”って、私の言葉にして伝えたかったの――。


幸せを願っていたけれど、泡みたいに儚く消える想いじゃなかった。



”あいしてる”


”さみしい”


”あいしてる”


”いっしょにいたかった”。



あいしているから、私の想いは泡となり、言葉を込めましょう。





「泡になったおひめさま?」


幼い人魚の姫君が大きな貝殻のベッドに寝そべり、物語を聞かせてくれた母に問う。


「人間の王子様に恋をして、同じようになりたくて足を手に入れたの。だけど声は失って、王子様に想いを伝えることも出来ずに最後は泡になってしまったのよ」


「……かわいそう。だっておひめさまは王子様に会いたかったんでしょ? どうして王子様はおひめさまを好きになってくれなかったのかな?」


「さぁ……どうしてだろうね。でも」


にこりと慈愛に満ちた微笑みが姫君に向けられる。


同じマリーゴールドの髪が光を浴びると、光の粒が見えるほどに美しかった。



「おひめさまは危険を知っても会いに行った。あいしているから、同じになりたかった」


「同じようにあいしてもらいたかったんじゃないの?」


「そうね。だけどおひめさまは自分の気持ちより、王子様の幸せを願ったの」


真っ白な手が姫君の頭を撫でる。


くすぐったさに姫君は眩しく笑った。



「おひめさまの愛はね、魔法になった」


「魔法?」


「そう。愛する人の幸せを願い、泡になった。それが人魚だけの魔法」



それを”愛の魔法”と呼ぶ。


愛する人の幸せを一心に願い、愛を尊んだゆるぎないもの。


――こわくない。


愛の魔法はおひめさまの願いだから。


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