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第46話「怪物を目覚めさせたのは」

その場にいたほとんどのものが襲いかかる戦慄に息を止める。


ミオの身体から一気に熱が引き、寒ささえ感じるほどおぞましいオーラが充満した。


珊瑚色の瞳が、闇色を混ぜたように赤黒くなる――。


姿を変貌させたカイにアルノルドは興奮してほくそ笑んだ。



「怪物……! これが海獣の片鱗ですか!」


「ミオをはなせっ!!」


長く尖った爪でアルノルドを突き刺そうとする。


それをアルノルドはひらりと避けて、ミオの腕を掴むと無理やり立たせて首に刃をあて人質とした。


カイの動きが止まり、獣のような唸り声だけがグルグルと響いている。



「やはりこの娘が引き金でしたか」


「ひ、引き金ってどういう……」



震えているせいか、引きつった声が出てしまう。


少し動いただけで首の皮に刃が触れて血がにじみ、ミオが苦痛に耐えようとするとカイが姿をより獣に近づけていった。



「禁じられた魔法について調べたことがありましてね」


その発言にミオは息をのむ。


「スペランツァの王が使った魔法。怪物を生む魔法です。この世界は都合のよい魔法ばかりではないんですよ」


「なんでっ……」


「目の前に怪物がいる。それが真実ではありませんか?」


「黙れっ!!」



カイが腕を薙ぎ払うと、衝撃波が海を斬りつける。


落ち着いた波の寄せ方だったが、衝撃波を受けて激しく揺れだした。


小さな津波となり、波打ち際にいた海軍兵たちを海に引きずり込もうとする。



「これが怪物……いや、海獣の力!」


「やめて! こんなのダメだよ!」


「この海獣はキミが生み出したんだよ!」


「えっ……」



アルノルドの言葉にミオは言葉を忘れた。


全身から血の気が引けていく思いに、ミオは自身が本当に人魚なのかを疑い始めた。



(私、海獣にしたかったの? カイを苦しめてまで?)


「海獣化の呪いにかかり、その状態でスペランツァ王国から脱出した。せっかく呪いから離れることが出来たのに、バカなんだよねぇ……。わざわざ君を連れ戻して呪いを再発させるなんてね」


「な……にそれ……」



ミオがいなければカイは人のままでいられた……?


恐怖を引き寄せるように、目の前でカイはどんどん身体を大きくし、人の姿を失っていく。


禍々しい雲を背負って、影を濃くする姿にミオはガタガタと震えた。


生理的に涙が溢れ、頬を伝って落ちる。


すでにカイはコントロールを失い、自我さえ消えてしまいそうな激情に呑まれていた。



「ミ、オ……ごめ……」


「カイッ……!」



――瞬間、ミオの身体が軽くなる。


カイが目にもとまらない速さでアルノルドの背後にまわり身体を殴りつけた。


横に吹っ飛んだアルノルドが砂に血を吐き、わき腹をおさえてせせら笑う。



「これは……折れていますね」


「「隊長!」」


「海獣を捕らえろ! これは王命だ。娘も必ず捕まえろ。あれは鍵だ」


「「は、はっ!」」



かろうじて無傷の兵士たちがカイを捕縛しようと辺りを囲む。


動きを抑えるために銃が向けられたが、怪物と化したカイは弾が当たっても平然と薙ぎ払う。


目の前にいるのはカイの面影を無くした巨大な海獣。


ミオの知らない姿。


龍のような頭部に、鎧のような鱗に包まれた胴体。


足は獣となり、蛇のような尾が砂を叩きつける。


とげとげしい身体は黒く、血走る目をして唸っていた。



「カイ……。ダメ、だめだよ」


「グルルルルルルッ……」


「海獣を目覚めさせた! キミがそうさせた!」


「やめてっ!」



耳をふさぎ、目を固く閉じる。


そんなことは聞きたくない。


望んでいない。


ただカイと船のみんなと楽しく旅が続けられればそれでよかった。


願いが内側から崩れていく音がした。


辺り一面、血の匂いが濃くなって、悲鳴が頭に響いて、視界がぐらついた。



「ミオちゃん! いったん逃げるよ!」


騒動の隙をみて拘束から逃れたエルダがミオの腕を掴む。


「やっ……いやっ!」


すっかりパニックに陥ったミオはじっと出来ず、泣きじゃくりながらカイに手を伸ばす。



――パァンッ!!


じわじわと痛みを生む。


エルダが悔しそうに涙をこらえ、ミオに平手打ちをかましていた。


「仲間が死んだらカイが悲しむのがわからないの!?」


その言葉に罪悪感が押し寄せる。


「あ……。エルダ、ごめ……」


――ドシャッと蛇の尾が伸び、ミオたちを叩き潰そうと上から降ってくる。


エルダがミオを抱きかかえて捨て身で横に飛び、理性を失ったカイの鈍る瞬間をとらえた。


敵味方を選べなくなった獣の瞳をしたカイに、エルダは憂うしかない。



「ごめん、カイ……」


エルダにはカイを助ける術がなかった。


謝ることしか出来ないと、弱りきったミオを抱えてこの場から離れようとする。


「ミ……ニゲ……コ……セ」


爆竹音に紛れて唸りに途切れ途切れの声がした。


まるで錆びた鉄を擦り合わせたような声にエルダは首を横に振って逃げ道を突っ切った。


ミオはエルダに抱えられ、離れていくカイを見て静かに涙を流すばかり……。


手を伸ばしたい。


すぐに駆けつけて抱きしめたいのに。



「ミオちゃん、逃げるよ」


「ごめんなさい、カイ……」



遠ざかる。


どんどんと視界がにじみ、遠く、遠く……。


言葉を取り戻してもカイを助けるのは難しい。



今までカイはどんな気持ちでいた?


どこまで怪物と戦っていた?


何も知らなかったと思った瞬間、ミオの目の前は真っ暗になった。





「……なに? あれはいったい」



波が渦となり、空に伸びて中から巨大な魚の尾をもつ白髪の男性が現れた。


男性の人魚があたりを一瞥すると、手に持っていた珊瑚の杖を横に振る。


波が怪物と化したカイに襲いかかり、壁に叩きつけようと押し寄せた。


それを受けてドワーフの森は地面から木の根を突き出し、高くそびえる木の壁を作る。


壁にぶつかって押し戻る波がミオたちを飲み込んだ。


ドワーフの森から離れて海の深い場所。人魚の世界に引きずり込まれた。

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