第44話「海軍の襲撃」
「くそっ……こちらの海までは来ないはずだが」
ドワーフの森は特殊な位置にあり、空を飛ぶ能力でもない限り上陸できない。
スペランツァ王国との間にある山脈は険しく越えられない。
航路を進んでも森はドワーフの守りで中に入ることが出来ないので、意味はなかった。
反対側の航路では渦潮があり、船で森への境界線を越えるのは不可能。
砂浜しかないため、上陸する意味のない場所だった。
ドワーフたちとの確執もあり、人間が足を踏み入れるメリットもない。
それなのに争いになっているということは、わざわざ海軍がミオたちを追ってきたということだ。
「どうするの、カイ! あの距離だと助けられない!」
「オレがいないときはドクがいる! 陸を離れる場合は必ず武器を隠しているはずだ!」
ジュリアの問いかけにカイの手がミオから離れてしまう。
まるで足元に穴が開いたように、不安がミオの中に突き刺さっていく。
事前に島に隠していた武器をカイはラウロとリーノに渡して抵抗を示した。
「ラウロとリーノは狙撃と脱出の準備を! オレがおとりになる!」
「「了解!」」
「ジュリアは退路を! ラウロとリーノのサポートも頼む!」
「ほんとムチャクチャ……了解!」
「ミオは……!」
ぐっと手を握りしめ、カイはミオをジュリアの腕に押しつけた。
「ジュリア。ミオを頼む……」
息せき切った様子でカイは銃を持って走りだす。
一人、危険に身をさらす後ろ姿にミオの歯が上下にカチカチ鳴りだした。
「ミオ! 行くわよ!」
「あっ……!」
ジュリアに手を引かれ、ミオは頼りない足で追いかける。
おびただしい量の汗をかき、不安に表情を歪めたまま。
ミオはカイから目を逸らせずにいた。
信号弾が空に延び、こちらに気づいた海軍が船首を陸に向ける。
その後ろをカイたちの船が牽引され、陸に向かってきた。
近くなると見えてきたのは船の損害だ。
大砲でところどころ破壊されており、銃撃戦で煙臭くなっていた。
ミオたちが岩場や森に身をひそめ、砂地で注意を引こうとするカイに胸が痛む。
「大丈夫よ、ミオ。こちらに船がつけば形勢逆転よ」
ひそひそ声でジュリアが励ましてくれるが、不安は簡単に消えてくれない。
(カイは強い。みんなも強い。それはわかってる)
だがミオの心は張り詰めるばかりで、喉の奥がひりひりと痛んでどうしようもなかった。
両船が陸に船をつけて、中から人が降りてくる。
負傷したドクとエルダが銃をつきつけられて砂浜に降りたった。
敵船からは冷笑を浮かべたアルノルドが降りてきて、ゆったりとした歩みでカイの前に立つ。
共に降りてきた二名の軍兵がカイの両隣を抑えた。
恐ろしい事態なのに、カイは平然と装って手持ちの武器を手放していった。
「やぁ、カイ王子。いや、元王子様」
「オレがいないときに襲うとは舐めたマネしてくれるなぁ?」
「西側に向かっていると報告を受けてね。さっさと他国に逃げればよかったのに」
アルノルドの挑発に、カイはしかめ面となるも口を開こうとしない。
途端にアルノルドはおもしろくないと表情を無くし、鞘に入れたままの剣で思いきりカイの頭を殴った。
「きゃっ!?」
暴力的な現場に見慣れないミオは、つい悲鳴をあげてしまう。
あわてて口元を抑えるが、アルノルドの視線はミオに向いており、危機が迫って冷たい汗が背筋を伝った。
「あの娘は何ですか? 今まではあなたをこんな簡単に捕らえることは出来なかった」
「新しい仲間だ。守るものが増えるとそれだけ大変だってことだよ」
「滑稽な。人が増えるごとにあなたは弱くなる」
アルノルドを睨みつけるカイの口端から血が流れ出す。
アルノルドが反対側からもう一度叩くと、カイは不敵に笑って口から血の塊を吐き飛ばした。
「その怪物の力を使えば容易いでしょう。あの娘が現れてからは……一度見せましたね」
それは無人島でミオがアルノルドに捕まってしまい、カイが助けようとしたときのこと。
腕には鱗、牙をむき出しにしてぎらつく瞳をしていた。
「どうしました? 力を使わないと仲間が死にますよ?」
折れる様子のないカイにアルノルドはため息をつく。
剣を手放して拳銃を構えるとためらいもなく引き金を引いた。




