第43話「またね」
荷物を担いで、村の出入り口となる木の根を登り地上に出る。
「そういえば、もう鈴はいらないだろう」
早朝に起きた長老とダフネが見送りに出てくれた。
長老はカイの前に飛び出ると、空を切るように手を横に振る。
「きゃっ!?」
リリーン! チリリーンと。
派手に鈴の音が鳴り、ミオは心臓がわしづかみにされた感触を味わって、悲鳴をあげた。
長老の手に現れたそれに、ミオは身体を抱きしめ防衛反応を示す。
「鈴!? ううん、これって……」
金色の鈴だ。
クリスマスによく見かける小さなベルに似ている。
指で突いてベルを鳴らしてみる。
「キレイな音ね~」
その音を聞いてジュリアが心地よさそうに目を閉じる。
「ダメだ。返してくれ」
カイは長老の手からベルを奪い取り、手の届かぬ高さにまで持ちあげた。
ドワーフと比べる身長差。
なんて意地悪なのだろう。
ふくれ面の長老が背伸びをして取り返そうとする姿は、ミオから見ても愛らしかった。
「なんじゃ。もう必要ないだろう」
「感謝している。だが返したくない」
「カイ。その鈴って……」
ミオの疑問にカイは「あぁ」と返事をして、余裕に満ちた甘い顔をして話した。
「ドワーフの作った道具の一つ。探しものに役立つんだ」
「……探しもの?」
カイの一言がやけに障った。
ジロリとカイを睨むも、ミオの変化に気づいていない。
「ドワーフは武器を作ることが得意なんだ。炎をまとう剣や雷を鳴らすハンマー。でも日常に根づいたものもある」
筋力を一時的に上げる手袋。
効率よく雑草を狩れる鎌。
ものづくりにおける知恵は高く、道具の価値は年々上がっていく。
それくらい価値があり、製造できるものではないからだ。
ドワーフの数は少ない。
かつてドワーフの力を独占しようとして、ドワーフ狩りが起こったそうだ。
ミオとカイを繋いだ鈴もその一つのようだが、効果がいまいちわからない。
長老を見ると天狗のように鼻を高くしていたので、ミオはドワーフが天才的な頑固者というキャラクター認識をした。
(それだけ道具があると、エルフにとっての花とどう違うのかわからないな……)
「これはオレとミオの心臓に通した鈴だ。これがミオを見つけてくれた。……取り戻したかったんだ」
言葉の意味を理解するのに少し時間がかかってしまう。
言葉が通じても、その先に意味を読み取らなくてはならない。
ずっとミオとカイを繋いでいたと知り、ポッと頬が情熱的な色に染め変わった。
長老がしかめ面をしながらしぶしぶとベルを元に戻す。
「もう少しだけ貸してやろう。その方が弟も喜ぶじゃろう」
「……サンキュ、親父」
「また顔を見せに来い。木が許す限り」
「あ、ありがとう! 親父さん!」
ミオが大きく手を振って長老の背中に声をかけると、長老は肩を跳ねて足を止める。
そして脱兎のごとくぴゅーっと走り去った。
「ラウロ、リーノ。またね」
長老の後をダフネが追いかけていき、木の隙間に飛び込むと姿を消した。
ミオはなぜ急に長老が逃げたのかわからず首を傾げていると、ジュリアがニヤっと小突いてくる。
「ミオは本当に垂らし込むのが上手ね。ほら、カイもしっかりしてよ!」
筋張った大きな手で顔を隠すカイ。
鼻の先端を赤くし、みんなで顔を拭って前を見据えた。
森は広くて迷いそうになるが、ジュリアがコンパスを見て道を示してくれる。
長距離にはまだ慣れず、歩いているとだんだんと身体が熱くなって汗の粒が溢れた。
ふとカイの手が目に入り、また皮手袋をしていることに気づく。
岩肌になった箇所を隠しているのだろう。
痛い思いは分けてほしいと、ミオはカイの袖を掴んで並んで歩いた。
それをラウロが見たようで、忍び足でジュリアに接近して腕を肩に回そうとする。
指先が肩に触れた瞬間、ジュリアは毛を逆立ててラウロを突き飛ばす。
ラウロの恋路は成就しそうにないと、この場にいる全員が諦めていた。
森を抜けると一気に潮の香りが吹き込んで、ミオは懐かしさに顔を上げる。
同時に砂浜の向こう側から波の音とは別のさわがしさが連続して響いてきた。
「あれは……海軍!?」
爆発音に金属のぶつかる音。
火花が散って木片が崩れ落ちる音など、ごちゃごちゃで何が起きているのか全貌を把握するまでに苦戦した。




