表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/57

第42話「恩を忘れるな」

「そんなにオレのこと好きだった?」


「ちがっ……いや、違わないけど! やだ、カイってやさしくない!」


「愛はいろいろ。ミオの気持ち、一つじゃない」


「そ、そう! 私はジュリアやエルダ、ドクにリーノにみんな好きだもんっ!」


「……余計な事言うなよ」



ふてくされて呟いたカイにダフネは珍しい微笑みを見せる。


鉄仮面な分、微笑みにはどんな意味が含まれているのか探ってしまう。


理解の難易度は高かった。




蜜が止まり、大きく開いていた花が閉じていく。


「いいの? カイは飲まなくて」


ダフネがカイに問うと、カイは弱り果てた微笑みを浮かべて首を横に振った。


「あぁ、いい。……オレには毒でしかないだろうから」


「毒?」


「海獣は悪い心の塊だから」



ダフネはそれ以上何も追究はしなかった。


なぜ、そう自罰して笑うのだろう?


寂しげな目を見て、ミオはカイの手に自ら触れてみた。



「海獣にはならないよ?」


なんの根拠もないくせに、ミオは迷いなく口にする。


言葉に変えていきたかった。



「カイは私を助けてくれた。次は私がカイを助けるよ」


「あぁ……。そうだったな」



触れた指先の絡みが強くなり、ミオの肩にカイが寄りかかる。


再びダフネにじっと観察されていたが、腹をくくってミオはカイの青を指で梳いた。




「花の蜜、普通は手に入れられない」 


村へ戻るためにもと来た道をたどる。


相変わらずランタンがなくては足元を確かめるのが精いっぱいだ。


一歩一歩、慎重になって進む。


疲労に肩を上下させるミオに対し、ダフネは乱れた様子一つ見せない。


夜目が効くようで、ランタンがなくても難なく歩いていた。



「幻が人を壊す」


ダフネがミオの顔色を窺いながら手を差し出して道を示す。


ミオは後ろをカイに守ってもらいながら、ゆっくりと外の光を目指していた。



「幻って……」


(そういえば花の近くまで来たとき、幻覚や幻聴がひどかった)


「普通、耐えられない。だから死ぬ」


鍾乳洞に古い人骨があった。


花の幻に呑まれ、そのまま死んでしまったのだろう。


昔は人とエルフ、人魚は仲が良く助けあって生きていたそうだ。


しかしいつからか、人魚の肉を食らえば不老不死に。


エルフを食らえば若返りにと、不穏なささやきが広がった。


人間からエルフと人魚を守るために、ドワーフが知恵を出し、妖精が守りを生んだ。


各種族の宝であり、魔法を守ることで調和を崩さないよう、それぞれ分かれていった。



「花の蜜は毒にもなる。無条件の奇跡はない」


前方から光が射し、ダフネが振り返ると風が水銀色の長い髪を揺らす。


宝石を埋め込んだようなデイジーイエローの瞳。


ぞっとするほどに透明感ある色白の肌。


年頃の男の子二人の母とは思えぬ少女のような容貌。



(ダフネはどうしてラウロとリーノのお母さんに? 人間だから村に入れなかったはず)


二人の父親は人間のはずだ。


エルフと人間が愛しあって二人が生まれた。


育てることが出来ず、泣く泣く手放した。


気にはなるものの、何でも突っ込んで聞いていいわけではない。


ダフネが誰かに話したいと思えば言葉に変えてくれればいい。


ミオは顔をあげ、ダフネの手を掴んで光に飛び込んだ。





村に戻ってからドワーフの長老の家で休息をとる。


その間、カイは村から離れて鍾乳洞に籠もってしまった。


時折、地響きが鳴り、妖精たちが身震いをしていた。


「人魚の姫さんや。お前さんはエルフの力を借りた。必ず恩を返さねばならぬ」


昨夜寝落ちしてしまった長老が何食わぬ顔をしてミオに語りだす。


「お前さんとカイを繋ぐ糸。それを持っていたのはワシの弟だった」



ミオの知らないカイと村長の繋がり。


ミオの前で話に出ていたことはあるのだろうが、初耳のようなもの。


「これは種族間での暗黙じゃ。助けてもらったら、相手が困ったときに助けを返す。……カイが妖精に受け入れられているのはそれが理由じゃ」


「助けを……」


「人魚は誰を助けるか。エルフの花と同等のものは何か。ちぃと頭の隅に置いておくのもありではないかのぉ?」


頭を指でつつき、長老は白いひげを握りしめ、部屋の奥へ引っ込んでしまう。


小さなソファーでは横にもなれないので、ミオは外に出て木に寄りかかって目を閉じる。



(エルフへの恩。カイはドワーフと清算したってこと? じゃあ私には何が残って……)


ぼんやりと考えてみたが、疲労困憊だったミオが気にし続ける余力はなく……。


三日ほど休んでようやく体力が戻り、仲間の待つ船へと戻ることにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ