第40話「トラウマ。叫び。助けて……」
(やだな……。しんど……でも耐えなきゃ。もう少し……)
「なんだ、あれ」
前方に何かあると気づいたカイがランタンを掲げて凝視する。
「ひいっ!?」
ランタンの灯りに浮かびあがったものにミオは青ざめて身を縮こませる。
ざわつく空気の震えと、嘲笑まじりのひそひそ声がミオを突き刺した。
「……人骨だな」
ここはエルフやドワーフたちしか入れない場所では?
ミオは涙目にダフネに疑問の眼差しを向ける。
「古い骨。昔の人」
「昔は人間でもここに入ることは出来たのか?」
「……人間ダメ。裏切るから」
昔と今は違う。
そう言いたげにダフネは白い石を指で転がす。
「長老の弟、助けた。だから長老許した」
ダフネの言葉にカイは胸に手を当て、拳を握る。
鈴の音がしたが、それにミオは気づかない。
奥へ進むほどにめまいに襲われた。
“あの子、おかしいのよ。髪も直そうとしないし、すぐに問題起こして……”
“仕方ないわよ。だって海にいた捨て子でしょ? 気味悪い子よね”
ミオを責め立てるように嫌な記憶ばかりが蘇る。
最初は痛みを感じていたが、だんだんと苛立ちに変わっていった。
ミオは下唇を何度も噛んで耐えようとした。
「もうすぐそこ。花、見える」
「そうか。ミオ、もう少しだ。がんばろう……」
『うるさいっ!!』
「……ミオ?」
カイとダフネの会話さえ頭に響く。
わずらわしい。
ミオを殺しにかかるようだ。
たくさんの亀裂が入る。涙が溢れて前が見えなくなった。
震える膝を折る。
耳を塞いでもミオを責める音は消えてくれなかった。
――ひそひそ。
モヤモヤ。
パタパタ……。
イライラ!
『うるさい、うるさい、うるさいっ! 何も知らないくせして!!』
誰かがミオに後ろ指をさす。
ほとんど話したこともない人たちがミオを見てため息を吐く。
あることないことデタラメに広がって、海外の捨て子と揶揄された。
田舎の町で海外の人は珍しい。
ましてや老人ばかりの町のため、嫌悪感を抱く人も多かった。
“おそろしい”らしい。
ミオはその言葉を受け、身の潔白を証明するように身体を動かした。
正義感、と例えるべきか。
心の底から助けたいと思って行動していたかと問われれば、言葉に詰まる。
救われたい想いが悪評を招き、不良のレッテルが貼られ、誰もミオに近づかなくなった。
いつしかミオが一番自分に怯えるようになった。
なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでわたしがなにをしたというの だれもきずつけたりしない そっちからこうげきするからみをまもるしかなかった やさしくせっしてもみんなにげていく わたしはなにもしていないのに どうして どうしてわたしをきらうの ゆびをさすの わるくいうの つきはなすの あやまればいっしょにいてくれるの!!!???
「ミオ! もうそこに花がある! あと少しだからがんばろう!」
『やだやだ、やだこわい、こわいこわいよぉ!!』
(知らない言葉で話さないでよ! 私の知らないところに声がいっぱい!!)
やさしい眼差しなんてない。
傍観者に徹する細められた目。
歪んだ口元に、名前も知らぬよく見る顔。
右も左もわからない不安定な世界でどれだけ歯を食いしばって立ち上がったかも知らないくせして!
怖くて泣いてもミオを守るぬくもりも言葉もなかった。
周りにとってはミオが異形のようだったのかもしれない。
同様にミオにとっても言葉の通じぬ化け物のように見えていた。
『いやっ! やだあああっ!!』
目の前で黒い影が大きくなったり小さくなったりと揺れている。
不規則に動くそれにミオは泣き叫び、砂利を蹴飛ばす。
これ以上後ろに逃げられなくて余計にパニック状態がひどくなった。
潮の香りが広がって、息が出来なくなり、ミオは首をおさえつけた。
――波が追いかけてくる。
泳げない!
苦しいから来ないで!!
『やだーっ!!』
「ミオッ!!」




