第34話「ドワーフの親父様」
村の中心に建つかやぶき屋根の平屋。
ダフネの案内だったが、他の妖精たちもついてきたので家の前はにぎやかだ。
カイが扉をノックすると、中から一メートルほどの三等身をしたドワーフが顔を出した。
(ドワーフ……。あぁ、ドワーフ!)
ようやくミオはドワーフが『ドワーフ』であると気づく。
日常的に使う単語ではないどころか、映画でも観ない限りめったに知るものでもない。
「入りな」
見た目に反してずいぶんと渋い声だった。
見た目が小さく、もっさりとしたひげで顔がほとんど見えない。
毛むくじゃらがわさわさと動いているように見え、ユニークさにミオはつい笑ってしまった。
「行こう、ミオ」
差しだされたカイの手に手を重ね、胸の高鳴りに身をゆだねる。
「お頭。俺とラウロは行かない」
「わかった」
リーノはダフネの手首をつかみ、家の中に入ろうとするミオたちに告げる。
ここに来てダフネとの会話を選択したが、ラウロとリーノの気持ちはバラバラだ。
冷静なリーノに対し、青ざめて立ちすくむラウロは危うく見えた。
(ううん。違う。表情が見えないからこそ、リーノの方が……)
それが心残りとなる。
二人を気にしながらミオはカイとジュリアの三人でドワーフの長老の家に入った。
長老の家はこぢんまりとしており、あちこちに木の実が落ちている。
ドワーフ基準で造られた家のため、台所や机の高さがかなり低い。
足の短い椅子にミオとジュリアは腰掛け、カイは直接床に座り込んだ。
「親父。ミオの言葉を取り戻したい。どうすればいいか……」
「知らん」
さっそくカイが長老に問いかけるも、長老はコーヒーを口にしてあっさり拒絶。
待機していたジュリアがため息をつき、手荷物からノートとペンを取りだした。
「ドワーフさん。あなたはミオを助けるためにカイに協力してくれたんでしょ!? 今回も人助けと思って……!」
「知らん。ダメだ」
腕を組み、目を閉じてジュリアを見ようともしない。
頑固な態度を貫く長老にジュリアは口角を引きつらせ、粘り強く文句を言うことで攻めの姿勢に入った。
「なによケチ。息子の嫁を助けるためなんだから一肌脱ぐくらいしなさいよ」
「ふん」
「もうなによこの頑固おやじ! カイと似てないわね!」
「ジュリア落ちつけ。親父はもともとこうだ」
「ムキーッ!!」
ジュリアが挑発的な口調になって長老と向き合う。
思うように事が運ばずにモヤモヤとイライラを抱え、今にも暴れそうだ。
ジュリアの行動がミオのためだと伝わり、ミオは喜びに身を震わせた。
口角が緩んで胸がくすぐったい。
みんなの想いに応えたい。
ミオは前のめりの姿勢で長老と向き合った。
「私、ミオ。はじめまして」
強引に会話に入ろうとするミオにジュリアが目を見開く。
心配してくれているのはわかったが、ミオはカイやジュリアに依存して解決策を得ようとは思っていなかった。
「言葉、わからない。話したい」
元いた世界で言葉が通じず、不審がられたミオは人と向き合うことに怯えていた。
恐怖や軽蔑の目で見られることが怖く、まともに口を開けなかった。
そのくせ孤独はさみしいと、無鉄砲な行動を繰り返す。
歯止めの効かない暴走に後ろ指は増えていった。
(おねえちゃんたちに言われたからじゃない。私は私の意志で言葉がほしい!)
「言葉、知りたい。お願い」
膝と同じ高さのテーブルに両手をつき、深々と頭を下げる。
これはミオの問題だ。
言葉を取り戻したいのならば、ミオが動かなくてはならない。
たとえジュリアが饒舌だとしても、それにすがっていてはミオが変わることはない。
他力本願な自分に別れを告げ、愛に向かって走れる自分になりたい。
これはそのための一歩だ。
「ワシは人間がキライだ」
不愛想なままに長老がつぶやいた。
「お前さんとダフネが変わり者なだけじゃ」
なぜそこでダフネの名が出るのだろう。長老をじっと見つめると、長老は咳払いをし、視線をチラつかせてからミオを一瞥した。




