第32話「ドワーフの森」
海を渡り、運よく海軍兵に見つかることもなく、スペランツァ王国の西の端にたどり着く。
その船旅でカイは船員たちに身の上を明かした。
“海獣”だと告げると船員たちは大爆笑。
なんとなく察していたと大いに盛り上がり、カイが素直になった記念として宴会が行われた。
不服そうにカイは眉根を寄せ、ネタにされていじられたのも数日前のこと……。
ドワーフの森はスペランツァ王国と山脈地帯で区切られており、森を挟んで海があった。
森は木に覆われており、人が入れないよう枝が絡んでいる。
「カイ。どうやって入るの?」
ミオ、カイ、ジュリア、ラウロ、リーノの組み合わせで森に入ろうとする。
誰が行くかを決める際、普段物言わぬリーノが名乗りを上げた。
珍しいこともあるものだと周りが驚いていると、調子に乗ったラウロも同行することに。
女性はミオの通訳も兼ねて、ジュリアが一緒に行くこととなった。
決まったのは良いものの、森は閉ざされており入る隙がない。
はじめてドワーフの森を前にしたジュリアが呆れてカイを責めたてた。
「親父が気付いたら開けてくれると思う」
「意味が分からないわ。ちゃんとした情報で話してくれる?」
「中に開けてくれる人がいる……?」
あいまいな回答しか出てこない。
早々に頭が痛いとジュリアが深くため息をつき、心配したミオがそっとジュリアの背を擦った。
それをラウロがニマニマし、カイの影に隠れてジュリアを眺めていた。
「どうした、ラウロ?」
ラウロの行動原理をわかっているカイは、わざと口角をあげてラウロに問いを投げる。
「いやぁ、いまだにお頭が海獣だなんて実感がなくて」
だが返ってきた答えは、カイの思っていたものと違ったようだ。
「黙ってて悪かったよ」
「いやぁ、いいねぇ! カッケー! 海獣ってよ~……ぶくく!」
「やめなさい、バカラウロ!」
ラウロが思い出し笑いをしているところへ、ジュリアが強烈な蹴りをかます。
背中を狙った蹴りを見て、ミオは真似できそうだと、砂浜で何度か飛び跳ねてみた。
自己防衛のためにミオはある程度戦う術を持っている。
飛び蹴りにグーパンチと、いつのまにか派手になっていたが……。
(ジュリアとラウロだと微笑ましく見えるけどね)
「前から疑問に思っていたけど、なぜ“ドワーフの森”と言うのかしら?」
ラウロを足蹴りにしながらジュリアがカイに問う。
“ドワーフ”とは何度か単語を聞いてきて発音は覚えたが、何を示しているかは理解できていない。
「ここはドワーフの知恵で守られているから」
「ドワーフってまだ生き残りがいたのね。カイの知り合いのドワーフってどんな人?」
知識欲旺盛なジュリアが目を輝かせている。
ここ数日いじられ倒されたカイは、仕返しと言わんばかりにジュリアを見下ろし、頭頂部をぐりぐり撫でまわした。
「ジュリアより小さい」
「むがっ!? うっざ! ドワーフと比べないでよ!!」
ぎゃーぎゃー騒ぐジュリアを見るカイの目は穏やかだ。
まるで兄妹にさえ見えてくる。
意外にもジュリアには嫉妬心が湧かないので、面白可笑しくてクスッと笑った。
(ジュリアってば、かわいいなぁ)
ミオはジュリアを年下の子どもだと思っている。
ちょっとした動きを見ては保護欲をくすぐらせていた。
(あれ? そういえばさっきからリーノ、一言もしゃべってない……?)
リーノが自ら名乗り出たのは誰もが驚くことだった。
だから何も話そうとしないのは気になってしまう。
後から参加表明をしたラウロの方が積極性がある分、違和感があった。
「リーノ。大丈夫?」
「……森、たぶん開く」
「えっ?」
リーノの言葉がぼんやりとしか理解できなかった。
“森“は何度も聞いた。
“ぶんひらく”とはなんだろう。
区切りをつけた単語でないと、ミオにはでたらめに複合されて聞き取ってしまうことが多々あった。
木の壁の向こう側でガサガサとした音が聞こえる。
このことをリーノが言いたかったのだろう。
まっすぐに森を見据えている姿はいつもより儚さを増していた。




