表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/57

第30話「ミオの真実」

それから太陽が顔を出すまで花畑に寝ころんでいた。


トクン、トクン、トクンと。


少しずつ身体の色を戻していくカイの横で、ミオは鼓動を耳にする。


傾いていく月を眺めて、カイが語りだした。


「ミオはこちらの生まれで、人魚なんだ」


マルティーナがミオを人魚姫と言った。


キアーラが姉と名乗ったのを思いだす。


「オレは敗戦国の王子だった。敗戦国の王族に人権なんてないからな……。この身体は海獣化の呪いにかけられた。かろうじてスペランツァ王国を逃げ出して、難破していたところをミオに救われた」



言葉のむずかしさに頭がくらくらする。


ほとんど理解できていない。


ちゃんと聞いていたいのに……と、ミオはうとうとしながら耳を傾けていた。



「ミオが……助けてくれたんだ」


心臓が震えたと思ったら、また“リーン”と音がした。


目を閉じると、脳裏に青色の髪をした男の子がよぎる。


男の子のために海につながる湖畔で歌をうたった。


ぼんやりと霞む記憶に想いを馳せ、カイの胸に頬擦りをした。



「ミオに助けられて、その後オレは人魚の王に会った」


カイの手がミオの赤くなった頬を撫でる。


皮手袋で隠していた手は、ミオと何ら変わりのない色に戻っていた。


(よかった。海獣になってない)


海獣化の一部を見た後、アルノルドに連れ去られてしまった。


船に戻ってからは人魚に会って……と忙しい日々だった。


「禁じられた魔法に代償がないと思うなと王は言って……。ミオ?」


ウトウトと、現実と夢の間を行き来する。


「大丈夫だよ。私がカイを助けるから」


カイの目が大きく見開かれる。


ミオの言葉はやけに流暢に聞こえた。



「言葉が……」


息を呑み、カイはくしゃくしゃになって泣き笑う。


いつも堂々としているカイもこんな子どもみたいに笑うのだと、夢うつつにミオも笑った。



ずるい笑顔だ。


カイは最初からミオに甘い。


その因果関係がわかり、ミオは落ちついてカイの腕の中で寝てしまった。




ミオが目を覚ますと、月を見上げるカイが視界に飛び込んだ。


淡い光に照らされる姿にミオは頬を染める。


追いかけたときはまだ太陽が輝いていた時間だったはず、と両手で顔を隠した。


ミオが目を覚ましたことに気づいたカイが、イタズラにミオの身体を抱きよせる。


「きゃっ!?」


花の絨毯の上に二人して倒れ込み、ミオは焦ってカイの胸を押す。


至近距離に妖艶に笑む顔が迫っていたことに気づき、頬が熱くなった。


「オレとミオの心臓は繋がっている」



そう言ってカイがミオとの間に指を伸ばし、人差し指で空気を切った。


リリーン、と鈴の音にミオは目を見張る。


本当に心臓が繋がっているとはじめて実感し、気恥ずかしくて両頬を手で覆った。


「ドワーフにもらった鈴。これでミオが近くなったとき、引こうとした」


「どわあふ?」


「ドワーフ。ドワーフの作るものの中でも、選ばれた七つのうちの一つなんだ」


それをもっているにも拘わらず、ミオはなかなか捕まらなかったとカイはいたずらに笑った。


ミオは海が怖くてほとんど近づかなかった。


一人ぼっちで泣いていたはじまりを思い出してしまうからだ。


泳げないのも相まって、海沿いの町に暮らしながらも海を遠ざけていた。


鈴の音は聞こえても耳鳴りでしかなかった。


カイの言葉が理解できないまま、ミオはこれからの願いのことを必死に考える。


幸せの道を歩いていくために、ミオは孤独だった過去を振り返ったりしない――。



「助ける。わからな――」


言葉が飲み込まれる。


海から波が押し寄せて、泉の水面が揺れた。


想いは波に溶けるようで、甘ったるい。


唇が重なると少しだけしょっぱい味がした。


「本当はオレもあきらめたくない」


顔をあげたカイの表情は晴れやかだ。


「ミオに再会して欲が出た。――海獣に負けてたまるかってな」


「カイ、強い。大丈夫」


(私が知っているカイはやさしくて、強い人。みんなに愛される私たちのリーダーだ)


言葉がわかったとしても、ミオが出せる答えなんて一つしかない。



助けてもらった。


今度は私が助ける。


もうあきらめるのはいやだから。


一人では踏み出せなかったかもしれない。


今のミオには、恋も友情も、旅へのロマンも詰まっている。


背中を押してもらえたからもう迷わない。


欲しいものには全力で手を伸ばそうと決め、ミオは自分を縛っていた鎖から解放した。



「ずいぶんといちゃついてることで」


二人きりの甘い空間に突如、ドスの効いた声が響く。


泉に鬼の形相をして腕を組むキアーラがいた。


突然の登場にミオは悲鳴をあげ、カイを突き飛ばす。


(なな、なんで!? なんでお姉ちゃんがここに!?)


「なんだ、またお前か。ストーカーか?」


「わがまま娘に付き合っているとこうなるんだよ」


「マルティーナ!? わがまま娘って誰のこと!?」


ケラケラと笑うマルティーナをキアーラがふくれっ面になって叩く。


この人魚たちは納得するまで追いかけてくるだろう。


《カイを助ける! 方法教えて!》


《そんなの知らないわよ! ミオが殺すべきなんだから!》


《殺すんじゃなくて、た・す・け・る!》


仏の顔も三度まで。


いや、三度目の正直だ。


すっかり怖いもの知らずになったミオは、笑顔のまま人魚たちを離すまいと手を伸ばす。


ミオに手首を捕まれたキアーラが瞳に涙をいっぱいに溜めて、ぶるぶる震えだした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ