表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/57

第27話「大好きを言える相手」

見た目とは裏腹にキアーラの物言いは鋭い。


海獣を殺すべきはミオだと、責任をとるように要求してくる。


妹として愛情を向けてくれてはいるが、まずは海獣の始末を優先したいようだ。


直接届く声はエルダにも聞こえるようで、初めてのことに驚き、耳に手をかざしては周りを見回していた。


キアーラの嫌悪がにじむ態度に、ミオは強気に睨み付ける。


《私に殺せと言いたいの?》


その問いにキアーラは表情を曇らせる。


《……何も覚えていないのね》


ついにはさめざめと泣き出してしまい、これでは話が進まないとマルティーナが呆れつつ慰める。


キアーラでは話にならないと、マルティーナが代弁をした。


《お前は禁じられた魔法を使い、あの男を生かした》


(なにそれ……。カイを生かした?)


禁じられた魔法とはいったい何なのか。


意味がわからないとマルティーナを睨む。


《心臓を繋いで命を助けた。一つの心臓を二人で共有する。……代償としてお前は異世界へ流され、理不尽な孤独を強制された》


「あなたたち、何を言ってるの? 異世界? 代償?」


人魚とはじめて対面するエルダは、まったく話が理解できないようだ。


表情をこわばらせてマルティーナの話を妨げると、それを不快に思ったキアーラが眉をひそめて舌打ちをした。


《人魚には禁じられた魔法がある。王族だけが扱える命を繋ぐ魔法よ。シーナはそれを使ってあの男を助けた》


「それは……ミオちゃんが人魚だと言いたいの?」


「そうだ」


エルダの問いにマルティーナは断言する。


驚きの連続にエルダは額に手をあて、足元をふらつかせた。


ミオがエルダを支えると、エルダは目を真っ赤にしてミオに笑いかけた。



「はじめから敵うはずなかった……」


震える声。


弱々しく、物思いに沈んだ微笑みにミオはエルダの想いを確信した。


今までエルダとの関係を壊したくないと、カイへの恋心を押し殺した。


カイと上手くいってほしいと身を引いた。


二人とも大好きな気持ちに偽りはない。


幸せになってほしかった。


――それは本当にエルダのためであり、友情なの?


少なくとも今、泣いているエルダを前に逃げたくなかった。



「エルダ。私、カイ好き」



その言葉にエルダがハッと顔を上げる。


大きく見開かれた目が一途にミオを見つめ、やがて「困った」と微笑みをみせた。


「うん。知ってるよ」


エルダの手がミオの頬に触れ、そっと涙を拭う。


あたたかい人肌にミオは目を閉じ、エルダの手に指先を触れさせた。


「大丈夫。さっきね、きれいさっぱり振られてきた」


辛いのに、エルダは笑みを絶やさない。


泣いたとしても、悲しみに徹することはない。


粉雪が降り積もるような切なさに、ミオが泣きじゃくっていた。


最低だとわかっていても、エルダの強さに泣かずにいられない。


ミオとエルダでは悲しみの基準が違うんだ。


孤独に耐えてきたミオは、人肌に触れると途端に泣き虫になる。


エルダはどんな時に泣くのだろう?


答えはまだまだ得られそうにない。


「あたしはミオちゃんも好きだから。仲間には幸せになってほしいと思って当然じゃん?」


この世界にやってきて、最初からミオにやさしかったカイ。


過度なスキンシップに怖いと感じ、緊張で身を縮めたこともあったが、穏やかなまなざしに心の紐は解けた。


大切にされた記憶がない。


無条件に優しくしてもらったことなんてなかった。


パニック状態だったミオに寄り添い、ミオの世界を広げてくれた人。


たくさんのやさしさを受け、愛情を知った。


好きにならない方が無理だとミオは葛藤し、想いを閉じ込めた。


ミオがずっと求めていたものは”居場所”だった。


心を打ち解けることの出来る相手であった。


ここにいてもいいんだよ、と許されたかった。


その象徴がジュリアとエルダとの友情であり、これ以上望むのは我が儘だと自戒した。


エルダにも幸せになってほしいと、ミオは退くことを選んだ。


――それはエルダにとっても同じと知り、涙が止まらなかった。



「ミオちゃん。カイを助けてあげて」


エルダの言葉にミオは唇を震わせ、ゆっくりと微笑んだ。


お互いにうなずきあって、気持ちを確かめた。


「ありがと、エルダ。大好き」


「あたしもー。あたしもミオちゃんが大好きだよー」


くすぐったさにミオは鼻のてっぺんを赤くして笑った。


何度も心の中でエルダに謝った。


だけど伝えるべきは感謝であり、謝罪ではないとあえて口にしなかった。


もう自分を隠さなくていい。


知らないことは知っていけばいい。


何もはじまらないから。


無知は楽だけど、はずかしいことばかりだ。


エルダの想いを受け取って、ミオは強気に顔をあげる。


黙って見ていたキアーラが腹を立てていると気づき、凛とすまし顔をして振り返った。


(キアーラさん。私のお姉ちゃん……)



「ねぇ、勝手に話をまとめないでよ! あれは殺さないといけないの!」


キアーラの主張を飲むわけにはいかない。


ミオにも譲れない思いがある。


たとえミオが殺すべき怪物だったとしても、簡単に諦められるほど弱い気持ちではない。


カイは海獣であることに苦しんでいる。


ふと、脳裏にアルノルドに連れ去られる時に見たカイの変貌が過った。


あの姿をアルノルドは”怪物”と言った。海獣の片鱗なのだろう。



ミオはなにも知らない。


守られてばかりで、今の穏やかな環境に甘えていた。


(このままじゃダメだ。ちゃんと、向き合わないと)


顎を引いて、気を整える。


――弱虫な”椎名 澪”にさよなら。


ミオは深呼吸をし、エルダの肩を押すと胸をはって人魚たちを見据えた。


「カイ、助ける! 殺す、やだ!」


「なっ!?」


ミオは人魚たちにお得意の”あっかんべー”の技を放った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ