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第26話「人魚の誘惑」

王都・ルーチェを脱出し、リーバの町を経由し海へ戻った。


三日ほど馬車を走らせ、その間ミオは献身的にエルダや仲間たちの傷を手当てした。


鉱山の島でカイは銃撃を食らっているはずだが、「治った」と言い張り、肌を見せようとしなかった。


そのことにミオはバツの悪さを感じていた。


カイに話してもらっていないにも関わらず、カイが”海獣”と知ってしまった。


キアーラたちだけでなく、アルノルドも口にしたのだからまったくのデタラメというわけでもないだろう。


――それでもミオの想いは変わらなかった。



船に戻ってすぐ。


カイはジュリアと海図を広げて話し合っていた。


「すぐにドワーフの森に行くって……」


「頼む」


無人島に立ち寄ってからドワーフの森に行きたいと、カイは急な願いを申し出ていた。


ジュリアは渋々航路を設定し、ドワーフの森までの日数を計測する。



リーバの街を出立してから無人島に到着した。


翌日に出立すれば五日ほどでたどり着く見込みとなった。


ジュリアと話す時以外は、部屋にこもって人と鉢合わせるのを避けていた。


不自然さにミオは声をかけるタイミングもなく……。


「カイ、ちょっといい?」


島に着陸すると、エルダがカイに声をかけ二人で船を降りる。


そのまま二人でどこかへ行ってしまい、残された船員は気にしないように黙々と己の役割をこなしていた。


二人の背を見送り、ミオの胸は針で刺されたみたいだ。


(カイとエルダ。大人っぽくてお似合い)


それに対してミオはなんとちんちくりんなのだろうと胸を見下ろす。


相変わらずのささやかな膨らみに、エルダのプロポーションと比較して羨望せずにはいられなかった。


(カイは……まだ手、痛むのかな?)


カイはずっと手袋をはめており、長袖で肌を隠していた。


ミオは夜営の準備をしながら、何度もカイたちの去った方向に目を向けていた。


「お頭のこと、気になるわけ?」


「リーノ!」


岩場で釣り竿を持ち、海と見つめ合いをしていたリーノ。


手の空いた人たちは魚釣りに徹していた。


図星を突かれ、ミオはアタフタと手を忙しなく振り回した。


「気になるなら聞けばいいじゃん」


距離感に悩むミオの気持ちに、リーノは配慮しない。


リーノは言動が直球なので、カイとエルダに板挟みとなるミオには辛辣なものだった。


(カイを好きだとわかっても、エルダも大事だし)


そんなに簡単ではないと不貞腐れていると、リーノがわざとらしく息を吐く。


「あんたはラウロくらいオープンになってもいいと思うよ」


普段は口数が少ないのに、リーノにしては珍しくおしゃべりだ。


それでもミオは真っ直ぐなリーノの目を直視できない。


「お主、あの男が好きなのか?」



――突如、どこからともなく艶やかな声が響く。


「「うおっ!? 人魚!?」」


他の船員たちもすっとんきょうな声をあげた。


岩場の下をのぞき込むと、波打つ情熱的な長い髪が見えた。


「マルティーナ!」


《今日はあの男はいないのか?》


頭に直接響く声。


あの男とはカイのことだろう。


ミオがうなずくと、マルティーナはにやりと楽しそうに笑みを浮かべた。


「ちょうどよい。ミオ、少し話したい」


「……ダメ」


ミオを誘う人魚に対し、リーノが立ち上がって盾となる。


デイジーイエローの瞳が細められ、マルティーナを見据えていた。


マルティーナは前髪を後ろに流し、リーノを興味深そうに眺めてから含み笑いをして手を前に差し出した。


「悪いようにはせん。ちょっとおしゃべりがしたいだけさ」


「あたしも行っていいかしら?」


「! エルダ!?」


カイとの話し合いを終えたのだろう。


ミオの代わりにエルダがマルティーナの手を握り返していた。


エルダの目元がわずかに赤い。


大胆な乱入にマルティーナは声をあげて笑い、あっさりと許可を出す。


親指で砂浜へ降りてくるよう指示した。


エルダが来たことでリーノは釣り具をもってこの場を去ろうとしていた。


「リーノ! ありがとう!」


振り返ることはなかったが、一度足をとめてうなずいてくれた。


励ましてもらえた気がして、ミオはエルダの手をつかむと、胸をはってマルティーナを追った。


岩場をおりるとマルティーナだけでなく、キアーラもいた。


ミオと同じマリーゴールドの髪をゆるく一つに編んでおり、目元はおっとりしている。


桃色に染まる頬は乙女のようで麗しかった。


《シーナ。どうしてあの男を殺さないの?》


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