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第25話「無意識に発するSOS」

「まかせて! ミオちゃんは絶対に取り戻す!」


「エルダ……!」


「ミオ、しっかり捕まってろ」


カイがミオを抱えて走りだす。


こんな風に助けられれば、胸に飛び込まずにはいられない。


感極まってカイにしがみつく。


エルダの助力あってのこととわかっていながら、虚勢をはっていたミオは緊張から解放されて人肌恋しくなっていた。


(ずるいかもしれない。でも今だけは……)


みんなのもとに戻りたい。


ミオはわがままに身をゆだね、カイに抱かれて足を浮かせた。


「簡単に逃すとでも?」


そこに襲いかかるのはアルノルドだ。


細身の剣でカイを突き刺そうとし、カイは身をひるがえして抵抗する。


剣と剣がぶつかりあっているうちに、アルノルドの目が獣のように鋭くなり、戦いを楽しむようになっていた。


「そんなにその娘が大切ですか? 危険を冒してでも守りたいと?」


「だったらなんだよ。やっと取り戻せたんだ。少しくらいいいだろ」


「なら尚更あなたを捕まえなくてはなりませんね!」


剣と剣がぶつかり、火花が散る。


ミオを守りながらでは分が悪いというのに、カイは絶対にミオを手放そうとしない。


守られると胸が熱くなる。


ミオは大切にされていると身をもって体感していた。


「っていうか、なんでお前がオレの秘密知ってんだよ!」


「賊を捕まえるのが仕事ですから。王に命令を受けただけですよ」


「王様はずいぶんと必死なことで」


「……別に。王命はついでです。僕は怪物を捕らえたい。それだけです」


アルノルドの腰に下がる黄金の縄が揺れた。


「それは――……」


黄金の縄の正体をカイは知っているようだった。


思いきり舌打ちをすると、ミオを抱えてバルコニーの柵ぎりぎりまで後退した。


「(こっちだ)」


追い込まれたと思ったが、バルコニーの下から金属音に紛れて声が聞こえた。


アルノルドに気づかれないよう、ミオがこっそり確認すると、バルコニーの下にはリーノがいた。


こちらに手を振り、何らかの合図を送ってくる。


それを見てミオは今を逃すわけにはいかないと、カイに強くしがみついてリーノの位置を知らせた。


「……さすが、早いね。逃げる算段はリーノが一番だな」


にやりと笑い、カイは思いきり腕を振り、強い一撃をアルノルドに食らわせた。


アルノルドはバランスを崩し、足裏で砂利を擦りなんとかこらえて前を見る。


「じゃーな、隊長さん」


体勢を整えても、動きはカイの方が早かった。


カイはミオを抱え、ほくそ笑みながらバルコニーを飛び降りた。


アルノルドがバルコニーの下をみると、大きな布がクッション代わりとなりカイたちを受け止めていた。


アルノルドが顔を出した瞬間、リーノが手榴弾をバルコニーに投げ込んだ。


小規模の爆発が起こり、もくもくと煙があがって視界が閉ざされる。


アルノルドはバルコニーから退避するや、次の危険を察知して兵たちに警告を叫ぶ。


だがすでにカイたちの攻撃の手は回っていた。


敷地内のあちこちから爆発が起こる。


「ちっ……!」


爆発による砂煙が晴れたとき、カイたちはとっくに逃げ出した跡だった。


アルノルドは冷静に辺りを見回し、状況を確認する。


負傷兵が数多く、鉄臭さが充満していた。



「隊長! 後を追い――」


「負傷兵を医務室へ。追わなくていい」


「しかし――」


「追わなくていいと言った。二度も口にさせるな」


「はっ!」


夜風が吹き、アルノルドのプラチナブロンドがなびく。


屋敷の一部は崩落し、怪我人も多くいる中、アルノルドの瞳は獣のようにギラギラしていた。


カイたちの去った方角を見て。腰にさげた黄金の縄に指をすべらせていた。


リーノのサポートによって全員が無事に脱出できた。



カイはミオを抱えたまま、王都を走り抜けていく。


高ぶっていた感情も落ち着いていき、照れくさくなったミオはカイにおろしてほしいと懇願する。


「カイ、降りる」


「ダメ。ミオは足遅いだろ」


「そーよ、ミオちゃん。こういう時は甘えなさい」


「エルダ!」


後ろから追いついたエルダが楽しそうに笑みを浮かべていた。


その微笑みに落ち着いたはずの感情がまた爆発し、大粒の涙がこぼれだす。


「えぇ!? なんで泣くの!?」


「ありがと……。みんな、好き」


(ここにいたい。私のいたい場所はここだ)


元の世界が嫌いだったわけではない。


常にさみしさを抱えて生きていただけ。


誰もミオとつながらず、孤独に過ごした。


誰かを助けることで、ミオは生きるのを許されたかったのかもしれない。


危なっかしい行動はミオが無意識に発するSOSだった。


今さら気づいて、ミオは初めてここは甘えても許してくれる人がいると感極まって泣きじゃくった。


やさしさがこんなにもミオを震わせるなんて知らなかった。


これが嬉しくて涙が出るということを、ミオははじめて知った。


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