第24話「みんなに会いたい」
夜になり、ミオは兵士に見張られた状態で部屋の隅に丸くなっていた。
アルノルドはミオを雑に扱うことはなく、見張りをつける以外は客人のように扱った。
何もせず、ただ時間が過ぎるのを待つ……。
おそらくミオはカイたちをおびき寄せるエサにされているだろう。
(戻りたい……けど迷惑かけたくない)
このまま見捨ててもらった方が楽になれるかもしれない。
悲観に暮れる思いとは裏腹に、期待して空想に耽る。
(エルダは、ケガ大丈夫かな? カイは――)
――コツン。バルコニーから音がした。
それは何度も続き、ガラス張りの扉の下に粒ほどの小石が溜まっていった。
小さな音は見張りに気づかれていないようだ。
ミオは忍び足で扉の前に向かい、カーテンの隙間からバルコニーを覗き込む。
(あっ……!)
月明かりの下、バルコニーの柵に腰かける姿。
布で顔を覆っていてもわかる鮮やかな珊瑚色の瞳。
隙間から見えるコバルトブルーの髪は夜でも映えていた。
「ミオ」
扉が閉まっており、声は聞こえない。
だがミオには届いていた。
瞳に張っていた水膜が破裂して、とめどなく涙となって溢れ出た。
ガラスの扉が開く。
どうしてあの海獣の片鱗を見てなお、ミオはカイに手を伸ばしてしまうのだろう?
心音がいとおしい。
何度もミオを読んでいたただ一つの音。
ミオを孤独に追いやるばかりだった雑音が、たしかに声となり、胸に響く。
風がミオのマリーゴールドの髪を巻き込み、カーテンがバサバサと音を立てた。
「迎えに来た」
「カイ……!」
周囲が見えなくなって一心に手を伸ばす。
もうすぐ指先が触れ合う。
――その手前で、部屋の扉が開き、見張りが二名、飛び込んできた。
「現れたな、海賊!」
「囲め! 捕らえろ!!」
続けて屋敷にいた兵士たちが一斉に動きだし、四方八方囲まれてしまった。
「派手なお出迎えだこと」
(あぁ、迷惑をかけてしまった)
カイたちはミオを助けようと必死に動いてくれる。
それがわかっていたからこそ、罪悪感は肥大する。
ミオのことなんて放っておいて、見捨ててしまえばいいのに……。
「ミオちゃん」
「……エルダ!」
人情深い人たちだから、絶対に来てくれるとわかっていた。
涙で視界がにじみ、月が揺れる。
エルダの腕に巻かれた包帯や、カイの腕に張りつく岩肌のような鱗に気づいてしまった。
治りきっていないのに、ミオ一人のために危険な地へ迎えに来てくれた。
それが誰にも見向きもされなかったミオにとって、どれだけうれしいことか。
喉が焼けて、嗚咽が止まらなくなってろくに喋れなくなった。
「来ましたね、カイ」
いざカイたちがやってきても、物腰の豊かさは変わらずにアルノルドが現れた。
碧い瞳はまったく笑っておらず、いつものキラースマイルは輝きながら歪んでいた。
「この程度でオレを捕らえることは出来ねぇよ」
「その割に、姿を維持するのが困難なようですが?」
アルノルドの挑発にカイは返事をしない。
顎をあげ、ミオの身体を抱きあげた。
「わっ!?」
「ミオに手出しはさせねぇ。……簡単に呑まれたりしねぇよ」
「本性を現す前に捕らえます!」
「エルダ!」
「まかせて……よっと!」
軽い身のこなしで兵士たちの足元を蹴り飛ばし、短刀で敵の身動きを封じていく。
攻撃を食らった兵士たちは立っていられなくなり、次々とうずくまっていった。
エルダは兵士の身体を投げて、わざと束になった兵士たちにぶつけていった。
複数人を相手にしてもまったく動じない。
怪我をしていても戦い慣れた器用さにアルノルドは舌打ちをした。
さすがのエルダも四方八方塞がれれば防戦に回るしかなかった。
「いけ! 数でねじ伏せろ!」
「はっ……! しばらく見ない間に弱くなったんじゃない? 鍛え方が足りてないのよ」
エルダは強がっているものの、数の暴力を笑い飛ばす。
一人であれば疲労の色がもっと目立っていただろう。
「エルダ! 一気に攻めろ!」
ここに来たのはカイとエルダだけではない。
ドクをはじめとする船員たちが外側から参戦し、兵士たちと激しい戦いを繰り広げていた。
ミオの立つバルコニーへの道を切り開き、エルダが拳を空に突き出した。




