18
アデリーヌは、ベルガルドを今も愛していると思った。
美しい男だった。
望まない場所でしか生きられない、手の届かない恋に溺れ続ける、哀れで愚かな男。
すぐ側にいるのに自分を見ない男が憎かった。
男爵家の籍を外れれば楽になれるぞと何度言おうと思ったかわからない。それより、家の権力を使って無理矢理に婿にしてしまおうかとも考えた。
それでも、ベルガルドが自分を見ないことは、わかっていた。
自分に何が足りないのか、あるいは何を持ちすぎているのか、眠れない夜が幾晩もあった。
ベルガルドは自分を男女の性愛という枠で見ていない。そこが好きで、同じだけ苦しかった。
だから、アデリーヌはベルガルドに何も告げなかったのだ。
ベルガルドだけではない。誰にも、自分が彼を愛しているとは、言わなかった。
一緒に死んでくれるセダだけが知っている。それで良い。
自分の体と一緒に心も、恋も、戦場の土となって一緒に消える。
ああ私も、哀れで、愚かな女だった。
アデリーヌはようやくそう認めることが出来た。
「団長は、外見も美しいし、内面は魅力的な女性ですよ」
もはや目の焦点も合わぬ男から零れた言葉だからこそ、アデリーヌはそれを素直に受け取れた。
「お前となら結婚しても良かったな」
「来世でぜひ結婚してください」
「一人で死ななくて良い、お前が隣にいるというのは有り難い」
「では、アデリーヌより3秒ほど長生きして見せましょう」
言うやいなや、セダはぐっと歯を食いしばり、目の焦点を無理矢理に合わせていく。
「何とかなりそうか?」
「アデリーヌへの愛で耐えてみせます」
「セダ、お前ちょっと愛が重いぞ」
「おや、ご存知ありませんでしたか?」
「いや、お前が私の従者になるために5人ほど陥れたのを知っている」
「・・・は!?」
「まぁ、もともと素行が悪い者たちだったから良いかと思っていた」
「アデリーヌ、恥ずかしさのあまり寿命が縮んだのですが」
「3秒は耐えて見せろ、愛してるんだろ?」
また二人で笑い合っていると、間近から地響きのような音と共に、土煙の向こうにいくつもの馬影が浮かび上がった。
「アデリーヌは帝国の称号をお望みでしょう?」
「ああ、死ぬまで戦わぬ者に称号は相応しくない」
「仕方ありません、もうひと頑張りいたしましょう」
どちらの兵の物かも分からない剣を拾う。
いま北壁騎士団で立っているのはアデリーヌとセダの二人だけ。後は全部、敵だ。だから全ての者を切れば良い。
アデリーヌ・ペイシェル伯爵令嬢と、従者セダの遺体は帝国兵によって丁重に運ばれた。
鎧の作りから貴族の者と知れたため、鉄兜を外した帝国軍は、二度驚くことになる。
一度目は、二人があまりにも若く、また美しい容貌であることに。
二度目は、最も位が高いと思われる鮮やかな装飾が施された鎧を身につけた人物が、女性であったために。
そして帝国は史上初となる、女性騎士の武勇を讃える「戦姫」の称号を贈ることとなった。




