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「セダ、行くぞ」
馬上のアデリーヌはこれまでに見てきたどの瞬間よりも美しかった。
セダはアデリーヌに続いて馬に飛び乗る。
上級騎士に従者、騎士見習いに従者見習い、雇われた魔法士、荷車を引く奴隷、そして従軍する子どもたち。
王都から戻ってきたアデリーヌは、どこからこんなにと思うほど大量の金貨を集めてきていた。
道すがら、親元や、預かる余裕のある教会に預けられるだけ子どもを預けながら、アイン砦を目指す。
途中、立ち寄った農村は突然の外貨獲得の機会に色めきだった。
むしろ冬支度は大丈夫なのかとこちらが心配するほど大量の食料や備蓄が寄せられる。
常ならば若い騎士たちに秋波を送る娘たちだが、団長が誰よりも一番黄色い悲鳴をあげられていた。
「殿下は、華々しい戦死をお望みだ」
獰猛な、猛獣を思わせるギラギラとした琥珀色の目に、騎士達の誰もが魅了されていた。
紅など塗る必要のない赤く色づいた唇から放たれる言葉を一つも取りこぼしたくなかった。
「師団は無謀か?旅団くらいは道連れにしたいな」
「3千の上級騎士で1万の兵を討ちますか、豪儀ですな」
「豪華絢爛な茶番は飽き飽きでな。なに、1人あたり3人だ。何とかしろ」
わっと騎士達が笑えば、北の砦は火が灯ったように明るい空気に包まれる。
雪解けと共に開かれた戦端は、日々ごうごうと人が増えて、王都よりも大きな都の中で生きているような気さえした。
「ところで団長、ベルガルドの姿が見えませんが?」
一緒に王都にいった相手が戻ってこなければ、疑問に思うのは当然のこと。
「起きなかったから、置いてきたな」
何を思ったのか、喉を震わせて大笑いする団長に、騎士達も一緒になって笑いが起こる。
「団長と共に戦場をかける機会を逃した愚か者なぞ、捨て置きましょう」
セダは、ベルガルドがアデリーヌと共に王都に向かった日からやけに辛辣な態度のままだ。
「女神のしとねに招かれて寝過ごさぬ騎士はおるまい。何せこちらに引き留める手段がない」
アデリーヌが古風な言い回しで、ベルガルドがレティシアと結ばれたことを伝えれば、今日一番の大きな歓声があがった。
「おお!ついに姫君の目にとまったか!」
「なんとまぁ、出世したものよ。北の辺境の農家よりも貧乏な男爵家の四男が」
「言ってやるな、我らも似たりよったりよ」
「良いじゃないか、出世した若者がいれば北部の希望になる」
「違いない。さぁ飲め飲め。セダよ、酒が足りないぞ!」
「酔っ払って明日、馬から落っこちても知りませんからね!」
明るく、気の良い騎士たちも、明日になれば。
明日は持っても明後日には。
皆、物言わぬ骸になる。
「セダ」
アデリーヌは、土煙に混じった誰のものともしれぬ血を吐き出して、従者を呼んだ。
「団長、ご無事、ですか」
「うん、お前はまぁ、見事に腹に穴をあけたな」
「そういう団長も、腕が一本足りてませんよ」
痛みはすでに薄れ、気力も萎えた。
「一人当たり、5人くらいは持っていけたか?」
「旅団が壊滅したと伝令が飛んでいきましたからね、お見事ですよ、団長」
「セダ」
ゆっくりとアデリーヌは自らの従者を抱きしめ、その額に口づけを贈る。
「こういうときは、唇にしてくださるものじゃないですか?」
「おや、いつの間にか私の可愛いセダが強突く張りになっている」
「そうは言いますけどね、団長。僕、正直もうそろそろ死にそうです」
「はは、まだ元気があるな。私は、私の名も呼ばぬ者に口づけたりはしない」
「・・・アデリーヌ」
ぐいっと抱き寄せられ、口づけを交わす。
どこからともなく魔法が飛んできては、足下の土が削れていく。
土煙のなかに馬影が浮かんだのなら、その時が二人の死に時だ。
情緒などない、砂でじゃりじゃりする口づけは、しかしアデリーヌの心を温めるのには十分だった。
「私は、私を好きにならないベルガルドが好きだった」
「団長、死に際まであいつの話、聞かなきゃいけません?」
「うん、まぁ、お前のことも好きだよ」
「適当すぎますよちょっと!」
笑って、それが傷にしみて、その痛みさえおかしくて。
二人で肩をよせあって笑う、戦場なのにと思えば思うほど笑いがこみ上げた。




