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戦姫アデリーヌの物語  作者: 矢野葉


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12

王城は馬車が列を成す通りにまで色とりどりのランプが並び、大層美しかった。


正門で止まった馬車からゆったりと長い足を降ろすベルガルドが差し出す手に、レースの手袋に覆われた手をのせ、馬車を降りる。


深い紺のベルベット生地のドレスは、北壁騎士団の制服の色ながら、アデリーヌのためにある色のように彼女を引き立たせる。


豊かな深紅の髪はこの数週間で見違えるほど輝き、琥珀色の瞳は髪の色を反射して炎が揺らめくようにも見える。ふっくらと柔らかい唇は珊瑚色に塗られ、耳元と首元を飾るのは銀細工と真珠。


ベルガルドの衣装の差し色にも同じく銀色を合わせて、そろいの衣装のように見せていた。


けれど、アデリーヌは差し出された手の袖に飾られたボタンに、ベルガルドが灰紫色の貝を選んだことを知っている。

もっと慎重に、決して気取られないように注意しなければいけないというのに。仕方のない男だ、とアデリーヌは微笑みを深くした。


「・・・アデリーヌ嬢、似合っている」


「ああ、お前にドレスを褒める名誉を与えていたな」


そういう自分も、決まりきった台詞であってもドレス姿を褒められて舞い上がっている。


笑うアデリーヌに、ベルガルドも同じく笑い返す。


茶会や慰問を繰り返してすっかり息のあったエスコートで進む、大夜会。


今夜、多くの人が人生を狂わせるのだとアデリーヌは息をつめた。


「北壁騎士団長アデリーヌ・ペイシェル伯爵令嬢、並びにお連れのベルガルド北壁騎士団副団長」


夜会の半ばごろの入場となり、あと30分ほどでダンスが始まるだろう。


「ベルガルド、お前は果報者だ。これから貴重な体験をするぞ」


「え、何ですか?」


「令嬢たちのおしゃべりがいかに豊富で情報に溢れているかよくわかる。令嬢や夫人たちが夜会で何をしているか理解しておけ。だが何を聞いても決して口を挟むなよ、夜会で標的にされてはさすがに庇い切れん」


アデリーヌはわらわらと寄ってきた可愛らしい令嬢たちの相手をしながら、ベルガルドを単なる部下の騎士として扱い、半ば放置する姿を見せていく。


「久しぶりだね、元気だったかい?」


するりと優しく令嬢の頬を撫で、時に腰を引き寄せ、耳にささやきかける。夫人の手の甲を自分の唇ぎりぎりのところにあてさせ、流し目をくれてやる。


「アデリーヌ様のいない夜会なんて・・・!」


「アデリーヌ様、戦地に行かれるの?」


「聖王国の聖騎士はうちで少し足を止められると思うわ」


「相変わらず見事な銀細工ですこと、魔銀を魔法士に練らせるって本当?」


みな、アデリーヌが北壁騎士団を率いて戦場に行くという噂を耳にしている。

そしてそれが王位継承争いに巻き込まれた結果だということも。


「民草だけでなく貴族まで巻き込むなんて、大丈夫なのかしら」


「でもほら、第一王子殿下もパッとしないし・・・」


女が数人でも集まればたちまちに男の打ち立てた権威などズタボロにされる。アデリーヌはそれが可笑しくて、可愛い女たちが望むまま、彼女たちを愛でる。


「ひっくり返す相手が聖女様お一人になっただけ、マシなのではなくて?」


「それはそうよねぇ」


そう、戦端を開く手はずを整えてしまったアンディ第二王子が優勢に見えて、フィリップ第一王子もまた高貴な血筋を語る聖女という弱みを握った。

聖騎士の介入を、売国と捉えるか、未来の王妃からの援軍と捉えるかは、戦争をどう終わらせるかにかかっている。


第二王子は自分が好きに駒を動かしていると思っているだろうが、盤を広げるだけ広げて、王位継承を競うだけでは済まない戦いにしてしまっていた。


やがて、会場の音楽が徐々に一つになり、大きなうねりをつくりながら王と王妃のファーストダンスが始まる。


「行くぞ、次のターンからうまく入らねばならん」


「わかった」


大きなベルガルドの手にぎゅっと包まれて、心臓が跳ねた。


第一王子殿下も、第二王子殿下もまだ会場にはいない。だからベルガルドが探すレティシア様も会場にはまだいない。


ベルガルドの手がアデリーヌの腰にまわり、ゆったりとしたリズムでリードされる。

ふわりとドレスにまとわせた真珠のチェーンが踊る。


なんて美しい夢だ、とアデリーヌは涙ぐみそうになって、幾度か瞬きをして涙をこらえる。


「ベルガルド」


名を呼べば、目線をこちらに向ける男を、愛していると思った。



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