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なんとなく危ない気配




 ナーラック・ライゼンさんから意味不明のお誘いをいただいて、困惑していたら怒らせてしまったようです。


 ますます困りました。


 ただ、怒りのあまり声が大きくなったのを『黒十字血盟団』のメンバーが聞きつけたようで、すぐにマレックがやってきました。


「うちのメンバーになにか?」


 口調は丁寧ですけど、こっちも怒ってるみたい。命のやりとりになるような修羅場をいくつもくぐり抜けている冒険者と、大商店のボンボンでは勝負になりません。ナーラック・ライゼンさんは意味不明なことを口の中でゴニョゴニョ言って、その場から逃げていきました。


「申し訳ありません、なぜか依頼人を怒らせてしまいまして」


「いや、いい。ルイーズは悪くない。女がからむとこういうこともあるから俺ももっと気をつけるべきだった。嫌な思いをしただろう? すまなかった」


「いえいえ、こういうときは……どう言えばいいのでしょうか? 上手にかわす? いなす?」


「そういうのは、うちの女性メンバーが得意だ。いくつか教えてもらっておくと役に立つかもな。美人であることはルイーズの責任ではないが、どうしても見てくれがいいと、おかしな男が寄ってくるから」


「なにか教えてもらいます」


 死なない程度に電撃を浴びせるとか、死なない程度に燃やすとか、死なない程度に……というような『死なない程度シリーズ』で男性を追い払うのは得意ですが、口先で追い払うテクニックがあるのなら知っておいて損はないでしょうね。


 いまみたいに冒険者をやるときには、今回みたいに依頼人をどうにかしなければならないこともあるでしょうし。



 翌朝、出発というときにマレックが配置を変えると言い渡しました。昨夜のことで配慮したのか、女性メンバーを真ん中に集めのです。


 私は指定された3番目の馬車に乗りました。御者はオーロという中年のおじさん。やさしそうな雰囲気です。


「よろしくお願いします」


「こっちこそ頼むよ。昨日は見事な魔法で、1人も死人が出なかった。ありがたいことだ。正直、駄目かと思ったよ」


「わたくし、これでも少し腕に覚えがあります」


「ああ、頼りにしているよ」


「ところでライゼン商会はマグリティア帝国にも支店をかまえてらっしゃるのですね。事前調査するとか、これから進出するとか、そんな話は耳にしたことがございますが。わたしく、ストランブール王国のほうは知っておりますわ」


「商会長には息子が3人いて、長男がナーラック様になるんだな。ずっと父親の下で商売を学んでいたのが、今回のことで独立を許されることになるから、そういう意味でも護衛は期待しているよ」


「今回のこと?」


「店を切りまわすのは大丈夫。次は仕入れだ。いろいろまわって悪くないものを仕入れることができたから、あとは商会長に見てもらって、問題がなければ帝都の店は晴れてナーラック様のものになる」


「品物の目利きを実地でやれるかテストするようなものでしょうか?」「そうそう。これだけ商会が大きくなったら仕入れ専門の担当者を雇うほうがいいし、実際そういう商会員もいるんだ。しかし、専門の担当者がいるからといって、責任者がまったく目が利かなくていいわけがない」


「もちろん、そうでしょうとも。目が利かないのでは担当者が不正をしても見抜けないですし、客と品物でもめたときに充分な説明もできませんし」


「特にライゼン商会の場合、一代で成り上がったところがある。それも10年くらいで一気に大きくなったのだが、もともとは商会長が1人で地方をまわって希少な素材の仕入れルートを作ったおかげだ。だから、自分の息子にも地方まわりをさせて、少しは仕入れの苦労を知ってもらいたいんじゃないのかな?」


「オーガに襲われたのですから、少しは仕入れの苦労を知ることができたのでは?」


「あれは肝が冷えた。いま帝都に商会長もきているはずだから、到着次第、仕入れた品物を確認してもらって、お許しをもらうんだよ。そのときにでもオーガに襲われた話をしたら、いくらか褒賞金を包んでくれるかもしれないな」


「商会長も帝都に? そういうことなら金一封くらいはいただけますかしら」


「くれると決まったものじゃないから、あんまり期待してもしょうがないが」


 そんな世間話を楽しんでいたら、またしても青いとんがり帽子に邪魔されました。


「さあ、今日はルイーズ・カサランテ・ラクフォード・エラ・ストレリツィ様の好きなところをお互いに言い合うのよ。もちろん、たくさん言えたほうが勝ち。いいわね?」


 そんな勝負を持ちかけてきたのですが……いえ、もう私の負けでいいですよ、本当に。


 神経をガリガリ削られながら馬車の旅は続きます。出発して2時間ばかり、追い打ちをかけるように探知魔法に反応がありました。


 御者台から立ち上がり、後方にいるマレックに手を振ります。


 するとマレックは笛を力強く吹きました。


 それを合図に商隊がストップ。


「どうした?」


「この先2キロ。数はおおよそ100。たぶん人間だと思います」


 マレックが馬車から降りて私のところにやってきて問いかけるので、それに答えます。


「人間か……他の商隊か、帝国の巡回か、そんなところかもしれないな」


「反応的に人間だと思いますが、サイズ的に人間に近いゴブリンやコボルトの類いかもしれません」


「どっちにしても、ちょっと偵察を出したほうが無難か」


「わたくし、見てまいりましょうか?」


「何人かつける」


 こんな街道の途中に100もの数の人が集まっている理由がわかりません。旅の仲間にしてはいくらなんでも多すぎますし、盗賊団にしたところで数人から数十人規模でしょうね。


 あまりに人数が多いと国や領主から警戒されて、討伐隊を送り込まれてしまいます。


 人間サイズの魔獣だとしても、やはり100頭もの群れがあったら討伐対象になりますよ。よほど地方の山の中とかならともかく、帝都の近くの街道なのだし。


 これは偵察をしたほうがいいのではないかと相談をしているところにナーラックさんがやってきました。昨夜のこと、まだ不快に思っているのでしょうか? ドシドシと地面を蹴飛ばすかのように歩いてきます。


「なにをやっている?」


 事情を説明しましたが、鼻で笑われてしまいました。







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