楽しいだけじゃないのが冒険者
部屋に戻るとリレンザに空色装備をいじられまくりました。あんなに文句を言っていたのに、どうやら気になっていたみたい。
「これ、塗ってるんじゃなくて、染めてるのよね? どうやったら、こんなに綺麗に空色になるの?」
「空色の染めかたは知りませんが、水色ならトパーネアという花からとれる色素で作った染料がおすすめです」
「聞いたことないな」
リレンザは同室の女性たちに視線を向けますが、みんな首を横に振ります。
「ルイーズはストランブール王国からきたと言っていたけど、そっちではたくさん採れるの?」
「どうでしょう? わたくしの自宅の裏山には採取場所がありますが、普通はなかなか出まわらない素材と聞きます」
「自宅の裏山にあるのか……いいなぁ」
「すごい田舎ですから登るのも大変な山ですわ」
「裏山でいい染料になる花が採れるのもだけど、家があるのよね? あたしたち、みんな家がないから」
「家がない?」
「あたしたちは帝都のスラム街やら孤児院やら、そんなところから寄せ集まってできたパーティーだからね。まともな商家の丁稚や、職人の弟子にしてもらえないから冒険者になっただけで。黒十字というパーティー名だって、スラムの薄汚れた十字路が昔みんなの遊び場だったから」
「そんな由来が」
「泥棒や詐欺師になるのは嫌だし、傭兵やるほどの腕もないし、ね。もっと美人だったら娼婦になったほうが稼げるかな? でも、変な病気になったら、すぐ死んじゃうし」
「………………」
「みんなで稼いだお金のうち、一部を積み立てて、そのうち帝都に家を買おうって、みんなで約束してるんだ」
「そうすると、冒険者になってからパーティーを組むために集まったのではなく、もともと子供のころからの友達なのですか? スラム街の十字路を遊び場にしていた」
「そうそう。リーダーのマレックと、サブリーダーのオセトは赤ちゃんのとき、同じ日に孤児院に捨てられてて、それ以来の付き合い。遊び仲間だったり、先輩後輩だったり、いろいろだけど。みんな家族がいないからパーティーの仲間が家族ということにしようと血盟団なんて名前にしたんだよ……まあ、すでに死んじゃった人もいるけど」
「今日も死にそうになったしね」
レアナという背の高い女性が口を挟みました。確か槍使いだったはず。
若手中心のパーティーだと思ったら、みなさん、幼馴染みという奴ですね。それで、がんばって全員が住める家を買おうとか、なんかいい話ですね。
寝る前に部屋の水差しをいっぱいにしておこうと水をもらいにいった帰りにナーラック・ライゼンさんに呼び止められました。
どうやら1杯――どころではないですね。5杯か、10杯か、いっぱい呑んでいる様子。顔が真っ赤なのはいいとしても、息が臭いです。できれば顔を近寄せないでもらいたいのですが……依頼主ですから少し気を遣います。
「いいところで会った。ちょっと俺の部屋にこいよ」
「なにか御用でも?」
「小遣いをやろう。囲ってやってもいいか?」
「よくないですわ」
「おまえ、俺がライゼン商会の者かと訊いてきたじゃねぇか。どれほどの商会か知ってるんだろ?」
「はい、よく知ってますわ」
「それだったら、いまよりずっといい生活が送れるってこともわかるだろ?」
「いえ、さっぱり」
侯爵家よりずっといい生活って、どんな生活なんでしょうね? まあ、アルフレッド様を攻略したときのことを参考に、ちゃんと第一王子を攻略できれば、さらに上の生活となるかもしれませんが……ライゼン商会がさらに上という感覚がよくわかりません。
そんな私の戸惑ったような顔が気に入らなかったのか、ナーラック・ライゼンさんはイライラように言いました。
「うちの商会を知っているんだよな?」
「あまり取引実績のない魔獣の希少な素材を扱っている商会ですよね?」
「そうだ。希少素材の取り扱いにかけてはストランブール王国で一番。つまりは、この大陸一だ。こうやってマグリティア帝国にも支店をかまえているし、他の国にもどんどん出ていっている」
「そのあたりも耳にしたことはありますわ」
「で、そのライゼン商会の跡取りが俺だ」
「それも伺いましたわ」
「だから、そんな俺が囲ってやると言ってるんだ。Eランクの冒険者からしたら夢のような生活だろう?」
「今後も希少素材の取り扱いができるのなら、まあ、Eランク冒険者の平均よりは少しましな生活かもしれません」
「今後も希少素材の取り扱いができるのならって、できるに決まっているだろう!」
なにが理由かさっぱりわかりませんが、すっかりナーラック・ライゼンさんを怒らせてしまったようです。いまは護衛として雇われている立場ですから、ちょっと困りました。




