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盗賊に降伏



 前方で人間らしき反応があります。数はおおよそ100。人間にしても、魔獣にしても、そんな数が集まる理由がわかりません。


 安全を期すためにも偵察を出すべきではないかと相談しているところにナーラックさんがやってきてクレームをつけました。


「なんでもないことに大騒ぎして。帝都の近くだぞ、魔獣のはぐれならともかく、100もの群れがいるはずがない。だいたい、いくら探知魔法といっても2キロも先のことなんかわかるわけないだろう」


「彼女がわかるというのなら、わかるのでしょう。それに魔獣より人間の可能性のほうが高いとも。盗賊みたいな連中かもしれない」


「だから、帝都から半日ちょっとの場所なんだ。魔獣だけでなく、盗賊だって出るわけがない」


「ここのところ不作で、食えなくなって難民のようになった連中も多いと聞きます。ヤケになって暴力に訴える奴だって出てきておかしくないですよ」


 護衛のリーダーとしてマレックがなだめますが、ナーラックさんは強硬でした。


「もし本当に魔獣の群れが出たなら、荷物を全部捨てて、馬車を全力で走らせればいいんじゃないか?」


「本当にそれでいいんですか? ちょっと偵察にいけば安全を確保できるんですよ?」


「だから、大丈夫だと言っている」


「盗賊かもしれない」


「それこそ積み荷を放り出したらいい」


「かなわないと判断したら降伏していいんですね? 戦力はわかりませんが、正面からぶつかれば人数的に、まず勝てませんから、積み荷を奪われることになりますが」


「かまわん、かまわん」


 意地になってナーラックさんは商隊を出発させてしまいます。


 そして、そこにいたのは盗賊の一行様でした!


 100人ほどの盗賊団に正面から突っ込んだ商隊はすぐに包囲され、身動きとれなくなりました。数は脅威ですが、武器や防具はたいしたことなく、ほとんどゴブリンとかわりありません。中には武装してない人とか、女性や子供までいました。


 あるいは盗賊であるのと同時に難民なのかも。弱そうな相手がいたら盗賊となり、街の近くとか、軍や騎士団などがいたら難民に早変わり。治安がよくない土地もあれば、魔獣に襲われることもありますから、少しくらいの武装していても難民だと主張すれば通ってしまうでしょうね。


 で、いまの私たちは弱い相手ですから難民ではなく盗賊として積み荷を奪うつもりのようです。


 護衛である『黒十字血盟団』のメンバーは10人ほどですから、敵は10倍。非武装の人や、女性や子供を差し引いたとしても戦力差は5倍くらいありそう。


 方向も、距離も、人数も、最初からわかっていたのですから、対策を立てて、作戦を練ればなんとでもなりますが、頭から突っ込んでは人数がそのまま戦力差になってしまいますから。


 それに、ナーラックさんから降伏してもいいと言われているのですから、戦意に欠けるといいますか、最初から「降伏でいいんじゃね?」という雰囲気なのでした。


「降伏する! 積み荷はくれてやるから、危害をくわえないでもらいたい!」


 マレックが両手を挙げて、大声を出しました。


 すると隣でナーラックさんが顔を真っ赤にして怒鳴ります。


「ちょっと待て、護衛だろうが! こんな連中、追い払え!」


「盗賊だったら積み荷を放り出していい、と降伏を認めるという話でしたよ。こっちは依頼人の指示通りに動いているんだから、一切のクレームは受け付けない」


「冒険者ギルトに苦情を申し立てる」


「どうぞ。こちらは偵察を出すなど無事に切り抜けるための提案をしたが認められず、盗賊であれば降伏すればいいから進めという指示だった。それが本当に盗賊が出たら俺たちのほうが悪いと言われても、な」


 マレックが冷静に反論しました。


 あのやりとりは私たちだけでなく、商隊の人たちにも聞こえていたようですから、どちらに責任があるか明白です。もちろん、商隊の人たちがナーラックさんをかばったり、口裏を合わせる可能性はありますが、帝都には商会長がいると聞きました。


 いくらなんでも商会長にも嘘をつくとは思えませんし、本当のことを聞けば商会長も正しい判断をせざるえません。一回の仕入れのことで冒険者ギルドとの関係をこじらせてしまえば――特に国をまたいで手広くやっている商会ともなれば、冒険者ギルドと上手くやっていかないと業務に障りますから。


「話はまとまったか? 降伏でいいんだな? 荷馬車を置いて、さっさといけ!」


 盗賊団のリーダーらしい男が近寄ってきます。集団の中ではまともな防具を身につけ、剣を持っているのですが――薄汚い身なりです。顔なんて垢で真っ黒ですよ。何日お風呂に入らないとこんなことになるのでしょうか?


「ああ、降伏する」


 こんな汚い男に戦いもせず、自分のほうから負けを認めるなんて、実に、実に、実に、屈辱的なことですけど、マレックがそのように決めたのなら私も従うしかありません。リーダーの決断に『黒十字血盟団』のメンバーは武器を抜くことはせず、さっさと両手をあげたので、しかたなく私もマネしました。


 そのままゆっくりと荷馬車から離れようとしたとき、いきなりナーラックさんが叫びました。


「全部はないだろう! 半分でどうだ?」


 おっと、ここにきて値引き交渉ですか。ろくでもない奴だと思っていましたし、実際ろくでもない奴でしょうが、商人としては悪くないかもしれませんね。相手が盗賊で、凶器をつきつけられた状況であっても、ちゃんと値引き交渉するとは立派な商人です。
















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