やっと国境の街に到着
異世界キャンピングカーみたいな馬車で森のキャンプを楽しもうとしたら、夜中に何度もゴブリンが寄ってきて、あまり快適とはいえませんでした。
ちょっと寝不足気味のまま朝を迎えます。
またしても不味い携帯食料で朝食ですよ。どこかにレストランでもあれば寄っていくところですが……街に着くまでは無理でしょうね、たぶん。
川沿いに魔獣退治をしながら街を目指しました。やっぱりゴブリンしか出ないので、いまのところ私の無双状態ですけど。昨日のような群れでもなく、数頭程度ですからあくびが出そう。
2時間後には橋を見つけることができ、そこが街道でもありました。
街道が見つかってからは早かったです。ちゃんと整備されてますし、まったく魔獣は出ませんし、すぐに街が見えてきましたよ。
門は2つあって、1つは荷馬車や行商人が並んでいて……でも多くは着の身着のままの、ろくに荷物も持たない貧しい身なりの人たち。
旅人なのでしょうが、難民とか流民という雰囲気です。
この街、リゾート地として有名なんですけどね。庶民でも金持ちしか来ないはずなのに、どうなってるのでしょうか?
もう1つの門は誰も並んでないし、大きく立派ですので、迷わずそっちに馬車を寄せました。
「止まれ、何者だ?」
衛兵が警戒しています――それはしますよね、窓のない馬車なんて、あからさまに怪しい。
しかも御者が女の子ときたら、どう見ても不審人物ですよね。馬車の後ろには何頭も馬をつなぎ、ついでにオトエサもつないであるのですから、どう見てもまともではありません。
「途中で盗賊に襲われて、護衛の騎士も、御者も、侍女も失いました。レアット子爵様に問い合わせ願います。わたくしの父よりの手紙も預かっておりますので、お取次ぎください」
この街、ヌーベルトは王国と帝国の国境に位置していて、所属としてはマグリティア帝国となります。領主のレアット子爵は和平派。
当然ですよね、国境の街は戦争になれば最前線。一番大きく損害を被る場所で、勝っても領内が荒れるのは避けられませんし、負けた場合は敵に占領され、その後の和平交渉の行方次第では割譲されてしまう可能性すらあるのですから。
今回に限らず、王国と帝国の関係が怪しくなると、全力で戦争回避に動きます。
だから、わざわざ和平工作みたいなことは不要で、私はただお父様の手紙を渡すだけ。それだけなら使用人を送ってもいいのですが
、政治的には侯爵令嬢であり王子の婚約者でもある私が届けにきたというところが重要らしい。
担当の衛兵だけでは判断できず、隊長が呼ばれ、名前と用件を繰り返すと、宿泊先について尋ねられました。
「アパラセア・ホテル&リゾーツ」
ちゃんと予約をとってあるのか知りませんけど、何度かお父様についてヌーベルトで泊まったときはここでしたから、たぶん今回も同じはず。
そして、公爵家の紋章入りの指輪をチラッと見せました。
頭の中で「この紋章が目に入らぬか! 頭が高い、控えい!」と叫び声が響き渡ってますよ、もちろん。
隊長は指輪を見てハッとなり、1歩、2歩あとずさりました。
「街に入れていただけるかしら?」
「もちろん、どうぞ」
「馬と一緒につないだ男ですが、わたくしたちを襲った盗賊の1人。全部で12人いたのですが、あとは逃げられました」
「こちらで引き取っても?」
「もちろん。背後関係がなにかわかったら教えていただけますかしら?」
頼みごとをするのだからチップくらい握らせたほうがいいかな、と思って、そもそも財布を持ってないことに気づきました。
この世界に生まれてからお金を使ったことありません。必要なものは出入りの商人が持ってくるか、使用人の誰かに言いつけるだけですから。
しかたないので私は隊長さんに尋ねました。
「あと、それから冒険者ギルドの場所を教えてくださる?」
変な顔をされました。
「ごきげんよう。もう二度と会うことはないでしょうし、どんな刑をかせられたとしても、それは不快なもので機嫌よくとはいかないかもしれませんが」
「それはどうかな?」
こちらは思わせぶりな顔をしていました。
明日、他視点の閑話が入り、それから国境の街編となります