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迷子探しと。(3)

「…アガルスか。」



声の主はアガルス。私が先程まで探していた相手だった。



「アガルスか。…ではありません!

先程、貴方様の気配が濃くなりましたのでそれを辿り来てみれば…」



近寄ってきたアガルスはそこでやっと青年の存在に気づいたらしい。

鋭かった目つきは一瞬見開かれ、そしてまた険しいものへと変わった。



「…この国の男は、未婚の女性の手を握るのか。野蛮極まりないな。」



その声色は、怒気を含み相手を威圧しているのがわかった。


青年はそこで我にかえったのだろう。



「…っ、す、すみませんでした!」



慌てて手を離し、頭を下げてきた。


手を離されたことに安堵した私の前に、アガルスが立つ。



「なぜこんなところで貴様のようなわっぱがこの方と一緒にいるのかはわからんが…

よもや、この方に手を出そうなど不埒なことを考えていたのではあるまいな…?」



こちらからは表情が見えない。

だがその声が嫌悪と侮蔑を含んだものだと言うのはわかる。



「…アガルス。よい。その者は私のことを心配してくれていただけだ。」



「心配…一体何が…?!」



そこで気づいたのだろう。

私が血を流しているということに。

アガルスは一気に顔を青ざめた。



「な、なぜ血が…っ

わ、私がついておりながら、よもや貴女様の体に傷をつけてしまうとは…ッ

は、腹を切らねば…」



「馬鹿者。そんなこと、私は望んでおらん。

それにこれは私自らがつけたもの。童如きに傷つけられる私ではない。

…その青年は血を流していた私を気にかけてくれたのだ。

ちょうどよい。アガルス。

彼を大通りまで案内してやってくれ。

どうやら道に迷ってしまったらしい。」



アガルスは盛大に顔を歪めた。

そんなに人間と関わるのが嫌か。これは意識改革が必要なようだな…。



「あ、あの…」



見かねたのか青年が声をかけてきた。



「…くっ、貴様らと関わるのは本当に、嫌なのだが…

我が主人の命ならば仕方があるまい。

本当に、本当に嫌なのだがな…っ

ついてこい、童よ。

この私が貴様を案内してやる。ただし、許可するまで口を開くな。貴様と会話なんぞしたくもない。

主人よ、しばしお待ちください。いいですか、くれぐれも先に帰らないでくださいね?」


そう言って私に念を押したアガルスは

ギロリと青年を睨み付けると、私に一礼し踵を返した。

どうやら案内してくれるようだ。よかった。

…しかしそんなに嫌がるとは、彼は魔族の中でも指折りの人嫌いだったのだな。



「…あ、君えっと、ケガ、早く治るといいですね。あとさっきは手を握ってしまい、すみませんでした!では!」



青年は勢いよく頭を下げるとアガルスの後についていった。


「…はぁ。」


そこでようやく私も一息つく。

青年が去ってから、あの不快な感情は鳴りを潜めた。

それにしても、アガルスが来てくれてよかった。

そうでなければ、どうなっていたかかわからない。

人であった前世の私は青年との会話を楽しみたいとするのに反し

魔族であるドラゴニカはあの青年をどう痛めつけてやろうかと考えていた。

2つの反する意識。それを保つのに必死で、とにかく彼から離れなければとしか考えられなかった。



「…あの青年とは、できればもう会いたくないな…」



ポツリ、闇の中でつぶやく。

なんだか今日はとても疲れた。

アガルスもそろそろ戻ってくるだろう。

そしたらお灸を据え、宿に帰ろう。流石に休まなければ、明日に支障をきたすからな。


そんなことを思いながら、アガルスが戻るのを待っていた。

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