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ニート狐たちのフォックストロット  作者: ポテンティア=T.C
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2.1-03 あうとどあ?03

魚を捌く際の描写があるから、念のためグロ注と言っておこう。

……で、試しに、25cmくらいのアマゴを1匹、テレサに捌かせた時の反応が、コレだ。


「……ふっふっふ」


……壊れた。

完全に壊れたな。

まだ捌いてないのに、包丁を持って震えてるとか……ん?

そう言えば、前に似たような状況になっていた奴が、他にも近くにいたような気がするが……気のせいか。


と、私がそんなことを考えていると……


「……狩人殿。テレサの様子がおかしいようじゃが……大丈夫じゃろうか?」


3本目のビール缶の中身を開けたアメに話しかけられた。

テレサも普段から包丁を持って料理してるとは思うんだが……魚を捌くのは初めてみたいだから、彼女の料理風景を見慣れてるアメでも、流石に不安になったみたいだ。

だけどな……


「多分、駄目だと思うな……」


……残念だが、私にはそうとしか言いようが無い。

逆に、大丈夫なんて言ったら……多分、嘘という言葉だけじゃ済まない事になりそうだしな……。


だから私は、危なっかしいテレサから包丁を取り上げようと思ったんだが……その前にアメが動いた。


「まったく……困った童じゃ」


テレサの後ろに立って、彼女の両手を取って……。

アメのやつ、手取り足取り、ってやつをやるつもりだろうな。


「ほれ、テレサ。ワシがやるように、手を動かすが良い」


「む?何じゃお主?妾に、魚を殺害しろと申すのか?」


「戯け!もう死んでおるわ!」


そう言うとアメは……テレサに有無を言わさず、包丁の先端を魚の身体表面ギリギリまで寝かせて、魚の首元から腹を通過して肛門に至るまで、包丁を滑らせた。

あの包丁の切れ味……多分、シラヌイかワルツ製の一品だろう。


「?!」ガクガク


「いや、もう死んでおるからの?力を抜くのじゃ」


大きな眼を開けて小刻みに震えるテレサのことを無理やり押さえながら、彼女の手を動かしていくアメ。

……念のため言っておくが、捌いてる対象はテレサじゃなくて魚だからな?


魚の開いた腹の隙間から包丁を入れて腸を切断して、そのついでにエラを取り、ワタ(背骨近くの血の塊のような部分)をスプーンですくって……頭は残したままだが、それで一丁上がりだ。

頭にしろ、尻尾にしろ、焼いた後で食べたくなかったら残せばいいだけの話だからな。

……私は食べるぞ?


「お見事!」


「いや、それほどでもないじゃろう。最近はまったく捌いておらんかったから、腕が鈍っておるようじゃ。全盛期の頃なら、包丁など使わずに、触っただけでバラバラに出来ておったのじゃが……これが老いというやつかのう……」


アメはそう言いながら、顔の前で手を開いたり閉じたりと繰り返した。

触れただけでバラバラか……私もちょっと試してみようか?

……あ、そうだった。

魔法を使っちゃいけないし、捌いてない魚も無いから……今回は無理か。


「……いや、そんなことはないと思う。人に教えられる程には充分に慣れていたと思うぞ?というか、職人じゃないんだから、あれ以上に慣れてたら逆に引くけどな。なぁ、テレサ?」


「……こうして餌たちと魚たちは、妾の血となって肉となって……この世界へと還っていくのじゃろうのう……。……もう駄目かも知れぬ……」


と、何処か遠くの空へ、そこのまな板に載ってる魚みたいな視線を向けるテレサ。

テレサって……変なところ、ピュアだよな……。

あと、これも一応言っておくが……釣りのエサは食べないからな?




それから、夕ご飯に向けた準備を進めていったんだが……正直、大変だった。

何が大変って……料理が作れない……いや、作っちゃいけないメンバーがいる、って言えば、分かってもらえるだろうか?

誰が料理を手伝って良くて、誰が手伝っちゃいけないのか……。

それが分からなくて、結局、私一人で作ることになったよ……。

……料理が作れることが分かってるテレサは、死んだ魚みたいなってるし……。

まぁ、私が一人で料理を作るのはいつものことで、別に慣れてるからいいんだけどな?


とはいっても、料理が作れないメンバーが、絶対に作れないか、というと、そういうわけでもないんだ。

私が下ごしらえをしたものを、工夫とか、味付けとか、余計なことはしないで、ただ焼いて食べる場合。

これなら、何も問題は無いみたいだ。


実際、ルシアも自分で焼いて……


「はむっ。もぐもぐ…………ん?狩人さん、もしかして、何か変なこと考えました?」


「い、いや。なんでもない」


……おいしく、お肉を食べられてるみたいだからな。

肉食女子としては嬉しい限りだ。


そんなわけで、辺りはすっかり日も暮れて、ホワイトガソリン式のランタンが煌々と輝く、まさに野営……キャンプって雰囲気だ。

空には私たちのいた世界よりも随分と小さな月が淡く輝き、森の虫たちがうるさくない程度のアンサンブルを奏でる……。

それに物足りなさを感じないか、って問われれば否定は出来ないけど、夜の木々の間を流れていく風や小川のせせらぎをBGMのように感じることを考えるなら、これ位がちょうどいいのかもしれない。

それに…………まぁ、この話は後ほどにしておこう。


ところで……せっかくユリア家(?)の面々も来てるんだから、彼女たちの話も取り上げていこうと思う。

丁度、テラさんが、釣ってきたイワナに齧りついていたから、感想を聞いてみよう。


「どうだ?テラさん。魚の味の感想は?」


「…………!」コクコク


……なんだろう。

昼間はあれだけ騒いでいたのに、急に何処かの誰かと同じような反応に変わった気がする……。


……まぁ、美味しそうにかじりついてるから、美味しんだろう。

美味しくなきゃ、あんな嬉しそうな表情は浮かべないだろうからな。


ただ……


「うぅ……」


……どうやら、彼女の隣には、魚嫌いがいたようだ。


「……イブ。お前、魚嫌いだったか?」


「うぅ……なんというか……初めて食べるお魚だから、ちょっと苦手かも……」


「あー……確かに、向こうの世界にいた魚と違って、触手とか生えてないからな」


こう、頭や腹から生えてる、細長いウネウネとしたやつ……な。


……え?そっちのほうが気持ち悪い?

……細かいことは気にしないでほしい。


「……ちょっと狩人さんが何言ってるか、イブには分からないかも……。そうじゃなくて、こんな小魚を食べたことが無かったかもだからさ。確かに、いつも食べてる魚には触手が生えてたかもしれないけど、向こうの世界の魚って、小さいって言っても、イブよりもずっと大きかったかもじゃん?だから、今日みたいに、お魚の形をした焼き魚をまるごと食べるのって……初めてなんだよね」


これは……あれか。

切り身が海や川の中を泳いでるって思ってるやつ……。


「……狩人さん、今、失礼なこと考えたかもでしょ?」


「いや、そんなことはないぞ?確かに、向こうの魚は大きすぎて、市場で並んでる奴は基本的に皆、切り身だったからな……」


「何か、しっくりこないけど……つまりそういうことかも?でも……」


そしてイブは、嫌がっていた川魚に眼をやると……再び齧りついて言った。


「いっかひなへはは、おいひいかほ?(一回慣れたら、美味しいかも?)」


「そうか。ゆっくり食べろよ?」ワシワシ


「もがっ!」


なんだろう……。

頭に触れた瞬間、イブが全身の毛を逆撫でて、すごく嫌そうな表情を浮かべたのは……。

頭を撫でられることにトラウマでもあるんだろうか…………まぁいいか。


それで、次は……ユリアたちだ。

彼女たちは諜報員3人で固まって、何か話してるみたいだな。

3人とも、ネギマの串を()()()、プルプルと震えてるみたいだから……そっとしておいてやるか……。


……いやな?

経験上、こういう時は、ろくでもないことに巻き込まれるって分かってるというか……所謂、第7感ってやつが、彼女たちに話しかけるなって警告を発してるんだ。

……ちなみに6感目は魔力な?


多分また、リサ辺りが、ワルツのことを思い出して、発作でも起こしてるんだろう。

3人揃って震えてるのは、どうしてか知らないけどな?


さて、そうなると……未だ会話を紹介していないユリア家(?)のメンバーは、雪女の2人だ。

……っと、その前にここいらで一旦話を区切るとしよう。

というわけで、アウトドアの話の続きだ。

……釣ってきた魚は、釣った者が責任を持って捌いて調理して……そして残さずに食べる。

そこまでが釣りだ。

山で生きる狩人たちの、次元を超えた世界共通のルールってやつだな。


このアウトドアの話は、書けた量にもよるが、あと1〜2話書こうと思ってる。

その後も、殆ど同じ場所で話が続くと思うんだが……そっちは私の担当では無さそうだ。

何の話を誰が書くのかは……もうヒントが出てるし、あと数話後には分かることだから、ここで言わなくてもいいだろう。


そんなわけで、あと少しだけ、私、狩人の話に付き合ってもらえれば幸いだ。

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