2.1-04 あうとどあ?04
私が次に眼を向けたのは、雪女の2人だ。
まぁ、雪女って言っても、こっちの世界とあっちの世界ではまったく違う種族みたいだけどな。
だけど、外から傍から見る限りでは……
「冷花ちゃん?何か食べたいものはありますか?」
「えっと……あつくて、からくないのが、いいです」
「熱くて辛くないもの……。それ、食べ物じゃないような……」
「…………」うるうる
「……ハッ?!じゃ、じゃぁ、冷めちゃってますけど、このお肉とか?!」
「はいです。たべるです!」ぱくっ
「……どうですか?食べれそうですか?」
「…………うん!もっとたべたいです。ユキおねえちゃん!」
「……はい。どうぞ?」にっこり
といったように、母娘……とまでは行かないが、年の離れた姉妹程度には親しくなっていたみたいだ。
だけど、まぁ……実年齢を考えたら負けなんだろうな……。
……そういえば。
雪女ちゃんの名前について、今まで語ってなかったから、ここで取り上げておこうと思う。
彼女の正しい名前は、ユキが言ってたように、『冷花』だ。
……『冷夏』じゃないぞ?
って言っても、『冷花』ちゃんは字が書けなかったから、面倒を見るって引き取ったユキが、彼女から聞いた名前に当て字をしただけなんだけどな。
だから、もしかすると、本当の名前は『冷夏』かもしれないが……それは本人も知らないし、縁起もあまり良くないから、『冷花』でいいんだろう。
そんなわけで、向こうの世界では前まで魔王をしていたユキと、アメいわく『妖かし』という存在らしい冷花の雪女組2人は、皆から少し離れた場所で食事をしていた。
それは、ユキと違い、熱いコンロが苦手な冷花のことを考えただけではなくて……冷花自身がアメのことを苦手にしていたからなんだ。
前に酷く詰問されたらしいが、その時のことがトラウマとして残ってるらしい。
「……む?お主、また、考えておることが顔に出ておるぞ?その顔は……ワシが冷花嬢のことをイジメたと思っておるんじゃろう?」
「……ぐっ!誰かに考えを悟られるほど、精神が弛んできたみたいだな……。まだまだ精進しなくては!(……酒は別だけどな?)」
「……程々にのう?」
と、言いながら、私と一緒に、今日9本目のビール缶を開けるアメ……。
お前、ちょっと飲み過ぎじゃないか?
…え?私?
私は、まだそんなに飲んでない。
……まだ8本目だ。
おっと。
余計なことを考えると、またそれが顔に出てると言われそうだから、次の人物の話に移ろう。
「…………」はむっ
……と、何も言わずに、まるで作業のように、釣ってきた魚ばかりを黙々と食べてるのが誰なのか……名前を出さなくても分かってもらえるんじゃないだろうか。
テレサたちの家主……通称主殿だ。
はむっ……はむはむはむっ……
……気のせいだろうか。
彼女、一人だけで、15匹は食べてる気がする……。
主殿は家だと、私がお裾分けした肉もちゃんと食べてるんだが……そんなに魚が好きだっただろうか。
……というわけで聞いてみよう。
「……主殿は、魚が好きなんだな」
すると……
「…………」ふるふる
と、無言のまま、首を横に振る主殿。
なら……嫌いなのか?
私がそんなことを考えていると……主殿の隣で、手付かずの焼き魚が付いた串を握ったまま、プルプルと震えながら固まっていたテレサが口を開いた。
「……狩人殿。主殿は、サケ科の魚が大好物なのじゃ。それはもう、ですくとっぷPCの背景を、サケ科の魚一覧にしてるくらいにのう?」
「…………」コクコク
「ほう?なんか熊みたいな趣味なんだな……」
すると……
「…………」しゅん
とする主殿……。
どうやら、熊みたい、という言葉で傷ついてしまったみたいだ。
……まぁ、焼き魚を食べる手と口は止めてなかったけどな。
「おっと、すまない。悪気は無かったんだ」
「…………」ふるふる
気にしてない……ってところか?
主殿は無口だが、意思疎通が出来ないわけではない、ってところが不思議だ……。
「……お主。妾はアメではないが、主が何を考えておるのか、よーく分かるのじゃ。顔に出ておるからのう?」
「っ……!」
ワルツ並に鈍感なテレサにも指摘されるとは……いよいよ、私もダメかもしれないな……。
……そう言えばだ。
「なぁ、テレサ?どうしてさっきから、その焼き魚とにらめっこしてるんだ?」
「……!」びくぅ
私が問いかけた瞬間に、この反応……。
これは間違いなく、
「……お前、魚嫌いだろ?」
ってことだろうな。
「ぐぬっ……」
図星……。
顔に出てるっていうのは、きっと、こういうことを言うと思うんだが……もしかしたら私も、皆の前で、こんな顔をしてたのかもしれない。
「い、いやの?魚自体は苦手ではないのじゃ?じゃがのう……こやつ、妾が捌いたヤツなのじゃが、口にするのが可哀想過ぎて悩ましいのじゃ……」
「……すまん、テレサ。お前が何を言っているのか分からない……」
銀色に輝くアマゴが、こんがりと焼けて、食べごろな状態だっていうのに、可哀想っていうのは……一体、どういうことだろうか?
もしも生きてて動いてるなら……まぁ、分からないでもないけどな?
私がそんなことを考えていると……私なんかよりも、ずっとテレサの事をよく知っているはずのルシアが、呆れたように口を開いた。
「つまりテレサちゃんは、焼き魚が可愛い、と思う特殊な趣味の持ち主だったんだね……。私、今日まで知らなかった……」
「いや、ちょっと待つのじゃルシア嬢。その理屈はおかしいじゃろ……」
「そっかなぁ?……じゃぁ、その魚の、どのへんが可哀想だと思ったの?」
「うーむ……そうじゃのう……。この場の空気を壊してしまうようで申し訳ないのじゃが、正直に言うと……魚を釣った瞬間、手の中でピチピチと跳ねておったこやつたちが、なんとなく可愛く思えてしまったのじゃ。ペット……とは少し違うと思うのじゃが、なんというか……とても儚いものに見えてしまっての?それを思い出すと、焼けておるとはいえ、こやつに齧りつくというのは、何となく気が引けてしまったのじゃ」
「ふーん……」
そんな納得したような声を上げたのはルシアだけだったけど、周りの連中も同じような表情を浮かべていたところを見ると、みんな、だいたい同じような事を考えているんだろう。
私だって、テレサの説明を聞いて、彼女が既に息絶えていたはずの魚を捌くときにおかしな反応をしていた理由を初めて知ったんだからな。
だけど、狩りっていうのは……まぁ、この場合は釣りか。
釣りっていうのは、前にも言ったかもしれないが、釣ってそこで終わりじゃないんだ
責任を持って調理して、そして食べるまでが釣りなんだよ。
例え心が傷んでも、自分の血となり肉となる獲物の命に感謝しながら、美味しくいただく……。
それが、釣りにしろ、狩りにしろ……そしていつもの食事にしろ、食べ物を食べるという儀式の根底にある基本的なルールだ。
店などで用意された食材や食事を買って食べるだけだと、それが見えにくくなってしまうから、つい忘れがちだけど……こうして自分で殺生を行いながら食材を確保すると、その部分が露骨に感じられるんだよな……。
まぁ、お腹が減って死にそうになってたら、そんなこと気にしてる暇はないんだけど……少なくとも今は、そういうわけではないからな。
だから、テレサの言わんとしていることは、よく分かるよ。
……と考えながら、私がウンウンと唸りながら頷いていると、同じく話を聞いていたアメが、鼻で小さくため息を吐きながら、テレサに言った。
「のう?テレサ。……昔、ワシに、こう言った奴がおる。食べ物の素材になった生き物たちに、一々、感謝しておったら、感謝し終わる前に……腐って食べれなってしまう、と、のう。いま主が持っておるような焼き魚、白いご飯、味噌汁とその中に入っておる具、箸、食器、薪に燃料……。簡単に思いつくだけでも、両手両足で数えきれないくらいの生き物たちが、ワシらが生きるために、知らぬ間に犠牲になっておるのじゃ。じゃから奴はワシに……毎回の食事に感謝なぞせんで、さっさと食べよ、と言っておった。そしてその代わりに、日々を大切に生きよ、とも、のう。……テレサがどう思うのかは、主の自由じゃが、せめて焼き魚が冷えぬ内に……ワシらのために犠牲になった獲物が、ワシらのために最後の輝きを放っておる内に、しっかりと食べてやるのじゃぞ?」
アメはその後で小さくボソッと、「猫舌なら……仕方ないがの?」と私の方を見て言ってたんだが……私は確かに猫の獣人だけど、猫舌じゃないからな?
というか……もしかして、アメもテレサと同じように……おっと。
また、アメに、考えを読まれることだった。
まぁ、そんなこんなでだ。
「そこまで言われんでも、ちゃんと食べるつもりだったのじゃ。ちょっと、覚悟が足りなくて、足踏みをしておっただけなのじゃ」プルプル
足踏みというよりは、どちらかと言うと身震いをしていたんだが、テレサは遂に覚悟を決めたようで……
パクッ……モグモグ…………ゴクン……
と、しっかりと味と触感を味わって、自分で釣ってきた焼き魚を飲み込んだ。
まだ残ってるけど、これで一応は、『狩人』の仲間入りだな。
「んー、美味なのじゃ。これが命の味、というものなのかのう」
そして、食べた魚が美味しかったらしく、満足気に笑みを浮かべるテレサ。
単に魚を釣って食べるだけなんだから、そこまで気にしなくてもいいと思うんだが……そう思ってしまうのは、狩人としての、私の感覚が鈍りかけてるからなんだろうか……。
それから私は、最近の自身の素行を思い出すように空を見上げた。
今日は何回も、考えが顔に出てる、って言われて、それが微妙にショックだったからな。
そんな私が見上げた空からは、すでに太陽の気配がすっかりと消えて、先程まで頭の上辺りにあったはずの月も、大分傾いてきているようだった。
半月が残っているせいで、まだ黒くはなっていない空も数刻後には、透き通るような真っ黒な色の空に変わることだろう。
その時になったら……いよいよ今回のキャンプで企画しているメインイベントの始まりだ。
あと1話で終わるんだろうか……。
書きたいことは決まってるんだけど、その後、どうやって次の筆者にバトンを渡すか……それが、すこし気がかりかもしれない。
……ところで、だ。
こちらの話も、本編のテレサの書き方に習って、『・・・』を三点リーダーにすることにした。
好きで書いてるだけなんだから、あまり気にしなくてもいいと思うんだが……まぁ、見やすいことに越したことはないからな。
こちらがサイドストーリーである以上、私は本編に従うだけさ。
追記…………
ここよりも前の文でも、三点リーダーの修正を入れてみた。
妙に点の数が多くて、一部修正しなきゃならない部分があるかもしれないが……それはそのうち、テレサがするだろう。
……たぶんな。




