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ニート狐たちのフォックストロット  作者: ポテンティア=T.C
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1-23 かりゅうどのあさ?2

山を下った際、私はいつも通りの日課を始めた。

周囲が見渡せて……逆に反対側からは見にくい場所。

そんな木を見つけて、一気に私は駆け上ったんだ。


「……猫じゃ」


「猫じゃのう……」


おっと……二人が私に羨望の視線を向けているようだが……(おだ)てても何も出ないぞ?


「……あやつ、降りられるのか?」


「さぁのう……。カッコつけて登ったは良いが、降りられなくなっておる可能性も否定はできぬかのう……」


そっちだったか……。

日課なのに、降りられないとか、普通あり得ないだろう……。


「……なんじゃろう……。狩人殿が、急に気落ちし始めたような気がするのじゃが……」


「そうか?ワシには、一息ついておるようにしか見えぬが……」


なんか、好き勝手言われてるな……。

……まぁ良いさ。

さっさとこの日課を終わらせて、無事に降りられることを見せつけてやればいいだけのことだからな。


さて。

私が何故、木の上に登ったのか。

……話せば長くなるんだが、この付近の山はどうも治安が悪いみたいなんだ。

もしかしたら、この山だけではないかもしれないけどな。


まぁ、それはともかくだ。

私が山から降りようとすると、けたたましい音を上げつつ赤いライトを光らせた白と黒の車から、随分と体格のいい兵士のような暴漢がやってくることが、たまにあってな……。

だから私は、彼らと鉢合わせにならないように、山から道へと出る際は、こうしていつも警戒をしているわけなんだが…………それがいつの間にか、日課になってしまった、というわけさ。


「……うん。いないな」


どうやら、半径1kmの範囲に、奴らの姿は無さそうだ。


「よし。じゃぁ行くか」


シュタッ!


『おぉ……』


「……2人とも、何でそこで驚くんだ?」


「いやの?猫といえば、木に登ったら降りられないと相場が決まっておるのじゃ」


「そうじゃのう。お主の動きがあまりに猫に似ておったから、てっきり降りられなくなっておるかと思ったのじゃが……それはどうやらワシの杞憂だったようじゃな」


何でだろう……。

なんか、テレサが2人いるような……。

前者がテレサで、後者がアメ…………声も違うから、直ぐに分かるはずなんだが、2人とも雰囲気が近いんだよな……。


まぁ、それはいいさ。

問題は猫のことだ。

こいつら猫のことを、実は馬鹿にしてるだろ?

……いや、私の事か?


「……良いかお前たち。あり得ない話だが……猫が木から降りられない動物だったとしよう。……もしもそうだとすれば、今頃、その辺の木に、猫がたわわに実っていなきゃおかしいとは思わないか?」


「猫が……」


「たわわに……」


……いや、こいつら絶対、変な想像してるだろ……。

私も言ってて変な想像してるから、間違いないな……。


「……まぁいいさ。変な奴らが来る前に、早く山を降りてしまおう」


そして私は、未だに『猫の実る木』を想像しているだろうアメと、いつの間にか彼女の背中にいることが普通のことに思えてしまうようなテレサたちの先を先導するように山道を歩いて行った。




……で、山から降りたところで……


「……すまぬ、テレサ。重い……」


アメが音を上げた。

……でも、よくやったと思うよ。

相当な距離があったはずなのに、プレートアーマー並に重いだろうテレサを担いで、ここまでやってきたんだからな。


「う、うむ。無理するでない。ここまでくれば、妾も自力で歩けるのじゃ」


そんなテレサの言葉を受けてか、アメは彼女のことをゆっくりと地面に降ろした。

そして、家に向かって歩き出したんだが……


「……はぁ…………やっぱり、痛いのじゃ……」


数メートルも歩いてないところで、今度はテレサが音を上げた……。


「……テレサ。運動しような?」


「うむ……。返す言葉も無いのじゃ……」


「……仕方ない。ワシが家まで背負っていこうぞ?いつも世話になっておるしの」


そう言って再び背中をテレサに差し出すアメ。

……いや、無理は良くないだろう。


……ん?

こんなところにいいものがあるじゃないか。


「なぁ、2人とも?これは提案なんだが……」


そう言って私は、道路の縁に立っていた、丸い板と四角い板と、そして棒で作られたオブジェを指差したんだ。

要するに……


「……バスに乗って帰らないか?」


……ということさ。


「ばす?」


と反応を返したのはアメだ。

以前、温泉に入った時に『バスに乗ったことがない』と言ってたんだが……この様子だと、まだ乗ったことが無いんだろうな……。


「ほう。それは良い案なのじゃ。……じゃがのう……・」


そう答えたのはテレサの方だ。

……何だろうか?

……もしかしてワルツみたいに、バスに乗りたくないのか?

それにしては『良い案』と言ってたような気がしたんだが……


「……妾たち、一文無しなのじゃ」


「…………財布忘れたのか?」


「いや、違……わなくもないんじゃが、違うのじゃ……。複雑な理由があってのう……」


「……?まぁ、いいさ。3人合わせても、終点まで乗って900ゴー……円だ。そのくらいの金額なら、私が出してやるよ」


『よ、良いのか?!狩人殿?!』


と、大げさな様子で喜ぶテレサとアメ。

自宅近くのバス停までなら、一人あたり200円くらいしか掛からないと思うんだが…………私の金銭感覚がおかしいのだろうか?


「いや、全然構わないさ。おっと、早速やってきたみたいだな」


「た、助かったのじゃぁ……恩に着るのじゃ、狩人殿っ!」


「すまぬ。いつかこの埋め合わせはさせてもらうぞ?」


「…………まぁ、気にするな」


なんだろう……。

2人がものすごくお金に困ってる気が…………。


そうこうしている内に、バスがやってきて、


チュウィィィィン……


私たちの前に止まると、


……ガシュー……


……扉が開いた。


「ほら、行くぞ?」


「う、うむ…………。これが、バスなのじゃな……。高級な乗り物のようじゃ……」


「ほれ、アメよ。そこの入り口の機械から飛び出ておる整理券を忘れずに取るのじゃぞ?でないと、狩人殿の財布の中が余計に寂しくなってしまうからのう」


「む?おぉ、これじゃな?」カション


「そうそう、これじゃ」カション


そんなやり取りをして、ポケットの中に整理券を大事そうに仕舞いこみながら、バスに乗り込むテレサとアメ。


……こうしてアメにとっての、初めてのバスの旅(数km)が始まったんだ。

……申し訳ないと思っている。

前回更新してから2週間強。

いい加減更新しないと次の話が書けない、と、テレサからの無言の圧力もあって、急いで書かせてもらった。


さて。

そういうわけで、ここから短い距離だが、アメの初めてのバス旅行が始まるんだ。

以前に、テレサの主殿の車に乗って、温泉に出掛けたこともあったんだが、あの時は辺りが暗くて景色があまり楽しめなかったから、そう言う意味でこのバスの旅(?)は、彼女にとっての初めてのドライブと言ってもいいかもしれないな。


……問題は、この話を書く私が、果たして上手く書けるか、だな。

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