第89歩 小学校の「掟」
Fさんは子供時代に数々の『困難な事件』に巻き込まれます。
もちろん子供ですので事件を予測することも抗うこともできず
只、翻弄されて人間は時に無力であることを
子供のFさんは思い知らされるのでありました。
時代の風潮もございますが昔の大人たちは現在ほど子供を一人の人間としては扱ってくれず身勝手な大人たちに、いつも子供は、おいてけぼりにされておりました。
伺った話の内容から私自身も色々、不謹慎ではないかと思い
「文章にしても良いのでしょうか?」と、お聞きして許可を頂きました。
ですので、この章以降のお話は随分と事実を伏せたりカットしたりしています。
「昔のことですし、今の若い人に知ってもらうほうがいいですよ」
『生きている人間のほうが、よっぽど怖いよ』と世間様は、おっしゃいますが
それは本当なのでしょうか・・・
終戦後、食べることに必死だった日本国民は復興が進み
『アメリカを見習いましょう』と映画もラジオも宣伝を始めた頃から
日本のベビーブームが始まって著しい人口増加になった頃の出来事です。
Fさんの通う小学校は所謂
『マンモス学校』と呼ばれる生徒数が非常に多い学校だった。
子供の成長に必要な栄養が考えられた給食は大人にとっても子供たちにとってもマイナス点など無い大事な食事だった。
そして子供たちの生活に欠かせないのがトイレだ。
Fさんの通った小学校の男子トイレ。
小は仕切りがあるだけの大雑把な物で個室は15個ほど
ずらりと並んでいた。
そして個室のうち五箇所ほど扉に長い板がバッテンの形に釘を打たれており
『使用禁止』の紙が貼られていた。
そして学校には厳しい【掟】があった。
【絶対に一人でトイレに行ってはならない】
トイレのそばには用務員室があって、いつもおじさんが見張っているほどの厳しさだった。
【掟】は男子・女子共通で職員用トイレを使用する先生方までも
最低二人連れで使用していた。
小学一年生になったばかりのFさんは、
ある日、掟のことなど忘れて一人でトイレに入っていった。
トイレには誰もおらず広い空間にポツンと一人で小の用をたしていた。
我慢していたのもあって慣れないトイレに緊張し、なかなか出ない。
「あれ、おかしいなあ、でないぞ」モノをおさえながら時が来るのを待っていると後ろから、ミシミシと音がする。
気にせずにいると
――ミシ、ミシ、ギュ、ギューと異様な物音が後方からしてきた。
振り返って個室を見ると
バッテンの板がされているトイレのドアが中から押されて板を打ち付けていた釘が抜けてくるのを見た。
――ギュ、ギュギューー
その時、待っていた放水が開始されたが今度はバッテンの板が
―バタリと音を立てて倒れると開閉可能な個室のドアが
すべて一斉に
――バタン、バタン、バタ!バタ!バタ!バタ!バタバタバタバターッ!
もの凄い音を立てながらFさんの後ろで、ほとんどの扉が開いたり閉じたりした。
びっくり仰天したFさんは
「うわあああああああーっ!」大事なモノを押さえたまま、
走る放水車と化して廊下に飛び出した。
廊下に放水をしながらFさんが、びちゃびちゃ走っていると
騒ぎを聞きつけた用務員のおじさんが廊下に飛び出してきて
「コラァッ!一人で、はいるなあーっ!」と怒鳴られた。
二人以上で入れば怪奇なことは起こらなかった。
トイレに行きたくなると
「トイレに行きたい人ーっ」誰かを誘った。
その後Fさんは卒業するまで【掟】を守った。
噂では、あのバッテンの個室は下の穴から手が出てきて足首を掴み引きずり込もうとする事件が多発して使用禁止なのだと聞いた。
Fさんが卒業して間もなく校舎の老朽化という理由で小学校は取り壊された。
私は話を聞いていて
「トイレの手がでるというのは変質者の人間とか昔の都市伝説ではないのですか」聞くと
「いやいや、それが本当なんです、大変なことになってるの見てますから
年に何回か引きずり込まれてトイレに行ったまま戻ってこない生徒が出ましてね、それが原因で早退して、しばらく学校に来なかったり
現に保健室には、たくさんの下着や服の着替えが用意されていて
夏は運動場などの水場で体を洗浄できますが、冬の事故に備えて用務員室横の目立たないところに風呂場も新設されたり・・・
大体、先生たちが一人で入らないんですよ・・・事故防止のために校舎内すべてのトイレ入口には
【絶対に、ひとりでトイレは使用しないこと】と貼り紙がありましたから余程悪い土地に立てたんですよ、あの学校・・・・」
かつて怪事件の頻発した小学校があったことも
1500人以上の在校生、全員が【掟】を守って小学校生活を送っていたことも
今、忘れ去られようとしている。




