096-水底の行軍
勇者軍がメタラスに侵攻する前日。
俺は二百体の選り優りのハイブ兵を集めて、湖の中へと入った。
「(本当に、呼吸はいらないんだな)」
ベノムドミネーターとなった俺は、湖底でも活動出来ていた。
息を止める必要すらない、水中でも問題なく活動できるように弁があるようだ。
「(とはいえ...)」
俺は先の見えない湖の底で立ち止まる。
俺が立ち止まれば、大型ハイブ兵が前に出て壁になる。
ますます前が見えない。
「(先の見通せない湖を二日ほど行軍というのも、中々...アレだな)」
自分で思いついておいてなんだが、無茶な作戦だ。
ハイブ兵共には周囲を観測できる手段があるようだが、ベノムドミネーターの俺にはそれがない。
だが、それくらいしないとグロス・ザクラスには近付けない。
フィレーヌを通して観察したところ、あの都市には防衛術式が七つ置かれていて、中央の七つめの防衛術式と連携している。
外からの攻撃に対しては完全に無敵だ。
かといって城内に侵入するには、魔導砲台や魔導クロスボウ、そして魔王軍儀仗隊からの攻撃を受けながら城門を突破しなければならない、無理だ。
「(...)」
湖底をただ歩いていると、俺は自分が何をしているか分からなくなってくる。
早く魔族共を虐殺しなければ。
そして魔王を堕落させ、グロス・ザクラスであいつらが来るのを待つ。
そうでなければならないのに、俺は何をしている?
「(いや、いい)」
正面切って殺し回るなら、七海にアルーン湖をカチカチに凍らせてその上を走り抜ければいい。
こうしてわざわざ索敵の外から潜入するのは、誰も逃さないために過ぎない。
俺が魔王という未知数の相手に挑み、勝てずに逃げ帰ったとしても、首都の機能を確実に破壊できればそれでいい。
「偽」勇者軍が首都に到着すれば、教団員が残りを掃討する。
そいつらを全員魔王に特攻させて、疲弊したところで堕落させる。
「ソウイウ訳ダ」
水底で、俺は一人呟く。
どうせ誰も聞いていない、ここにいる奴らは声でコミュニケーションを取らないからな。
あ、そうだ。
俺は思い立ち、ネットワークを通してハイブ兵共に呼びかける。
『抜き打ちだ、優先攻撃目標を各スクワッド指揮官は言え』
『外周部防御塔デス』
『東部大兵舎デス』
『南部城壁ヘノ送魔ラインデス』
『中央部市場デス』
『北部集積倉庫デス』
『西部防御塔デス』
『魔王城城門デス』
うん、よし。
指揮官に限定したから、勝手に動く奴らと俺の直属は何も言わない。
小型のほとんどは無作為に動いて荒らし回る役目だからな。
『問題ない、活躍を期待している』
俺はそう言うと、再び前を向いた。
この先何がどうなろうと構わない、魔王さえ堕とすか、最悪他の誰かを魔王に据えればいい。
リュドミラあたりがやってくれるだろうか。
ちょっと仕事を任せすぎだな、生きていればフィレーヌにやらせればいい。
どちらもこの世界にしては優秀だからな。
よし、急にやる気出てきたな。
あと一日歩けば到着だ。
メタラス攻略開始と同時に仕掛ける。
それが終わったら暫く充電期間を設けようじゃないか。
↓小説家になろう 勝手にランキング投票お願いします。




