094-事後報告
「そうか」
俺は報告を受け取り、頷く。
どうやらパラノラスの防衛は恙なく終わったらしい。
街やその中で迎え撃つのではなく、遮蔽物のない平野で仕掛けることで逃げ場を逆に奪う...というやり方らしい。
俺にはよくわからなかった。
「つまりは、損害はないということだな?」
『はい、それに...皆で餌を平等に分配でき、喜んでいます』
一万人の魔族兵だからな。
ハイブ兵大型全員に一人ずつ分け与えてもまだ余る。
功績で報酬を区別しないハイブ生物達は、残ったものを争わずに食い尽くす事にしたようだ。
小林の〈無限巣窟〉の中も潤ったようだな。
「ああ、無償の奉仕を望んでする事と、それに報酬を与えない事は全く別の問題だからな」
俺は伝言がわりの虫にそう言った。
こいつを通して向こうに伝わり、向こうからも返事が帰って来る。
『その際、深淵教団の協力を受けました。魔族の魔法を封じたのです』
「そうか」
俺が使ったのと似たやつだろう。
魔力の流れを分断し、魔法に必要な魔力を集めるのを妨害する。
「リュドミラにありがとうと伝えておいてくれ」
『はい』
深淵教団とハイブの合わせ技はやはり強い。
逆にグレイラインPMCとの相性は悪いだろうな、あっちは単独行動か、しっかりした指揮系統の中でしか行動できないだろう。
「さて...」
俺はティーカップに手を伸ばす。
部屋には俺の他に千葉とフィレーヌが、目を閉じて立っていた。
俺が命じなければ、永遠にそうしているだろう。
「チェックメイトを指しに行くぞ」
「「はい」」
茶の残りを啜って、俺は席を立った。
二人を伴って、外へと出る。
ハイブの完全な巣と化したアノラスは、あらゆる構造物がハイブの作る巣へと変わっている。
この世の終わりみたいな光景だが、今は何よりも頼もしい。
俺は俺のためだけに設けられた通路を辿り、そして螺旋を描くような形で地下へと向かう。
肌が感じる空気が冷たくなって来た頃、俺はこのアノラスが何になったのかを知れる場所へやって来た。
「メリュジーヌ、いい調子だな」
「シュルル〜♪」
やはりハイブはいい。
裏切る心配も、失望する可能性もない。
ストレス無く付き合える。
俺は下を見下ろし、そこで蠢く無数の蟲どもを見た。
ここは前線としてハイブ兵を量産する施設でもあり、もし戦いが長期化すれば、育った蟲どもを永遠に消しかけてやる。
さらに長期化するなら全ての都市をこうして、絶対に魔王を殺してやる。
できるだけ早く、ここであいつらを待ち受け...そして、全てを奪ってやるために。
「フィレーヌ、グロス・ザクラスに偵察へ行け。もし疑いをかけられれば、本来の性格のまま振る舞え」
「...はい、ベノムドミネーター様」
そうとなれば話は早い。
グロス・ザクラスの情勢を掴み、そこから行動を起こす。
「千葉、お前はサバンへ戻り、勇者どもがこちらに来るなら、時間を稼げ」
「はい」
もとよりアジラス以北は俺たちの勢力圏にあるから、やりようはいくらでもあるがな。
今はただ前に進むことだけを考えよう。
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