092-接近する大軍
―――その頃。
パラノラスでは、七海たちが話していた。
というのも、都市に近づく一万四千の軍団を捕捉したからだ。
パラノラスは勇者軍の支配域に無い事になっているので、都市に受け入れてもいいが、ベノムドミネーターが居ないので、堕落させられない。
よって、都市の外で全滅させるのが肝要と結論付けた。
「いい? あたし達には充分な戦力がある。だから、ハルキもここをあたし達に預けた」
「わーってる。でも、万が一って事があるんだろ?」
「その可能性を踏まえているから、こうして話し合いを設けているんでしょう?」
この場に集っているのは、七海を除けば小林と黒田の二人である。
たった三人で話し合うのは、三人が全員ハイブ兵だからに他ならない。
生まれた頃から同族同士での連携を取ることを学んできた彼女たちは、他の組織と手を組む状況に対応できない。
よって、三人で頭を突き合わせて作戦を練り、それをリュドミラたちに伝えることで全体を動かす。
ハイブ兵の殆どをアノラス攻略とケラス防衛に使っている現状、主戦力のほぼ全てが教団員となる。
教団員は一応三人の指示は聞くが、ハイブ兵のように統率が取れている訳ではない事はこの場にいる全員の知るところだ。
「でも、話すことはないよなあ」
「負けるはずはない、からね...」
黒田の屍兵と、七海の氷河圏。
組み合わせれば、どんな軍団も勝負にならず全滅する。
スキル単体で考えればそうだが、イレギュラーには備えないといけない。
彼女たちは、ベノムドミネーターが負けるとは考えていないが、自分たちが負ける可能性が無いと言えるほど傲慢ではないのだ。
「そもそも、負け筋なんてあるの? 私たちはもう魔族を食べたんだから、その性能の底も知れたはず」
「魔法の底が知れないじゃん? ベノムドミネーター様の別の御姿の力。あれが魔法なら、戦った瞬間に殺されるかもしれないって事っしょ?」
「そんな規模の魔法、ハルキ以外に使えるのかな?」
「魔王幹部の質が窺い知れない。ベノムドミネーター様なら勝てるかもしれない、でも私達で及ぶかどうか」
最大の懸念事項は、魔法である。
魔族の平均はそんなに高くなく、人間相手ならば圧倒的だがハイブ軍から見ればあまり大した事は無い。
しかし、強力かつ広範囲を殲滅できる魔法が登場すれば、遠距離攻撃手段に欠けるハイブ軍は一気に瓦解する。
「ふふ、そのよう懸案をされているのなら、無意味ですよ」
その時、部屋に盆を持ったリュドミラが入って来る。
教団員の黒い正装を身に纏っている。
深淵教団において白は下位の者の色の為だろう、聖女に任命されたリュドミラは最高級の衣装を使っていた。
「我々深淵教団の魔法をもってすれば、異教徒がどんな魔法を使おうともあなた方をお守りできます」
「それは本当なの? 確実じゃない事を言わない方がいいと思う」
「魔族の魔法は位階の低いものですので、基本的には入ったばかりの信者が使う事の出来る魔法でも防げます」
リュドミラはその後、如何に神が素晴らしいかを説きながら説明を続ける。
改変された過去ではいち教団員だったので、聖女としての経験は低くとも信者としては一流である。
「如何でしょう、ハイブ兵団も、神の教えを信じてみては...」
「それ以上言うなら、私はあなたを黙らせる」
少し調子に乗りすぎたところで、リュドミラの喉元に刃が突きつけられる。
擬態を解いた小林が、爪である刃でリュドミラを殺そうとしていた。
命令違反なので、本当は無理なのだが。
「...すみません。ハイブの方々も、我々が信じる方と同じ方を崇めていらっしゃるのでしたね」
「崇める? 違うよ、あの人は巣の王。崇めるとか、讃えるとかじゃない。命令は絶対、だよ」
両者が本来の形とはだいぶ違う異文化交流に花を咲かせている間にも、時計の針は進んでいく。
睡眠がほぼ不要なハイブ兵ならばともかく、リュドミラは魔族であるため、夜になれば腹が減り、飯を食えば眠くなる。
彼女は太陽が完全に沈む程の頃に別れを告げて出ていき、情報を得た三人は会議を続けていた。
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